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USJ襲撃事件の翌日は臨時休校となった。
念の為家から出ない様にと連絡を受けたのだが、五分後にがらりと窓が開く。
『自宅待機とは』
「家で待機してんだから文句ねぇだろ」
『爆豪じゃなくて白露家なんだよなぁ』
窓を跨いで入ってきた勝己は、すたすたと歩いて来て私の手許を覗き込んできた。
数学の予習と復習をしているのを見て、部屋に引き返していく。
次に現れた時には勉強道具を持っていて、ローテーブルに置いた。
『勝己、これ判んない』
「代入間違ってんぞ」
『えっ』
すっと指が間違えている箇所を指した。
そこを見直して、間違った数字を直す。
これでどうだと勝己を見れば、無言で頷かれた
『ありがとう』
「ン」
二人用のローテーブルで、何故か横隣で並ぶ所為でめちゃくちゃ狭い。
結果肩がべったり当たる訳だが、利き手が当たらないのでセーフと言えた。
左利きで良かったと思う。右同士でこの距離は絶対煩わしい。
『夕方に組手付き合ってくれない?』
「お前を投げ続けりゃ良いんか」
『やめて。柔道じゃなくて護身術教えて』
あんたちょいちょい人投げるもんな。でも私にそれは無理。非力な女子にも出来る護身術を鍛えたいの。
そう返した所で、勝己がシャーペンを止めた
「USJん時の立ち回り気にしとんのか」
『…一人で男複数とかってなっちゃうとさ、まず気持ちの面からして不安定になるのね』
味方は居なくて、嫌な視線ばっかり向けられて。
見られているだけで、べっとりと身体に何かを塗りたくられている様で不快だった
『取り敢えず自分を奮い起たせようと思って、勝己を真似たんだけど』
「へぇ」
『くたばれ!って叫びながら吹雪かまして、そのあと護身術でどうにかして』
「おう」
『でもやっぱりあくまで護身っていうか、めちゃくちゃ大変だった…』
「まぁそうだろな。お前に教えたのはあくまで護身用だ。攻撃力が欠けてる」
あれは相手が弱かったからいけただけで、勝己レベルが居たら秒殺されていたに違いない。
『だから、もう一歩踏み込んだ格闘技を覚えた方が良いかなって』
そう呟くと、勝己は頭の後ろを掻いた。
数秒宙を見て、それから静かに紅い目が此方に向けられる
「…考えとく」
『ありがとう』
そのまま数学の予習復習、課題、他の教科の復習を一通り終わらせて、勝己を連れて一階に降りた。
キッチンで夕飯の準備をしていた母さんが、此方を見てふわりと笑う
「勝己くん、いらっしゃい」
「っス」
『母さん、今日のご飯なに?』
「唐揚げしようかなって」
『手伝うよ。勝己、テレビ見てて』
「いや、俺もやる」
「良いのよ勝己くん。時間早いし、鶏肉を浸けるだけだしね。
昨日も刹那を護ってくれたって聞いたし、ゆっくりしてて!あ、ご飯食べてく?」
「…親に聞いてきます」
「はーい、行ってらっしゃい」
二階に戻っていった勝己を見送り、鶏肉の処理を手伝う。
にんにくと生姜を持ってきた母さんの白い髪を見て、ふとクラスメイトの髪を思い出した
『氷雪系の個性の人ってさ、髪の色は大体白なのかな』
「そうかもね。でも全員が全員とは言い切れないんじゃない?あんたも父さんに似て黒髪で青紫の目だし。
優輝だって私に似てるけど、個性は父さんと同じでしょ」
私は父親似だが、個性は母さんに似たものだ。弟はその逆。
つまり100%髪色まで遺伝するとは限らないという事だろうか。
「どうしたの、急にそんな事聞いてきて」
『いや、クラスメイトに髪が半分白い子が居てさ。その子も母さんみたいに灰色の目だから、氷の個性はそうなるのかなって気になって』
「へぇ。その子の名字は?」
『轟って子。赤と白の髪の男の子だよ』
醤油に生姜とにんにくを加えたボウルに、切った鶏肉を入れていく。
菜箸で混ぜてラップをし、冷蔵庫に入れた。
『良し、出来た。他に何か手伝う事ある?…母さん?』
返事がないのが気になって振り向く。
目が合った母さんは、何処かぎこちなく笑った
「何でもない。ありがとう刹那、お手伝いはもう良いから、勝己くんの所行っておいで。
今日も訓練するんでしょ?」
『…うん、判った』
様子が可笑しい気もするが、気の所為だろうか。
首を傾げつつ、部屋から顔を出した勝己の許に向かった。
「お前の場合、先ず圧倒的に筋力がねぇ」
『はい』
「プロテイン飲まそうが筋トレさせようが筋肉が付かねぇ。これはもう体質として受け入れろ」
『…はい』
冷静に言われ、己の腕を睨み付ける。
幾ら鍛えようともちょびっとしか力瘤の出来ない腕。確かに女性は筋肉が付きにくいというけれど、私のこれは少し異常だ。
「だから、個性を使うのも考えて組手やんぞ」
『えっ』
勝己に個性使うの?
固まった私を見て、勝己は首を振る
「直接当てるとかじゃねぇ。掴み掛かる時のブーストで吹雪を出すとか、そういう使い方だ。
お前、掌は良く使うけど他はそこまでだろ。
だからどっちかっつーと、全身の細かい出力調整がメイン」
『今よりもっと細かく出来る様になれば良いんだね?』
「おう。組手は個性なしでやる。
流石に個性使ったら危ねぇ、お前が」
『何故』
「秒で爆破する自信がある」
『サイテー』
訓練
刹那→小休止。
筋肉が付きにくい体質。肉体のスペックが呪術と同じなので、どうやっても一般女性の平均以上にはなれない。
母親が何に固まったのかは気付いていない。
爆豪→小休止。
筋トレでしっかり筋肉は付いている。
母娘の会話を聞いてた。