Hogwarts Express

あれから、マダムマルキンの洋裁店で制服を買ったり、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で教科書を買ったり、大鍋を買ったりと順調に買い物を進めて家に帰った。余談ではあるが、予習で使っていた大鍋を持っていくという私にお父様が新調すると聞かなかったり、洋裁店でお母様と私が服に夢中になっている時、突然お父様がいなくなったりとハプニングもあった。
そして今日は待ちに待った9月1日なのだ。

「ヴァル、準備できたかい?」

「えぇ、お父様。大丈夫よ。」

身支度を完璧にしたお父様に連れられでリビングに降りると、これまた身支度を済ませたお母様と弟たちがいた。

「よし、じゃあヴァルはイルマと、アルファードとシグナスは私と、キングスクロスの近くまで姿くらましをするよ。くれぐれも目立たないようにね。」

お父様、この家族連れがマグルの駅の中に入ったらどうしても目立つと思います…。

お母様の腕にしっかり抱き着き、付き添い姿くらましをする。何度かしたことはあるがやっぱりこの感覚に慣れるにはもう少し時間が必要だ。
到着したキングスクロス駅は人で溢れていた。今日はマグルに加えて多くの魔法使いがいるのだ。それも仕方ないだろう。しかし、こうして見るとあんまり魔法使いって目立っていない。この時代のマグルのファッションと魔法使いのファッションにあまり差がないからだろうか。ハリーたちの時代ではいやに悪目立ちしていたから、今後マグルのファッションの勉強をしていい感じにカモフラージュしてもらいたい。

「あそこだよ、ヴァル。あの壁に向かってまっすぐ進むんだ。」

二人に連れられてやってきたそこは、あの9と3/4番線の入り口だ。いざ目の前にしてみるとただの柱にしか見えない。

「ヴァル、お父様と一緒に行こう。いいかい、決して目をつむってはいけないよ。危ないからね」

「はい。わかりました。」

荷物の載ったカートと共に思い切って進む。
身構えた衝撃はいつまでもやってこず、そこには沢山の魔法使いと赤い車体の列車、ホグワーツ特急があった。

「すごい…」

「わぁ!母さま、あれがホグワーツ特急ですか?僕ももう少ししたら乗れる!!」

「お前はまだ4年も先だろう、シグナス。」

後ろから弟たちの騒がしい声が聞こえる。それを宥める両親の声も。
今更になって、いつも傍にいた家族との別れに少し寂しくなる。

「ヴァル、体には十分気をつけるのですよ。手紙を書いてくださいね。何かあったらすぐに知らせること。それと…」

「まぁまぁ、イルマ。そんなに矢継ぎ早に言っては混乱するだろう。いいかい、ヴァル、さっきお母様が言ったように体には十分気を付けること。そして、これから君は外の世界に出る。それだけ多くの人の前で行動することになるんだよ。何か困ったことがあった時、君の持つ『ブラック』の名は君を守ってくれるかもしれないし、反対に君を生きづらくするかもしれない。しかし、ヴァル、君は私とイルマの自慢の娘だ。『ブラック』の名と、私たちの娘という誇りを持って生活しなさい。君の一挙手一投足が君を助け、そしてこれから入学する弟たちの助けになるだろう。」

心配そうな目のお母様とブラック家当主として、そして私の父としてまっすぐに語りかけるお父様の目を見て、目頭が熱くなる。

「はい、父様。お二人の娘として、ブラック家として、誇りを持って生活します。お母様、そんなに心配なさらないで。沢山手紙を書きますから。何かなくても書きますよ。もう少し減らしてくれって言われるほど。」

そんな私の姿にお父様もお母様も微笑む。私たちの雰囲気に別れが近いことを自覚した二人の弟もさっきまでの興奮が嘘のようにその瞳に寂しさを滲ませている。

「姉さま、いっちゃうの?」

「大丈夫よ、シグナス。クリスマスには帰ってくるし、沢山お手紙書くから、シグナスも沢山書いてちょうだいね。楽しみにしていますよ。」

「うん!沢山書くよ!だから、絶対クリスマスには帰ってきてね。」

「えぇ、約束よ。」

泣きそうになりながらも最後にはしっかり笑顔をみせてくれるシグナス。

「姉様、くれぐれもお体には…」

「あら、アルファード、他になにか言いたいことがあるんじゃないの?」

長男であること、そして下に手のかかる弟がいることからか、大人びたアルファードが少しだけ声を掠らせてそう言うので、ちょっとだけ意地悪をする。すると、アルファードは私の体を抱きしめて肩口に顔を埋めた。シグナスが生まれてからあまり私にも甘えてこないアルファードがこんなことをするなんて想定外だ。下の方から、兄さまずるい!とシグナスの声が聞こえる。

「姉様、本当に行ってしまわれるんですね。・・・・・・・手紙、書きますから、絶対返事くださいよ。」

アルファードの肩にそっと手を添える。

「えぇ、もちろん。クリスマスには帰ります。その間、お父様とお母様とシグナスのこと頼みましたよ。それにアル、3年後にはこの列車に一緒に乗ることになるわ。その時は二人でコンパートメントに乗りましょうね。3年なんてあっという間よ。」

「そうですね、たった1年間ですが、3年後は俺が姉様をホグワーツで独り占めできる。」

「え?」

私の体も放し、いたずらっぽく笑うアルファードにドキッとする。お父様、本当にどういう教育をしたらこんなイケメンに育つのですか。是非教えて頂きたいです。将来の息子たちに伝授するので!

最後に一人ずつにハグをして、列車に乗り込む。
「行ってきます。」

時計の針が11時を指した。
ホグワーツでの1年が始まる。

ALICE+