美味しいおやつにほかほかご飯
新学期が始まって一ヶ月近く経った5月の初旬。世間でいうところのゴールデンウィークの最終日を明日に控え憂鬱な気分に浸る今日、例によってうちのお母様はまた爆弾をかましたのでした。

「明日なんだけどね、お父さんは1日早く仕事が始まるから朝からいなくて、お母さんも前の職場の人に食事に誘われて、晩御飯が作れなくなったの。だから明日の晩御飯、彩月にお願いしてもいい?」

お母さんは再婚するまで、化粧品会社で働いていた。再婚を機にキリがいいからとこちらに引っ越す前に会社を退職し、今では専業主婦である。そんなお母さんが会社で働いていた頃、とても気の合うお友達ができたらしく、今回もお食事という名の飲み会であろうことは十分理解できる……だけどね、お母さん……

もうちょっと早く言おうよ!

そんなこんなで次の日、私は3人分(実はお父さんも飲み会なことが判明)の晩御飯を作ることが決まったのだった。


「さて、2人とも、朝ご飯食べてるときに悪いんだけど、今日の晩御飯何がいい?」

今日も相変わらず部活に行くために朝ご飯にぱくついている、中学生ズに訪ねる。余談ではあるが、梓は野球部に入部し、毎日マネジメントに勤しんでいる。

「あ、そっか、今日お姉ちゃんが作るんだったね。私は何でもいいよー」

と、一番困る返事をする梓に頭を抱えそうになるのを堪え、飛雄君に向き直る。

「飛雄君は?あ、何でもいいは無しね。あれが一番困るんだから、ね、梓」

「ごめんなさーい」

ほんとにこの子は分かってるんだか、分かってないんだか……

「じゃあ、ポークカレー、食いたい。」

ポツリと飛雄君が呟いた。やっと出てきた具体的な料理名、しかもカレーだから結構簡単だと言うことにちょっとテンションが上がる。

「オッケー、じゃあ、今日はポークカレーね。よし、晩御飯の献立も決まったことだし、2人とも学校行ってらっしゃい。」

「はーい」

梓が返事をし、飛雄君がコクリと頷いて、2人は玄関へ向かった。この一ヶ月間なんだかんだ時間が合えば梓と一緒に学校に行ってくれる飛雄君の不器用な優しさを微笑ましく思いながら、中学生ズを見送った。


「ただいま」

今日、3兄弟の中で一番遅く帰宅するのは飛雄君だった。その声にいち早く反応するのはいつも梓だ。中学生ズも着々と仲良くなりつつあるようで、お姉ちゃんはちょっとだけジェラシーを感じちゃいます。

「お兄ちゃん、おかえり!」

「おかえり、飛雄君。洗濯物、洗濯機に入れて、着替えておいで。」

「ただいま。分かった。」

飛雄君が着替えている間に梓と晩御飯の準備をする。今日は飛雄君のリクエスト通りポークカレーで、さらには温玉まで乗せてみました。ええ、そうです。暇だったんです。家に誰もいないし、部活もしてないし、暇を持て余して課題もやってしまうくらい暇だったんです。

「あれ、このカレー……」

「お兄ちゃん、温玉のせ初めて?」

「おう」

「美味しいよ!早く食べよう!」

着替えを終えた飛雄君は温玉のせカレーを不思議がりつつも、席に座った。

「「「いただきます。」」」

ぱくり、と飛雄君がひとくち食べた瞬間、あまり表情は変わらないものの『美味しい』と雰囲気が語ってくれた。分かりにくいようで実は分かりやすい飛雄君の反応に私も素直に嬉しくなる。

「美味しいよ、お姉ちゃん!ほら、お兄ちゃんも」

「……うまい」

でも、やっぱり可愛い妹と弟の褒め言葉が一番嬉しいかもしれない。

「ありがとう。」

今度は3人で作ろうね。


「実は、アップルパイも作ったんだけど食べる?」
「お姉ちゃん、どんだけ暇だったの?」





2015.10.20

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