My wand

「これはこれは、はじめましてブラック嬢。いやはや、ご両親によく似ておられる。どちらかと言えば母君寄りかのう。たしか、母君の杖はハシバミにドラゴンの心臓の筋線、非常に忠実で、持ち主の心の状態を反映する杖である。自分の感情を制御できるものに向く杖じゃ。さてさて、ブラック嬢、杖腕はどちらかな?」

店に入ったとたん息をつく間もなく始まったオリバンダー翁のマシンガントークに圧倒されながらも右腕を差し出す。魔法のメジャーが腕の長さ、身長などを測って、しばらくすると一通り測り終わったのかオリバンダー翁のところに戻っていった。魔法のメジャーって誤差とかなさそうだし、便利だなぁ。

「そうじゃのう、ではまずはこれを。リンゴの木にユニコーンの鬣、11インチ。非常に強力。」

差し出された杖を受け取り、一振りする。すると店の奥の箱が次々と飛び出し、オリバンダー翁に杖をひったくられた。

「違うようじゃの。・・・では、次はこちらを。シカモアの木に不死鳥の尾羽、15インチ。冒険好き。」

杖を握ると、なんとなくこれは違うなと感じた。とりあえず一振りしてみると、今度は店内のランプが粉砕した。ごめんないさい。そうだよね、私冒険好きじゃないもん、どちらかと言えば引きこもりだもん。
私の壊したランプをお父様がレパロで直す。後ろに立つ両親を振り返るとにこにこ見守っている。まだまだ序の口らしい。

「ふむ、これも違うか・・・、あぁ、ではもしかすると、あれは」

何かひらめいたらしい翁はぶつぶつ呟きながら店の奥に入っていった。そして5分ほど経ったころ一つの箱を持って戻ってきた。

「これをお試しくだされ、ナシの木にドラゴンの心臓の筋線、12インチ。優しく、おおらか。」

目の前に出された杖を受け取る。ゆっくりと握ると、今までとは違うふんわりとしたぬくもりに包まれた。そう、例えるならば、小さい頃に子守歌を歌いながら私を抱きしめてあやしていたお母様のぬくもり。

杖を振る。
すると、どこからともなく白いナシの花とラベンダーの花が私の周りを舞った。

「ブラボー!いやはや、なんとも美しい。しかし、不思議な事もあるものだ。その杖に使われているドラゴンの心臓の筋線はお母君の杖芯の筋線に使っているドラゴンの子供のものでのう。親子杖はよくあるが、まさか“母娘”で“母娘杖”を持つとは。ブラック嬢、いやヴァルブルガ嬢、この杖は優しくおおらかで闇の魔法は好まんがいざという時にとてつもない力を発揮する。貴方は、人から見れば平凡なことではあるかもしれんが、偉大なことを成し遂げる魔女になるであろう。」

床に散らばるたくさんの花びら。白とラベンダーから優しい香りがする。
偶然か、必然か、お母様との“母娘杖”。
私は今、きっとこの世界に本当の意味で受け入れられたのだ。これから私がしようとすることは確かに平凡かもしれない。でも、それが実現する世界が何よりも私が望む『幸せ』な世界。

「ありがとうございます。」

だから私はもう迷わない。『ヴァルブルガ・ブラック』の幸せを掴みにいく。




「母娘杖か、不思議な縁だね。」

オリバンダーの店を出て、マダムマルキンの洋裁店に向かう途中、お父様が呟いた。確かに不思議な縁だ。オリバンダーも初めてのような口ぶりだったし、でも、ハリーと例のあの人は兄弟杖だ。じゃあ、私とお母様もお互いに傷つけあうことはできないのだろうか。いや、まずそんな状況は起こり得ないはず。

「あら、ポルックス。何も不思議なことはありませんわ。だって、私とヴァルは正真正銘、“母娘”ですもの。」

綺麗な笑顔で私に言うお母様に嬉しくなる。

「はい!“母娘”ですもの、お父様。」

私もお母様に微笑み返す。

「おやおや、私としたことが、何も不思議ではなかったね。」

和やかな、家族のひととき。こんな家族を私もつくれますように…

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