My mother

それはまだお母様が倒れる前のこと。我が家が純血名家のブラック家であることは皆さんご存じであろう。そして私は純血名家に生まれたお嬢様。
要するに小さいころから刷り込みという名の純血主義講座がお母様によって開かれるんですね、はい。
おかーさまー、私まだ若干三歳児なのー、精神年齢成人超えだけど、一応見た目三歳児なのよー、難しいこと分かんないよー!と必死に心の中で訴え続けてもやっぱりお母様には届きません。

「いいですか、ヴァルブルガ。我がブラック家は代々続く純血一族。マグルや穢れた血となれ合うようなことは決してしてはいけません。ブラック家に生まれたことを誇りに思い、家の名に泥を塗るようなことは許しませんよ。」

そりゃもちろんブラック家に生まれたこと、というかお母様とお父様の子供に生まれたことは誇りに思うし、二人の名前に泥を塗るようなことは絶対しない自信があるけど、マグルとか穢れた血とかそういうので差別するのはいけないと思う。マグル出身の魔法使いにだって優秀な人とかいるし、ハリーのお母さんしかり、ハーミーちゃんしかり。今まで小さかったし(今でも十分小さいけど)大人しく頭コテンって傾げて笑ってごまかしてたけど、つーかよくごまかせたな一歳の時と二歳の時の私(笑)ちょっと小石を投げてみようと思います。

「ねぇ、お母様。」

「なんですか?」

「お母様はもし、わたしが魔法使いじゃなかったら、わたしのこと嫌いになるの?」

私がこんな問いかけをしたからかお母様は目を見開いた。

「私とポルックスの子供であるあなたが、スクイブなんてありえませんよ。」

随分動揺したのか、それでも冷静を装ってお母様を言った。

「もしも、の話。嫌いになるの?」

もう一度聞いてみた。今度は瞳を潤ませて。

「あぁ、ヴァル、」

お母様は私を膝の上に抱き上げ、私の髪を梳く。そして私はとどめの一言を言うため、お母様を見上げて口を開いた。

「わたしはね、もし、お母様が魔法を使えなくても、お母様が大好きだよ。だって、わたしのお母様はイルマ・ブラックただ一人だもの。魔法使いでも魔法使いじゃなくても関係ないの。だけど、お母様はわたしがお母様の子供でも魔法使いじゃなかったらわたしを嫌いになるの?」

ちょっと三歳児にしてはしゃべりすぎたかもしれない。だけど、どうしても言いたいことだった。向こうの世界の私には私を無条件で愛してくれる大好きな家族がいた。なんでも相談できる親友もいた。一緒にバカ騒ぎする友達もいた。いきなりこちらの世界にきて、ヴァルブルガ・ブラックになって、正直帰りたいと思うことだって何度もあった。それでも今までの三年間、挫けずヴァルブルガでいられたのは今の両親が愛してくれたからだ。だからどうしても伝えたかった。これでお母様が私が魔法使いじゃなかったら家から追い出す的なことを言ったら悲しいけど、それは仕方がない。でも、お母様ならきっとそんなことは言わないはず。お母様が私にくれた三年分の愛を信じているから。

「あぁ、ヴァル、ヴァルブルガ。あなたは私の愛しい娘よ。たとえあなたがスクイブで、一族全員に虐げられたとしてもお母様だけはあなたの味方よ。あなたがスクイブだったとしてもあなたを愛しているわ。あなたはたった一人の私の娘ですもの。」

泣いてしまいそうだった。あぁ、やっぱりお母様を信じてよかった。どんな世界でも子供に対する親の愛はきっと変わらない。

「ありが、とう。おかあ、さま。」

やっとのことで口にできたお礼は嗚咽混じりだった。

「なにを言うの、あたりまえのことでしょう?」

再び言われたその言葉についに私の涙腺は決壊するのだった。

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