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翌日。
何時もの様に家を出て、勝己と学校に向かう。見た感じマスコミは張っていない様だった。
それに安心しつつ教室に向かい、席に着く。


「皆ー!朝のHRが始まる!席に着けー!!」


「着いてるよ。着いてねぇのオメーだけだ」


一人で騒いでいた飯田くんが座ったところで、扉が開いた。
そこから入ってきた人物にぎょっとする


「お早う」


「相澤先生復帰早ぇ!!プロ過ぎる!!」


「先生、無事だったのですね!!」


全身包帯だらけ、おまけにふらついている人を果たして無事と言うのだろうか。
首を傾げていれば、よろよろした先生は教壇に立った。
…両腕吊ってるな。あれでどうやって扉開けたんだろう。


「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」


「戦い?」


「まさか…」


「また敵がー!?!?」


先日の襲撃を思い出してぞっとする。
次もあの寄せ集めで来るとは思えない。不安に眉を下げた時、先生は言い放った


「雄英体育祭が迫ってる!!」


「「「クソ学校っぽいの来たあああああ!!」」」


ほっとした。良かった、敵の犯行予告が来てるとかじゃなくて…
だが周りはそうじゃなかったらしい、あっという間にざわついていく


「待って待って!
敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」


「逆に開催する事で、雄英の危機管理体制が磐石だと示す…って考えらしい。
警備は例年の五倍に強化するそうだ。


何より雄英の体育祭は────最大のチャンス。


敵如きで中止して良い催しじゃねぇ」


「いや、そこは中止しよう?体育の祭りだよ…」


小声で呟いたのは峰田くんだろうか。
彼の言葉に反応したらしい出久が、驚いた声を出す


「峰田くん…雄英体育祭、見た事ないの!?」


「あるに決まってんだろ。そういう事じゃなくてよー…」


まぁ峰田くんが言いたい事も判る。
でも此処の規模と目的を考えると、中止出来ないというのも理解出来た。


「ウチの体育祭は、日本のビッグイベントの一つ!!
嘗てはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。
今は知っての通り、規模も人口も縮小し、形骸化した…」


そこで体育祭が全国中継である事を思い出し、こそりと前に座るたんぽぽ頭に話し掛けた


『勝己のトコ録画ある?』


「なんで」


『いや、体育祭の対策として前の映像見たい』


ウチも見てはいたものの、録画まではしていないのだ。
なので聞いてみれば、ちらりと紅い目が此方を見て、それから微かに顎を引いた


「メシの後に俺ン家」


『判った。ありがとう』


姿勢を戻す。
相澤先生の方にしっかりと顔を向けた


「そして日本に於いて今“嘗てのオリンピック”に代わるのが────雄英体育祭だ!!」


「当然全国のトップヒーローも観ますのよ、スカウト目的でね!」


「知ってるってば…」


資格習得後卒業後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」


「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよね。
上鳴あんたそーなりそう。アホだし」


「くっ!!」


耳カさんの辛辣な言葉に、上鳴くんが悔しそうな顔をした。


「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。
時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓ける訳だ」


一度間を置いて、相澤先生が教室内を見渡した。


「年に一回…計三回だけのチャンス。
ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ!」











四限目、現代文が終わった所で大きく伸びをする。


『んー、終わった!勝己ー、今日どっち?』


「弁当」


『じゃあ木陰で人の居ないスポット探検に行こう』


教室の後ろの方で切島くん達が盛り上がっているのを尻目に、教室を出た。
前回ピックアップしていた内の一つに向かう。狙い通り人は居なくて、静かだ。


『勝己人が居ないトコ探すの上手いよね』


「お前が下手なだけだわ」


『嘘でしょ』


ベンチに腰掛け、お弁当を広げる。
手を合わせて食べ始めた所で、勝己が口を開いた。


「放課後」


『ん?』


「演習場借りた」


『え、いつの間に?』


「HRの後」


そういえば居なくなってたな。
思い返していれば、卵焼きが拐われていた。
無言で勝己を見つめれば、私のものよりオレンジの卵焼きがやって来る


「体育祭までは基本毎日こうする。トレーニング室で一時間筋トレしてから演習場。お前も来るなら来い」


『判った。あ、ちょっと試したい事があるから個人練の時間メインにしたい』


「わーっとる」


『ありがとう』

















放課後。
早速勝己の借りた演習場で、掌を翳した。
そこから吹雪は簡単に出せる。
じゃあ次、腕は。


『……ぴょろっと』


足の裏は出せる。USJでも大きな威力で使えたし。
ただ全身出せない訳じゃないなら、鍛えて物にした方が良いとは思うのだが…


『うーん、感覚がな…掌とか足の裏って想像しやすいんだけどな…』


腕が溶けるみたいな、そんな感じだろうか。
何気無くそう考えて────


『っ!?!?!?!?』


腕が、雪になった。
肘から下が崩れる様に白い粒になってしまって、パニックでしかない。


『ひえっ、うでっ、えっ、えっ?なんっ』


取れた、腕。どこ。腕が、ない。ない。
ていうか待って、身体もどんどん────


「落ち着け馬鹿」


『あうっ』


べしっと頭を叩かれて、はっと顔を上げた。
そこには呆れた顔の勝己が立っていて、安堵で目の前が歪む。
堪らずしがみつき、大声を上げた


『かっ、勝己ぃ!!
死ぬかと思った!!!手と足なくなった!!ゆき!雪に!!わたしとけた!!!』


「ンでガキの頃にやらかしそうな事態になっとんだ…お前雪女だろ、全身雪になれるか試した事ねぇんか?」


『ない!!人間に戻れない自信があった!!!』


「ンだそのクソみてぇな自信は」


宥める様に大きな手が頭と背中を擦る。
すんすん言う私を呆れた様に見下ろして、彼は言った


「取り敢えず、手だけやってみろ」


『なんで…』


「それ使えりゃ物理無効人生送れんぞ」


『がんばる』


物理無効とかすごい。やばい。かっこいい。
途端に目をキラキラさせたであろう私を見て、勝己が「単純…」と呟いた。














翌日の放課後。
ミイラマンを目の前にして、私は頭を抱えた


『全身を!雪にするのは!!怖過ぎる!!!』


「誰が俳句詠めっつったよ」


しれっと勝己に突っ込まれ、ぐっと口をへの字にする。
良く考えて欲しい。自分の身体が崩れて、人の形を保てなくなるという感覚を。
私は腕と足だけで怖かった。全身なんて想像するだけで怖過ぎる。
うだうだと拒否する私を、相澤先生が睨み付けた


「おい、時間は有限。早くやれ」


『あい…』


泣く泣く目を閉じ、想像する。
大丈夫、勝己も相澤先生も居る。もし戻れなくなりそうでも、相澤先生が戻してくれる。


『………』


私の全身が、端からぽろぽろと雪の粒に変わる。
腕も、足も、身体も、髪も、頭も、全部雪に変わって────


「出来てるぞ、白露」


『』


本当ですか。
出した筈の声は出なくて、ああ、声帯も雪になっているからかと気付いた


「刹那、判るか。此方に動いてみろ」


勝己が手招きしたので、ふわふわする身体で近付いてみる。
上手く出来たのか、大きな手がそっと撫でる様に動いた。
恐らく雪になった私を撫でたんだろうけど、感覚はない


「白露、手や足だけで良い。元に戻せるか?」


相澤先生に言われ、どうすれば良いんだろうと首を傾げた。
ふよふよと浮かんだままでいれば、勝己が目の前に手を差し出す


「俺の手に手を乗せるイメージしろ」


あ、そっか。
私の身体をしっかりイメージすれば良いんだ。
大きくて、硬い掌。
何時も手を引いてくれるその手に乗せられた、自分の手を想像する。


じんわりと、全ての感覚が戻ってくる。


暖かな掌。踏み締めた砂利の感触。
紅い目を丸くした勝己に、笑みを向けた


『ありがとう、勝己』


良かった、戻れた。
差し出された手を両手で握った瞬間、白い肌がカッと赤くなった。
捥げそうな勢いで顔を反らした瞬間、力いっぱい怒鳴られる


「服着ろや!!!!!!!!!」


『えっ』


下を見れば、産まれたままの自分の身体があった。
因みに相澤先生は既に背中を向けていた。
あ、そっか。雪になったから服は勿論脱げて…


うわぁ…やっちまったうわぁ…!!!


慌てて落ちていた自分の体操着に駆け寄り、身に付けた。
それから背中を向けている二人に声を掛ける


『大変見苦しいものをお見せしました…』


「次からは服の中に潜ってから戻る様にしなさいね」


『はい…勝己もごめんね』


突然好きでもない女の裸なんか見せられたら嫌だろう。
そう思って謝罪すると、勝己は赤い顔でそっぽを向いたまま、言った


「見てねぇ」


『えっ』


「見てねぇっつっとんだ黙れやクソがァ!!!」


『あっ、はい』


見てないらしい。こくこくと頷いた所で、相澤先生が口を開いた。


「見た所、雪化と解除はお前が慌てたりしなければ問題はないだろう。
全身を雪に出来るとなれば、やれる事は格段に増える。体育祭までに仕上げろよ、白露」


『はい!ありがとうございました!』







雪女とは








刹那→雪になろうと思った事がなかった。
なったら人間に戻れない自信があった。

爆豪→見てないと言い張る。

相澤→即座に背を向けたので見てない。