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「行ってらっしゃい二人共、体育祭頑張ってね!応援してる!!」


「っス」


『行ってきまーす』


母さんに見送られ、勝己と共に歩き出す。
ゆっくりと歩きながら、拳を握った。
そっと隣を見れば、視線に気付いたのか紅い目が此方に向けられる


『勝己』


「なんだよ」


『…今もう緊張してるし、気持ちばっかりから回って本気出せないとか、そんな悲惨な事になっちゃうかも知れないけど』


ぎゅっと拳に力を込める。
体育祭の特訓の間も、ずっと勝己を見てきた。
一位だけを狙う人の姿をずっと傍で見ていて、その姿勢に感化されない訳がない。


────私だって。


気付けばそう、思う様になっていた。
少しだけ緊張で震える声で、そっと決意を口にした


『…私も、頑張る。一位目指す』


頑張りたいのだ、此処で。
そうすれば、今まで強く一位を目指した事がない私も、何か変われるんじゃないかって思うから。
じっと紅い目が、見定める様に此方を見つめている。
…雄英を受験したいと勝己に言ったあの日の様だと、何処か遠くで思った。


「…一位を目指すって事ぁ、俺の前に立つってこった」


『うん』


「…正面から俺に潰されるとしてもか」


『うん』


それでも、頑張りたい。
いや恐いけど、それでも。


精いっぱい、頑張ってみたい。


頷いた私をじっと見て、暫く。
紅い目は正面に戻された


「好きにしろや。目の前に立ったら潰すだけだ」


『……うん!』


頑張ろう。
潰されたくはないから、勝己にも勝つつもりで。
にっと笑う私を、紅がまた見つめていた。













控え室で、ゆっくりとスポーツドリンクを口にする。
何となく気分が上がっているのか、何処と無く落ち着きがないのが自分でも判った。


「刹那ちゃん、緊張しているの?」


『梅雨ちゃん。なんかね、そわそわしちゃうんだよね…』


「わかるー…私もなんよ…」


『よかった、仲間が居た』


近くに居た梅雨ちゃんとお茶子ちゃんと言葉を交わす。その間に少しだけそわそわが収まってきて、ほっとした。


「皆、準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」


今日も飯田くんは委員長を全うしている。
真面目な声を耳にしつつ、隣で話す芦戸さん達に顔を向けた


「コスチューム着たかったなー」


「公平を期す為、着用不可なんだよ」


『ああ、コスチュームってヒーロー科だけだもんね』


「私達がコスチュームを着てしまえば反則になってしまうわ」


「コスチュームで弱点の改善してたりするもんね」


「サポート科は、使用許可が出ればサポートアイテムを使えると聞いたが」


「えぇ、良いなぁー!!」


「良いなぁって…いやヒーロー科にサポートアイテム持たせちゃダメだろ…」


苦笑いする尾白くんに笑っていれば、扉の近くで出久が佇んでいるのが見えた。
そこに、目立つ紅白頭が近付いた


「緑谷」


「轟くん…何?」


斜め奥のテーブルに着く勝己が、話し始めた二人の方に顔を向ける


「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」


「へ!?うっ、うん…」


その切り出し方に眉を寄せた。
幾ら何でも、そんな言い方はないんじゃないかと思う。
出久も突然のマウントに肩を震わせた。


「お前、オールマイトに目ぇ掛けられてるよな」


「!!」


「別にそこ、詮索するつもりはねぇが…お前には勝つぞ」


『………』


…何だか怖い目をしていると、思った。
前日の事もあり、轟くんは少しだけ苦手だ。
一方的な会話を見守っていると、周りも二人の会話を見ていたらしい。
上鳴くんが、何処か囃し立てる様に言う


「おお!!クラス最強が宣戦布告!!?」


その間に切島くんが轟くんに近付き、宥める様な笑みを浮かべた


「急に喧嘩腰でどうした!?直前にやめろって…」


「仲良しごっこじゃねぇんだ、何だって良いだろ」


そう切り捨てて、轟くんは肩に乗せられた手を払い除ける。
出久はどう言い返すのだろうか。
見つめた先、出久は俯きつつも、口を動かし始めた


「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、判んないけど…
そりゃ、君の方が上だよ…実力なんて大半の人に適わないと思う…客観的に見ても…」


「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねぇ方が…」


「でも…!!」


心配する切島くんの言葉を遮って、出久は続けた。


「皆…他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ」


「………」


「僕だって…遅れを取る訳にはいかないんだ」


真っ直ぐに前を見て、彼は言い放った


「僕も本気で獲りに行く!」


…本当に、出久は変わった。
もう勝己に怯えていた出久は居ない。仮に勝己や轟くんと戦う事があっても、逃げたりしないんだろう。


「………おお」


返事した轟くんの視線がついと此方へ────私に、向けられた。
さっきの今だ、まさか私にまで宣戦布告するんじゃないだろうなと肩を竦めていると、ガタリと乱暴に椅子を立つ音がした。
次いで、目の前に見慣れた背中が現れる。


「喧嘩売る相手、間違ってんじゃねぇぞ」


「………」


轟くんは静かに目を逸らし、控え室を出ていった。
扉が閉まった所で、はああああと息が漏れる。
目の前の背中に額を押し付けてしまったのは、大目に見てほしい


『うわあああびびった…勝己、ありがとね…ほんとびびった…』


「気にすんな。…マジで心当たりねぇんか」


『ない…』


「何だか轟ちゃん、怖い雰囲気だったわね」


「何やろうね…それだけ体育祭に懸けてるって事なんかな…」


異様な雰囲気を一緒に体験した二人が、そっと背中を擦ってくれる。


「然り気無く白露を庇うなんて…!男らしいぜ爆豪!」


「いやーあれ白露じゃなきゃ放置っしょ?男として減点じゃない?」


「あのヤロウ…!!女子が背中にデコくっ付けてくるとか男子の夢じゃねぇか…!!
俺も身長があれば…!!」


「うっせーぞ外野ァ!!!」












《一年ステージ!!生徒の入場だ!!》


プレゼント・マイクの声が満員のスタジアムに響く。
それを通路で静かに聞いていた。


《────雄英体育祭!!
ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る、年に一度の大バトル!!
どうせてめーらアレだろ、コイツらだろ!?
ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!!》


先頭が動き出した。
それに合わせ、私も進む。


《ヒーロー科!!》


先頭が通路を抜ける。
明るい方から割れんばかりの歓声が聞こえてきた。


《一年!!!A組だろぉぉ!?》


わっと包み込む大歓声に、思わず肩が跳ねた。それに気付いたらしいお茶子ちゃんと目が合って、笑い合う


『めちゃくちゃ緊張する…!』


「そうやね…!頑張ろ、刹那ちゃん!」


『うん…!』


「わあああ…人がすんごい…」


「大人数に見られる中で、最大のパフォーマンスを発揮出来るか…!
これもまた、ヒーローとしての素養を身に着ける一環なんだな」


飯田くんの言葉に納得し、どうにか逸る心臓を落ち着けようと深呼吸する。
ヒーローになれば、観衆の前で敵と戦う事も多い。
どんな時でも冷静に、何時も通りの動きが出来るか。
そういうメンタル面も試されるのが、この雄英体育祭なのだろう


「めっちゃ持ち上げられてんな…なんか緊張すんな…!なァ爆豪」


「しねぇよ、ただただアガるわ」


隣の男は何時も通りである。
良いなぁ、羨ましいあの強心臓。
繊細な癖にこういう場面に強いの羨ましい


《B組に続いて普通科、C・D・E組…!!!
サポート科F・G・H組も来たぞー!そして経営科…》


生徒が出揃った所で、壇上に登場したのはミッドナイトだ。
彼女は登壇と同時にぴしゃん!と手にした鞭を鳴らす


「選手宣誓!!」


「18禁なのに高校に居ても良いものか」


「良い」


すぐ後ろで呟いた常闇くんに即答した峰田くんがちょっと…気持ち悪い…
一歩前に詰めて、お茶子ちゃんにくっついた。
すると二人の会話が聞こえたのか、再び鞭を鳴らしながらミッドナイトが声を張る


「静かにしなさない!!
選手代表!!1ーA、爆豪勝己!!」


「えー!?かっちゃんなの!?」


「あいつ一応、入試一位通過だったからな」


すっと前に出た勝己が登壇する。
ポケットに突っ込んだ手はそのまま、彼は口を開いた


「せんせー」


嫌な予感しかしない。
案の定、勝己はやらかすのだ


「俺が一位になる」


「絶対やると思った!!」


思った。
切島くんの叫びに深く頷くしかない。
直ぐ様巻き起こるブーイングに、お茶子ちゃんと共に小さくなる


「調子乗んなよA組オラァ!!」


「何故品位を貶めるような事をするんだ!!」


「ヘドロヤロー!!」


下から沸き上がるブーイングを見下ろしながら、無表情の勝己は親指を首に向けた。
それをクイッと真横へ。
もうだめだ、一周回って笑えてきた。


「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」


そしてトドメがこの台詞である


『ぶはぁwwwwwwwww』


「刹那ちゃん!?」


「白露ー!!」


「あかん、刹那ちゃんが壊れたー!!」


「どんだけ自信過剰だよ!!この俺が潰したるわ!!」


噴き出してしまった私と、周りからの怒気にざわつくA組。
擦れ違う際に出久に肩をぶつけ、隣に戻った勝己。
彼は、笑っていなかった。


以前の勝己なら、ああいうのは笑って言う筈だ。


笑っていない。つまり、今の宣誓は自らを追い込む為の宣言に過ぎない。
静かに隣を見上げれば、紅い目が此方を見下ろした


「一位狙うんだろうが。ビビってんなよ」


『!…うん!』








体育祭、始まり










刹那→割りと緊張するタイプ。

爆豪→この程度では動じない。