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その日の夜、集められたメンバーは、デュランダルから今後の方針を伝えられた。

「首領の了承も得られたし、暫くはこれで回していく。まずイヴァンは一ヶ月の休暇。」
「え・・・、」
「俺は明日から大口の取引があるから、交渉を終わらせて現地で依頼を果たしてくる。俺が不在の間はアレクに依頼の振り分けを任せ、何かあれば首領に報告をするように。首領、何か困ったら、アレクに相談を。」
「うん、分かった。」
「依頼は最小限になるよう予め整えておいた。緊急の依頼はアレクの裁量に任せる。拠点が無人になる事態は防ぐように。それから今回、俺にジュディスを同行させる。」

顔色を変えたのは、やはりと言うべきかイヴァンだった。責めるような目でジュディスを見たが、極力気付かない振りをする。それに焦れたのか、イヴァンは拳を固め、口を開いた。

「・・・デュランさん、休暇はいいから、俺が同行したい。」
「なぜ?リタに会いに行く機会だよ?一ヶ月ゆっくりしてきなさい。お前はとりわけ働いていたからね。」
「そうだよ、イヴァン。リタもきっと会いたがってるし、水入らずしてきなよ。」
「私もさんせーい。・・・色々考えだす前に、気分転換しておいでよ。」

カロルは純粋にリタとの仲を案じてくれているが、デュランダルとイルーチェが違うことは明らかだ。デュランダルはジュディスから何かしら聞いただろう。イルーチェに関しては、妙に察しがいいから、何か気付いているのかもしれない。味方がいない現状に、イヴァンは憮然と黙りこんだ。

「お父さん達はどのくらいかかりそう?」
「今回はバウルに助けてもらう予定はないから、二ヶ月ほどかな。楽しく旅をしてくるよ。ねえ、ジュディス。」
「・・・ええ、おじさま。」

実際、楽しみで仕方がない。イヴァンの反応は怖いが、明日からはデュランダルと二人旅だ。その間、この忙しい人を独り占めできるのは素直に嬉しい。

「ジュディス、準備をして早く休みなさい。ルーチェ、手伝ってあげるといい。」
「うん。あーあ、明日からジュディスいないのかぁ・・・。寂しいから一緒に寝よ?」
「ええ。」

イルーチェとジュディスは連れ立って立ち上がり、カロルも「僕も手伝うよ。」と一緒に行ってしまう。可愛らしいことだ、と眺めていると、レイヴンが複雑そうに溜め息を吐いた。

「・・・なんか取り返しがつかない感じ・・・。可愛いジュディスちゃんが・・・。」
「・・・運命とは残酷なものだ。」
「なんだ、お前達は。深刻な顔で。」
「誰のせいだ、誰の・・・!」
「誰だ?」
「あんただよ!まったく親子揃って変に鈍いんだから・・・。」

ぶつぶつとぼやくレイヴンに意味が分からず「何を言いたいんだい、お前は。」と言うと、レイヴンはこうなったら・・・と意を決した。

「だから、あんたみたいなとんでもない男と二ヶ月一緒にいたら、ジュディスちゃんがあんたに惚れちまうかもしれないの!」
「・・・ジュディスが?俺に?」

きょとんと目を丸めたデュランダルは、ぱちぱち数回瞬きをしてから、盛大に笑いだした。

「あっははは!お前・・・まだそんな妄想をしてるのかい?馬鹿馬鹿しい。言っただろう?俺がいくつだと思ってる。親子ほどに歳が違うんだぞ?」
「歳だけな。あんた俺と同じくらいにしか見えないっつうか・・・下手したら俺より若く見えるかも・・・。」
「・・・お前は一度、自分がどれだけ並外れた美形か鏡と向き合ってこい。」
「俺が並ぶものなく美しいことは理解しているよ。だいぶ老けたよねぇ。」
「・・・えっと、どこが?そんな皺ひとつない顔で?」
「最近目が悪くなったかな。さすがに老眼かと思ったが、ただの近視だったよ。あはは。」

あははじゃねぇよ、笑えねんだよ、とレイヴンは項垂れる。まったくこの男は何も分かっていない。

「・・・つうか、昼から気になってたけど、あんたジュディスちゃんに手ぇ出したんですか・・・?」
「馬鹿を言うな。あんなもの冗談だ。」
「ジュディだいぶ動揺してたぜ?あのジュディが。」
「俺ほどに美しい男を間近にして狼狽えない女はいないよ。」
「いや・・・、まあそうだけど・・・。」
「まあやらかしてしまったのは間違いではないがね。ついルーチェにするのと同じ感覚で・・・。さすがに反省したよ。」
「な、何を・・・!?」

この男がやらかしてしまったなんて、普通ならば絶対に許されないことに間違いない。レイヴンがごくりと喉を鳴らすと、デュランダルは書類を置きながら言った。

「熱を出した時に、風呂に入りたいようだったから身体を拭いたんだが、年頃の女の子だから怖がらせてしまった。」
「・・・え・・・、・・・それって背中の話?」
「上半身の話だよ?」
「・・・ま、まさかお前・・・、ま、前も・・・か・・・?」
「そうだけど?」

あっけらかんと答えたデュランダルに、男達は頭を抱えた。何が、そうだけど?だ。デュランダルでなかったら通報ものだ。

「・・・大将・・・、遅かったわね、俺達・・・。」
「お前という男は・・・!」
「風呂に入れるわけにはいかないだろう?」
「あんた!バカ!ほんと・・・、っああ・・・!」
「やっぱジュディ凄かった?」
「なに聞いてんの、青年。」
「・・・ジュディスは泣いていなかったか?」
「泣いてはいなかったな。何もしないのかは聞かれたが。」
「覚悟しちゃってるじゃないの・・・!」
「だから怖がらせてしまったと反省して謝ったよ。凄かったかは・・・覚えていないな。」
「・・・覚えてねえってすげぇよ、逆に・・・。」

あの魅力溢れる身体を前にするどころか触れただろうに、覚えていないなんて、彼には本当に邪な気持ちはなかったのだろう。恐ろしすぎる。

「イヴァンに失恋しちゃって弱ってるとこに、無頓着なこの人の限度のない可愛がりか・・・。」
「ぶふ・・・っ!な・・・っ、んで、知って・・・!」
「気付かれてねぇと思ってんのはお前らだけだぜ?」
「な・・・!」
「むしろよく気付かれてないと思ってたよねぇ。」
「・・・むしろなんで気付くんだよ・・・。」

噎せた感覚を消すように胸を撫でていると、アレクセイが「とにかく。」と仕切り直すように言う。

「イヴァン、お前もリタに会って気持ちを整理してくるように。中途半端な真似は許さん。」
「・・・はい、兄さん・・・。」
「デュラン、お前もいたずらに期待を持たせるな。・・・言っても無駄だが。」
「期待を持たせてはいない。普通にしているだけだ。」
「俺ついてったほうが・・・、・・・無駄か・・・。」
「無駄だ、おっさん。もうなるようにしかならねえよ・・・。」
「だから杞憂だと言うのに。」
「だから何を根拠に言っているのだ、お前は・・・。」
「自分より歳上の娘がいる時点で対象外だ。」

普通はそうだろう。そもそも年齢差の時点で有り得ない。普通の五十間近の男はもっとくたびれて老けているし、脂ぎっているし、体型も崩れて恋愛というものから遠ざかっているからだ。
だがデュランダルは生気に満ちて若々しく三十代前半から半ばくらいにしか見えないし、清潔感に溢れて美しく、体型が崩れるどころか未だ彫像のように完璧。恋愛の対象から遠ざかるわけもなく、未だジュディスと同じ年代の若い女性達から、きゃあきゃあと騒がれているのだ。どうか何事もなく、旅が終わりますように。皆は無駄とわかっていても、そう願わずにはいられなかった。
だがデュランダルはといえば、欠片もそんな心配をしてはおらず、ただ依頼料をどれだけもぎ取れるかだけを考えていたのだった。




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