Sorting hat
特急がホグズミード駅に到着し、生徒たちが一斉に下車すると遠くから私たち一年生を呼ぶ声が聞こえた。声の方を見やると男の人が叫んでいる。ということは彼が現在のホグワーツの鍵の番人なんだろう。この役をハグリッド以外がやっていることに違和感が半端ない。男の人に先導されてみんなでボートに乗り、城へ向かう。しばらくして一気開けた視界の向こう側に堂々とそびえ立つホグワーツ城が現れた。
「わぁ、すごい。」
思わず感歎の声を漏らすと、隣のルクレティアもそれに反応する。
「えぇ、話には聞いていたけれど、やっぱり実物はすごいわ。」
そこかしこで同じような声がささやかれ、城に目を奪われているうちに私たちのボートは城に到着したのだった。
「みなさん、入学おめでとうございます。これからみなさんが生活を送る寮を決めるための儀式を行います。レイブンクロー、ハッフルパフ、グリフィンドール、そしてスリザリン。この四つの寮にみなさんの適正を判断して振り分けます。どの寮も素晴らしい歴史と伝統のある寮です。どの寮生になったとしても誇りを持って生活するように。それでは、大広間に向かいます。身だしなみを整えて、私に着いてきてください。」
副校長らしき人に付いて行き、大広間の扉を抜けるとそこには昔憧れた世界が広がっていた。何百人もの魔法使いの卵に、魔法で作られた夜空、教員席を一人ずつ見ると見覚えのある人物がいた。ダンブルドアとスラグホーンだ。二人ともまだ若い。ダンブルドアが校長の席に座っていないのも新鮮すぎる。その席に座っているのはアーマンド・ディペット校長だ。
「それではABC順に名前を呼ぶので呼ばれたらこの椅子に座ってください。」
遂に組分けが始まった。ABC順なら私は「Black」なので割と最初の方だ。「Lucretia」と「Walburga」ならLの方が早いのでルクレティアが先に組分けになるだろう。
「ヴァル・・・」
隣にいるルクレティアが不安そうに手を握ってくるので、私もそっと握り返す。
「大丈夫よルクレティア、大丈夫」
「ブラック・ルクレティア」
そうこうしている内に遂にルクレティアの番になってしまった。握っていた私の手をそっと離し、ゆっくり壇上へ上がっていく。周りは「ブラック」の名前に反応したのかさっきより少しざわめきが多くなった。
「スリザリン!」
帽子をかぶってしばらくすると高らかな宣言が大広間に響いた。ルクレティアは嬉しそうにスリザリンのテーブルに歩いて行った。ルクレティアが終わったということは、
「ブラック・ヴァルブルガ」
そう、私の番なのだ。
頭にそっと帽子が乗せられる。
「おぉ!今年はブラック家が二人もおるのか!しかし、君は今まで組分けしてきたブラックの者たちとは少々違うようじゃ。・・・ふむ、面白い、実に面白い。君はハッフルパフとスリザリン、どちらにも入れる素質を持っておる。ハッフルパフであれば穏やかな生活を送れるだろう。スリザリンであれば君の秘めたる魅力が輝く。さて、どちらに入れたものか・・・」
帽子の言葉通り、ハッフルパフなら穏やかな生活が遅れそうだ。しかし、私はここに穏やかな生活を送ることを目的に来たのではない。未来の穏やかな生活のために来たのだ。だったら、私の選択肢はたった一つ。私はハッフルパフに入れるほど優しくない。大切なものを守るためなら、どんな手段もいとわない。この血に誇りを持っているし、家族に誇りを持っている。お父様とお母様の過ごした寮で私らしく生きたいのだ。いつか私がこの手で抱える宝物のために。
「なるほど、なるほど。そうか、それならば君にはもうここしかあるまい。
スリザリン!!」
私の考えをくみ取った帽子がまた高らかに叫ぶ。そして帽子を取る間際にささやき声が聞こえた。
「王家の娘よ。君は君らしく生きられるであろう。頑張りなさい。未来のために。」
帽子の言葉に一つ頷いて、いまだに湧き立つスリザリンテーブルへと足を進めた。