My brother
お父様がパニクってから早くも十月十日程経ちました。そう、ついに昨日の夜、お母様が産気づいたのです!!
その時のお父様の慌てぶりといったら、あなた本当にブラック家当主ですかと問いかけたくなるくらいでした。もう昨日だけで何回「落ち着いて、お父様」っていったかしれない。疲れたよ、パトラッシュ。当のお母様は昨日のうちに聖マンゴ病院に運ばれました。あの病院って産婦人科あったのね。私もそこで産まれたらしい。は・つ・し・り!!ちなみに子供が何時間も病院で待ち続けるのは可哀そうだというお母様の意見で私とお父様はお留守番。産まれたらすぐにふくろう便で自宅に連絡があるらしい。電話が無いって不便だね。
そんな私とお父様のところに一羽のふくろうが飛んできたのはそれから間もなくのことだった。
「お母様!」
お父様に連れられてやってきた聖マンゴ病院。うん、なまじ元日本人だから違和感半端ない。まぁいいや、とにもかくにもお母様。と思い、お母様の病室まで、速足で進んだ。走ってませんよ。はしたないですもの(笑)
「あら、ヴァル、もう来てくれたの?」
「うん!お母様大丈夫?」
たどり着いたお母様の病室はもう、すごいね。さすがブラック家。なんていうの、飛行機でいうファーストクラス的な。
「えぇ、大丈夫よ。朝ご飯はもう食べたのヴァル?」
「あのね、サリーがバスケットに詰めてくれたの。ここで食べてもいいかな?」
そう、お父様は朝食の存在をすっかり忘れてふくろう便がきた途端私を連れ出そうとするので、あらかじめサリーに作っておいてもらった朝食を持ってきたのだ。うん、落ち着いてお父様。
「イルマ!」
「ポルックス、来てくれるのは嬉しいけれど、ヴァルと朝食くらい食べてくればよかったのに。」
「あ、朝食・・・。」
「あら、その様子じゃ今思い出したのね。大丈夫よ、ヴァルが持ってきているわ。」
お母様がそういうとお父様は少し申し訳なさそうに私の頭を撫でた。いいよ、お父様、気にしないで!予想済みだから!
「ねぇ、お母様、赤ちゃんは?」
「ふふ、こっちよ。いらっしゃい。」
私たちが立っている所とは反対側のベッドのそばに小さなコットがあった。あいにく三歳児の私には届かない高さにコットがあるので、お父様に抱き上げてもらった。
「うわぁ!!」
コットの中に眠るのは、それはそれは小さな赤ん坊だった。生えかけの髪の毛はブラック家の象徴である漆黒で、目を開けたら私とお揃いのパールグレーの瞳かもしれない。
「あなたの弟よ。ヴァルブルガ。」
小さな私の弟、これからどんな運命がこの子に待ち受けているのだろう。守ってあげないとすぐに消えてしまいそうな小さな命。それなら私が守ってあげよう。私はあなたのお姉さんだから。そう考えると、目の前ですやすやと眠る弟がとても愛おしく思えた。
「ポルックス、名前は考えてくれたかしら。」
「あぁ。」
実はお父様、私が生まれたときに名前がなかなか決まらなかったらしい。だから私、生まれて一週間名無しだったんです。今度はそんな風にならないようきちんと絞り込んだそうだ。
「この子の名前は、アルファード、アルファード・ブラックだ。」
「うみへび座の二等星。へびの心臓の星ね。」
ブラック家は代々星の名前に由来して名前が付けられる。ちなみに私の名前は小惑星『ヴァルプルガ』からきている。
「この子の人生に幸がありますように。」
お父様がそんな言葉と共にアルファードの額にキスをする。続いてお母様もキスもして、次に私もキスをした。小さな弟の幸福を祈って。
これからよろしくね、アルファード。