Shopping!
ホグワーツから手紙が届いて数日、今日は遂に学用品のお買い物に出かける日!実は今まで何度かダイヤゴン横丁には行ったことがあるから横丁自体に物珍しさはあまりない。しかし!今日はいつもと違うのです!なんてったって、杖を買ってもらえるんだから!ということで、今日は私の相棒がやってくる日なのです。
「やっぱりこの時期は人が多いわね。」
「ああ、アルファードとシグナスをサリーと一緒に留守番させて正解だった。この人混みでは、絶対に迷子になるだろうからね、特にシグナスは。」
「ええ、本当に。」
お父様とお母様の会話で今日の朝の喧騒を思い出してしまった。2人の弟(特にシグナス)は買い物に同行したいと前日から両親に頼み込んでいたが、この人混みが予想されていたので許しをもらえなかった。
「さて、ヴァル。まずはお待ちかね、オリバンダーの店に行こうか。これからずっと付き合っていく杖には早く会いたいだろう?」
そう微笑みながら言うお父様、本当にイケメンです。ほら、ちらっと顔が見えたそこのご婦人、顔真っ赤じゃないですか。この間アルファードも同じようなことして近くにいた人が赤面してた気がする…。イケメン遺伝子怖い。
『オリバンダーの店:紀元前382年創業高級杖メーカー』
私は今、あのオリバンダーの店の前にいる。紀元前創業なだけあり、どこか古めかしい店の前に来ると、さっきまでの興奮とは裏腹に突然不安が襲ってくる。私は確かに「ヴァルブルガ」だけど「ヴァルブルガ」じゃない。もし、私に合う杖がなかったら、どうすればいいのだろうか。私はここで愛しい家族を守ることを許されずただただ、生きるだけになるのだろうか。
「ヴァル、どうしかしたかい?」
「ううん、なんでもないわ、お父様」
あれほど喜んでいた私が急に黙り込んだことを不思議に思ったのだろう、お父様が問いかける。こんな顔させたい訳じゃないのに。そんな私とお父様を静かに見ていたお母様が口を開いた。
「ポルックス、ちょっと先に入っていてくださいな。ほら、オリバンダー翁にご挨拶してきて」
「イルマ?・・・あぁ、分かった。」
店の中にお父様が入ったのを確認したお母様は私の肩に手を置き、目を合わせるように少しかがみこむ。
「ヴァル、私もここに初めて連れてこられた11歳の時、不安で仕方ありませんでした。」
「え?お母様が?」
純血貴族のブラック家で生まれ育ったお母様は自分が魔女であることに不安や戸惑いなどなかったはずだ。なら、どうしてここに来るのが不安だったのだろうか。
「えぇ、もちろん自分が魔女であることに不安はありませんでした。でもねヴァル、魔女であることと、自分の杖を持つことは、また別なのです。この魔法界で最高級と謳われるオリバンダーの店に私を選んでくれる杖があるかどうかそれはそれは不安でなりませんでした。ですが、この杖はそんな不安がる私を迷わず選んでくれた。」
そっと私の前にお母様が杖を取り出してみせる。ハシバミの木とドラゴンの心臓の筋線でできたお母様の杖は持ち主にとても忠実で、忠実なあまり持ち主が死ぬと一緒にしおれてしまうそうだ。
「だから、そんなに不安がるのはおよしなさい。必ずあなたを選んでくれる杖が現れてくれますから。」
そう私に微笑むお母様の顔を見ると、さっきまでの不安は嘘のように晴れやかな気持ちになった。
「はい、そうですね、お母様。窓から見えるだけであんなに杖があるんだもの。私にぴったりの一本がきっと見つかりますよね!」
「えぇ、必ず。さあ、お父様とオリバンダー翁が中で待ちくたびれているわ。早く入りましょう。」
そして、二人で古い扉を開けた。