12
雪とは。
ころころと転がして雪玉を作ってみたり、固めて何かを象ったり出来るものである。
『ねぇ父さん』
「ん?」
『父さんってさ、飛ぶ時どうやって翼動かしてるの?』
夜。
ビールを飲んでいる父さんの前に座って質問すれば、大きな翼がぱたりと動いた
「んん?飛ぶ時?」
『そう。飛び上がるのは何となく判るんだよ。でも飛んでる時ってどうやって翼動かしてるのかなって』
あれから二日。
気を抜くと人に戻ってしまうものの、凡そ問題なく雪になる事が出来る様になった。
自分が雪である事さえ認識していれば、特にしんどい事はない。
私の場合、体外に冷気を放出すると眠気と霜が降りる様だが、身体を雪にする分には何のデメリットもないらしい。
あ、あるか。気を抜いたら全裸。普通に嫌。人間として死ぬ。
実際何度か勝己の前で全裸になった。爆ギレしていた。
そんな風に雪化をトレーニングする内に、気付いたのだ。
雪は、固められる。
つまり────好きな形になれるという事に。
そこで第一に浮かんだのが、鳥だった。
父さんと優輝は翼の個性。
あんな風に飛べる様になりたいと、前から羨ましく思っていた。
私も今は飛べるけど、やはり飛ぶのに腕が自由なのはメリットがある。
簡単な思い付きではあれど、体育祭に向けてというか、出来る事を増やす為に雪をくっ付けて鳥になってみたのだ。
本番で使えるか判らないが、これからヒーローを目指す上で、きっと無駄にはならないだろう。
『父さん見てて。私鳥になれるんだよ』
ぱっと雪化する。
きゅっきゅと自分をくっ付けて、自然と浮かんだ鳥のイメージをした。
音もなく飛ぶ、夜の狩人。
梟になった私に、父さんが目を丸くした
「えっ!?刹那!?何それ凄いな!?」
『ゆき くっつける できた』
残念ながら、この姿だと片言でしか話せない。
今の私は、156cmの人間を雪に換算した量を、そのまま押し固めて作った梟だ。ぬいぐるみサイズ。
しっかり固まっているので、そうそう壊れる事はない。ただ飛ぶのは苦手。
試しに力強く羽ばたいてみても、次の瞬間には落ちてしまう。
カーペットに落ちそうになった私を父さんが慌てて受け止めた
『ありがとう』
「うーん、個性が発現したての頃を思い出すなぁ」
ひんやりしているであろう私を抱え、父さんが笑った。
私をソファーに降ろすと、翼を広げる様に言う。
それに従えば、翼を見た父さんは顎を擦った。
「ちゃんと飛べる翼だね。風切羽も綺麗に生えてる。と、なると…風に乗る方法が判らないだけじゃないか?」
『かぜ?』
首を傾げると、本物のフクロウみたいに首が動くねと父さんが笑う
「ただ動かせば良い訳じゃないんだ。風に乗るのさ。風に乗る感覚さえ掴めれば、きっと何処までも飛べるよ」
「風に乗る…?」
『そう。そしたらすーって飛べるんだって』
移動中、窓から見えた鳥を観察する。
あんまり翼を動かさず、身体を傾けて、時折翼を上下させていた。
それを見つめる私の腕を勝己が引く。
「おい、転ぶぞ」
『まず気流に乗るって事?』
「聞けや」
『勝己の爆風に乗れば良いのでは…?』
「焼け焦げてぇんか」
呆れつつ返事してくれる勝己に手を引かれるままで居れば、近くに居た梅雨ちゃんに声を掛けられた
「刹那ちゃん、空ばかり見上げてどうしたの?」
『鳥がどうやって飛んでいるのかを研究してるの』
「鳥を?」
『そう。翼を生やせそうって気付いてね。翼は作れたんだけど、上手く飛べなくて』
30cm程度なら浮ける様になった。ただ、飛ぶとなるとダメだ。
上手く風が掴めなくて、落ちてしまう。最悪其方に気を取られ、雪化が解ける。
取り敢えず、風の乗り方さえ掴めればめちゃくちゃ速く飛べる様になるのだ。
USJ襲撃事件の時の様に、緊急時の伝令役を飯田くんだけに押し付けなくて済むだろうし。
あと梟の姿で飛べる様になれば、人間の姿で氷の翼を作っても飛べると思う。まるっきり梟と人間の飛ぶレベル一緒だし。
「そうなの」
呟いて、梅雨ちゃんも一緒に空を見上げ始めた。
それから頬に指を添え、口を開く
「そういえば、尻尾も動いているわね」
『え?』
「翼だけじゃなくて、尻尾も使ってバランスを取っている様に見えるわ」
梅雨ちゃんに言われ、改めて鳥を見る。
そうだ、ずっと翼だけでどうにかしようとしていた。
尻尾なんて考えてもいなかったのだ
『ありがとう梅雨ちゃん!試してみる!』
「ケロケロ、役に立てたのなら良かったわ」
「おい、マジで遅刻すんぞ」
ぐっと翼を動かす。
もう一度、もう一度。
ふわりと浮き上がった身体。怯える事なく翼を広げた。
お腹の下に確かにある。それに逆らわず、乗る。
────すっと、身体が動いた。
『とべた!!!』
「おー。やっとか」
『とんでる!!!』
「そォだな」
風に乗る、の意味がやっと判った。
一度強く羽ばたいて、新しい風を捕まえる。
一度飛べる様になれば、後は簡単だった。
旋回や急降下、急上昇をする私を目で追いながら、勝己がペットボトルを口に運ぶ
「おいそろそろ休憩しろ。ブッ倒れんぞ」
『わたし げんき!』
「慣れねぇのにブッ通しで飛んでりゃバテるっつっとんだ。
真っ裸で転がりたくなきゃ言う事聞けや」
『あい』
全裸被害者に言われて言い返せる筈もない。
渋々地面に降り立つと、てちてち歩いて体操着の許に向かった。
綺麗に人が抜け出したみたいに広げてある服にのそのそと潜り込む。
それから自分の形をイメージすれば、固められていた自分の身体が緩まるのを感じた。
ぱちりと瞬きをする。
元に戻った身体でゆっくりと立ち上がり、伸びをした
『んー、やっぱり人間が一番楽だ』
「だろうよ」
勝己の隣に座り、ペットボトルを開ける。
手を差し出されたので乗せれば、不思議そうに切れ長の目が瞬いた
「冷えてねぇ」
『身体を雪にするのはほぼノーカンっぽいんだよね。MP消費1って感じ』
「外に放出すると反動が来んのか」
『そう。でも幾らほぼノーカンでも、意識しなきゃ攻撃当たるしね…物理無効人生はまだ遠い…』
「ハッ、粉雪女」
『腹立つな』
「…そうだ、お前コスチューム変更しろよ」
『なんで?』
きょとんとした顔になっていたのだろう。
私を見てふっと笑うと、勝己は頬を流れる汗を拭った
「個性で雪になったり水になったりってヤツは、大概そいつ自身の髪なんかをコスチュームに織り込んでる。
そうすりゃコスチューム毎雪になっから、全裸は防げるって訳だ」
『おー!!コスチューム変更出してみる!』
「そうしろ」
「今日のヒーロー基礎学は、隠密!
広大な演習場を逃げる敵チームを捕らえればヒーローチームの勝利!
追い掛けるヒーローチームから十五分逃げ切るか、確保すれば敵チームの勝利だ!」
ふむ、と顎を擦る。
演習場βは都市部を模しているから、隠れる場所は多い。このルールだと敵チームが有利だろう。
「ハイ!じゃあくじ引いてね!!」
オールマイトの差し出すくじを引く。
Cと書かれたボールを見ていれば、隣から勝己が覗き込んできた。
へぇ、と呟いた声に顔を上げれば、すっと握ったボールを見せられる
『勝己と一緒か。心強い』
「ハッ、たりめーだ」
「うわ、いやや。絶対Cチームと当たりたくないぃ…!!」
『お茶子ちゃんwwwww』
あわあわするお茶子ちゃんを笑っていれば、オールマイトがくじを入れた箱に手を突っ込んだ
「じゃあ早速やってみよう!最初はぁーコイツらだ!!
ヒーローチーム・C!敵チーム・F!」
『初戦か』
「誰でも良い。ブッ飛ばすぞ」
『相手はね…障子くんと青山くんか』
モニタールームから移動しつつ、簡単に勝己と打ち合わせを始める。
「アイツらの個性知ってっか」
『障子くん…大柄な方が、自分の身体の一部を腕の後ろの触角から複製出来る。索敵も出来るよ。
青山くんはお腹からレーザー出す人。一秒以上出すとお腹痛くなるんだっけ?』
「ハッ、ザコじゃねぇか」
『失礼でしょ』
耳に通信機を取り付け、マップを広げた所で勝己が覗き込んできた。
現在地と敵の位置、脱出地点を確認すると、すっと上体を起こす。
『作戦会議する?』
「要らねぇだろ」
『はーい。じゃあストレッチしとこ』
それからオールマイトの通信が入るまで、緩くストレッチを続けた。
────モニタールーム。
かっちゃんと刹那ちゃんが組んだと知った瞬間、全力で当たらない事を願った。そもそも僕のコスチュームはまだ修理中だし、万が一かっちゃんと当たったら死ぬ。
いや、刹那ちゃんが居るなら無事かもしれないけど、怖すぎる。
「あの二人か」
「また爆豪が暴走するコースなんじゃね?」
「いや相手白露だぞ?流石に爆豪も話聞くだろ」
瀬呂くん、上鳴くん、切島くんの話を聞きながら、モニターを見つめる。
堂々と立っているかっちゃんと、屈伸している刹那ちゃん。
昔から良く知る二人を見ていると、麗日さんと飯田くんが近付いてきた
「刹那ちゃんと爆豪くん、作戦会議しないんやろうか?」
「そういえばそうだな。二人共口が動かない」
「えー、爆豪意見聞いてくれないカンジ!?態度悪!!」
「そうじゃないと思うわよ、三奈ちゃん」
「爆豪さんが白露さんをぞんざいに扱っている姿は、見た事がありませんもの」
「…多分、必要ないんじゃないかなぁ」
僕がぽつりと呟くと、思いがけず全員の注目を集めてしまった。
予期せぬ事態に肩が跳ねたものの、続きを口にする。
「多分、話さなくてもお互いにどう動くか、予想出来てると思うんだ」
僕の言葉で一瞬モニタールームが静まり返り、それから皆が笑いだした
「えっ、何それ」
「いやいや、流石にそれはねぇって!」
「白露、胸はねぇけど白い肌とあの美脚…ノーマークだったぜ」
「やめとけ、爆豪に殺されんぞ」
静かに前方に視線を戻す。
モニターの向こうでは、両の肘を絡めて二人でストレッチしていた。
アイマスクのトゲトゲが刺さりそうだからだろうか。
わざわざ首から外して腰を曲げ、刹那ちゃんの上半身を伸ばすかっちゃんは優しい。
オールマイトが開始を告げた瞬間、かっちゃんが飛び出した。
刹那ちゃんは演習場中央に高く浮かび上がると、その場でくるくると回り始める。
「何あれキレイ!」
「掌の吹雪を撒いてるのか!」
演習場は一気に雪の舞い降りるエリアに様変わりした。
一度ビルの上に降りると、刹那ちゃんは辺りを見渡している。
それから────はっと顔を上げたかっちゃんが爆破で飛び出した。
その際青山くんの言葉が聞こえたのか、オールマイトが急に笑いだす
「HAHAHAHAHAHA!!青山少年、演習場にオバケなんて居ないぞ!」
「え?青山オバケ見たの?」
「めちゃくちゃ泣いてんぞ」
「マジなカンジ!?」
耳カさん、上鳴くん、芦戸さんの言葉の後、モニターではかっちゃんが青山くんを取り押さえた。確保テープを涙する青山くんに巻くと、かっちゃんが一度ビルの上に上がる。
直ぐに飛び出すと、脱出地点への一本道で戦闘中の刹那ちゃんの手助けに向かった。
「飛んでくる爆豪とか怖すぎね?」
「ミサイル付けたゴジラじゃん」
「障子もなー…流石に二対一はキツいか」
「いや交代めちゃくちゃ鮮やか」
合流した瞬間に前衛と後衛がスイッチし、立ち向かうかっちゃんのサポートに刹那ちゃんが回る。
隙を見て、複製腕を刹那ちゃんが凍らせ地面に繋ぐ。
すかさずかっちゃんが、障子くんの腕に確保テープを巻き付けた
「ヒーローチーム、WIIIIIIIIIN!!」
「今回のMVPは白露少女!爆豪少年の誘導とサポート、見事だった!」
『えっ』
きょとんとしている辺り、本当に予想していなかったんだろう。
刹那ちゃんは不思議そうにオールマイトを見上げていた。
不安そうにちらりとかっちゃんを見上げ、視線を返される。すると何か納得したのか、ふわりと微笑んだ。
言葉のなかった一連の流れを目にしていた上鳴くんが、ぽつりと呟く
「…アイツらさぁ。マジで言葉ナシで通じ合ってんのな」
「デクくんの言った通りやね!」
「ははは…いや、前からそうだから…」
体育祭まで残り二週間。
さて今日もトレーニング室に行くかと鞄を持った所で、扉の方からお茶子ちゃんの声が聞こえてきた
「何事だぁ!!!?」
開かれた扉の向こう、みっしりと生徒が居るのが見える。
全員が教室を覗こうとしていて、何だろうと首を捻った。
先に出ようとしていた出久と飯田くん、峰田くんが人集りを見て立ち止まる中、勝己はしれっと進んでいく
「出れねーじゃん、何しに来たんだよ」
「敵情視察だろザコ」
答えてくれるのは良いけど、暴言はなぁ。
でもこの数の人が屯しているとなると、出られないな。
周囲を見つつ、勝己のブレザーを摘まんだ。どうせモーゼの十戒ごっこするのだ、はぐれないに越した事はない。
「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。
意識を正面に向けると、勝己は堂々と言い放った。
「意味ねェから。退け、モブ共」
「知らない人の事、取り敢えずモブって言うのやめなよ!!」
飯田くんの言い分が正しさしかなくて、思わず笑った。
でもこれめちゃくちゃヘイト稼ぐよなぁ…
そんな事を考えていれば案の定、集団の奥から不穏な言葉が飛んでくる。
「どんなもんかと見に来たが、ずいぶん偉そうだなぁ」
「!」
「ヒーロー科に在籍する奴は、皆こんななのかい?」
「ああ!?」
ほら見ろやっぱりヘイト稼いだ。
背後で必死に手を顔の前で振っている出久と飯田くんを眺めつつ、いや私の立ち位置勝己に巻き込まれるな?と気付く。
でもなぁ、ぶっちゃけ今更だしなぁ。離れた所で、出久組と同じだって認識をしてもらえるかも怪しい。
…よし、黙っとこ!
現状維持を選択した所で、声の主が前に出てきた。
背の高い、紫色の髪の男子生徒だ。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。
普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴結構居るんだ。知ってた?」
「?」
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって」
確かに滑り止めとして普通科を希望する学生が多いのは知っていた。
体育祭も近いのだ。敵情視察を行うと考えなかった私が浅はかだったんだろう
「その逆もまた然りらしいよ…敵情視察?
少なくとも
うっわ大胆不敵。
謂わば敵陣に単身突っ込んで宣戦布告かましているのだ。これが大胆不敵と言わずになんと言おうか。
そんな事を考えていれば、人集りの奥から大声が響いてきた
「隣のB組のモンだけどよぅ!!」
『おあ……』
めちゃくちゃ目をかっ開いた男子生徒がやって来た。
目玉落っこちそうだなと思っていれば、彼は大きな口をめいっぱいに開ける
「敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!
エラく調子づいちゃってんなオイ!!!
本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
「「「「………」」」」
『……………っっっっっっっ』
まって、すんごいオラついた人来た。
輩じゃん。勝己みたいにオラオラしてるじゃん。
思わず噴き出しそうになって、流石に此処で笑うのは不味いと口許を押さえ俯いた。
恐らく振動が伝わっているんだろう、勝己が呆れているのが判る。
ちらと後ろを見れば、皆がどうしてくれると言わんばかりの目を勝己に向けていた。
漸く笑いの波が引いたところで、小さく行くぞと囁かれる。
頷いてしっかりとブレザーを握ると、勝己が人混みを押し退け始めた
「待てコラ、どうしてくれんだ!?
おめーの所為でヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」
勿論この空気に文句を申したいのは巻き込まれたA組の面々だ。
ごもっともな意見を述べた切島くんを横目で見て、勝己は尚も手を止めない
「関係ねぇよ…」
「はあーーーー!?」
「────上に上がりゃ、関係ねぇ」
勝己の静かな言葉を聞いて、教室内は一気に静まり返った。
どんどん人を押し退け動いていく勝己にしっかり着いていきながら、先程の言葉を反芻した。
人混みを抜け、隣に並んでそっと口を開く
『上に上がる、か』
「なんだよ」
文句あんのかと言わんばかりの目で見下ろしてきた勝己に、ゆるりと首を振った。
『私も頑張ろうって思って』
体育祭が明日に迫った放課後、勝己と共に昇降口に向かう。
演習場を借りずに帰るのは、連日負荷を掛けすぎるのは良くないと言うリカバリーガールの助言に従ったからだ。
今日はもう、明日に備えて身体を休めよう。
勝己と話しながら向かった夕暮れの射す靴箱で、意外な影を見付けた。
『あれ、轟くん?』
────轟焦凍。
初めての戦闘訓練で当たって以降、殆ど関わりのないクラスメイトである。
彼はちらりと此方を見ると、ゆっくりと口を開く
「白露、ちょっと聞きたい事があるんだが良いか」
『なに?』
「…出来れば、二人で話してぇんだけど」
そう言って視線を向けたのは勝己だ。
今更だが、勝己は気が短い。即座に怒りスイッチを押されたのか、威圧的な雰囲気を出し始めた
「ぁあ?俺が居ちゃ話せねぇ事だってか?」
「そうじゃねぇけど、お前に聞かせる必要もねぇ話だ」
「チッ…スカしたツラしやがってムカつくな!とっとと言えや!!
此方も暇じゃねぇんだよ!!!」
あ、この二人相性悪いわ。
いつの間にか私の前に勝己が立ち、轟くんと対峙している。
何処かの学科の生徒が、なにあれ修羅場?ときゃっきゃしながら後ろを通った。そうですね。私を庇う男は修羅です。
「じゃあ聞くが…白露」
『なに?』
「お前の母親の個性、氷結系か?」
母さんの個性?何でそんな事を急に聞いてきたんだろう。
そうは思うも、別にそれぐらいなら答えても構わないだろうと判断した
『うん。そうだよ』
そういえば、この間母さんに轟くんの話をしたな。
あの時は母さんがちょっと変だった気もするが、何でだっけ。
勝己を隔てて返すと、轟くんは一瞬口籠った。
次に、全く予想していなかった言葉が飛んでくる。
「…お前の母親の旧姓、氷叢じゃねぇか?」
『えっ…』
何故それを、知っているのだろう。
固まった私の反応を肯定と読んだのか、轟くんがやっぱりなと口にした
「…何でだろうな」
「あ?」
「…なんで、氷しかないお前がそんなに幸せそうなんだろうな」
あのあと勝己に手を引かれ、家に帰った。
お風呂に入っても、ご飯を食べてもやっぱり夕方の言葉が脳裏を掠める。
────…なんで、氷しかないお前がそんなに幸せそうなんだろうな
勝己が間に入っていた事で、彼の顔までは見えなかった。
けれど酷く冷めた声をしていたから、きっと戦闘訓練の時の様な冷たい目をしていたんだろう。
『ごめん、今日は部屋でゆっくりするね』
「えー!姉ちゃんゲームしようよ!」
「こら優輝止めなさい。刹那は明日体育祭なんだから」
「刹那、頑張れよ。録画しとくから」
『…うん、ありがとう』
家族に手を振って、二階に上がった。
扉を開けた所で、ベッドに転がる人影に溜め息を落とす。
『来てたんなら下来れば良かったのに』
「今日は優輝と遊んでやる気分じゃねぇ」
『そっか』
ベッドに寝転がって本を読んでいるらしい勝己をそのままに、スマホに手を伸ばす。
クッションを置き、ベッドに寄り掛かりながらアプリを開いた。
女子のグループラインに、明日頑張ろうという芦戸さんのメッセージが表示されていて、私もスタンプを送っておいた
『ねぇ勝己』
「なに」
『…今日のアレ、どういう事だと思う?』
ぺらり、勝己がページを捲る音だけが部屋に響いた。
「…お前に覚えはねぇんだろ?」
『ない。母さんの旧姓知ってる意味も判らない』
個性ならまぁ、私の個性が雪女だから、そこから連想して親も氷結系かと推測出来るだろう。
でも名字となると話が変わってくる。
『母さんの知り合い?』
「おばさんの親族とか知らねぇんか」
『母さん、自分の親戚の話してくれた事ないから。だから父さん側の親戚にしか会った事ない』
「………………」
梅雨ちゃんから可愛い蛙のスタンプが送られてきた。
ぺらり、ページを捲る音。
「何にせよ、奴はウゼェ」
『ん?』
「俺がブッ殺す」
『…んん?』
やだ野蛮。
声に出さずとも非難は届いたのか、紅い目が文字から此方に向けられた。
「体育祭、俺が一位を獲る。
…だから、俺に負けて悔しがってるアイツに言ってやれや。
いきなり人のプライバシー暴いて、おまけに棘しかねぇ言葉を体育祭の前日に投げ付けやがって、どういうつもりだクソ野郎ってな」
『………』
静かな目で此方を見つめる勝己に、ゆっくりと口角が上がっていくのが判った。
そうだ、今気にしたって此処に答えを持っている人は居ない。
判らないなら、考えるのを止めるべき。
それを暗に教えてくれた勝己に、感謝を伝えた
『ありがとう、勝己』
「どーいたしまして」
ふっと微笑んだ勝己は、険のない表情をすればとても整っている顔だと思う。
いや、眉間に皺寄せてる程度なら格好良いけど、目が吊り上がるからな…があ!!って怒らなきゃモテるだろうに。
実際中学でも、恐いけど格好良い先輩って言われてたし
『勝己は目を吊り上げなきゃイケメンなのにね』
「は?」
優しいし、面倒見も良い。おまけに頭も良いのだ。それなのに暴言と目付きで大分損している気がする。
ベッドに腕を乗せる体制に座り直せば、此方を見下ろした勝己がくだんねと呟いた
「ツラ褒められて何になんだよ」
『上鳴くんとか峰田くんは喜びそう』
「……誰だ」
『先ずクラスメイトの名前と顔一致させようね』
マジかコイツ。…いやマジだ。真顔で言いやがった。
大丈夫か?明日の体育祭、協力する競技とかあったら生き残れる?
苦笑いする私をじっと見て、勝己がゆるりと口を開いた
「…中身も受け入れてくれるヤツに好かれなきゃ、意味ねぇだろ」
『ん?まぁそうだね?』
「……フン」
勝己はそのまま読書に戻ってしまった。
暫し静かな顔を眺めたものの、厭きたのでスマホに戻る。
お茶子ちゃんからレッサーパンダのスタンプが来ていて、そっくりだなと笑ってしまった
前日
刹那→飛べる様になった。
青山くんの言うオバケはコイツ。手だけ雪化、雪に混ぜて索敵。
肘から下が無くても、袖が長いコスチュームなので案外バレない。
見付けた青山の肩を、宙に浮かぶなまっ白い片手で叩いた。無事悲鳴を上げた。
因みに演習場中央から脱出地点に行けたのは、まっすぐ進めばあったから。
流石に目視していれば迷わないらしい。
突然の轟ショックに首を傾げるものの、判らないと思考を放り投げるタイプなのでほぼノーダメ。
爆豪→鳥の雛が飛ぶまで見守っていた気分の人。
基本一言目で威圧、二言目で着火のイメージ。刹那は優しいのに目が吊り上がるから怖がられていると思っているが、そもそも対応が違うのだと気付いていない。
作戦としては爆豪が派手な音を立てている間に刹那が索敵、爆豪が急行からの撃破の流れ。刹那の片手は万が一に備え、雪になって傍でふよふよしていた。
轟を要注意人物としてインプットした。
緑谷→幼馴染がテレパシー送り合ってるのを長い間見てきたので、二人が言葉なく何かをやっても驚かない。
受信したいけど受信出来ない。
轟→ちょっと彼の中でなんとも言えない感情があるだけ。刹那に恨みはない。色々余裕がないだけ。
結局はエンデヴァーの所為。