第二章
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走って走って家にたどり着くと、鍵穴に鍵を指して急いで回す。

「ただいま。」

返事はない。靴を脱いでリビングに行くと母の置手紙がローテーブルの上にあった。

紫へ
おかえり。
夕飯は作ってあるので、温めて食べてください。
父さんは帰るの遅くなりそうだから、
戸締りをしっかりして寝てください。
留守番よろしく。
母さんより

忘れてた・・・。今日母さんは高校の同窓会で帰りが遅くなるんだった。
だけど、今の自分には好都合だ。こんな顔で帰ってきて母さんが異変に気付かないはずがないのだから。

「なんだったんだろう。あの人形・・・。」

何故か無性に篠笛が吹きたくなった。
もう時刻は午後5時30分を指している。いつもなら危ないからと家から出ない時間だが、
冬ほど暗くはないのでいつもの神社に行こうと笛を携え、家を出た。


神社の境内に入るとひらひらと桜の花びらが舞っていた。
ここは小さな古い神社で存在すら知らないひともいる。春には今のように桜が舞い、梅雨の時期が近付くと藤が躍る。
秋には紅葉が色づき、冬には冬牡丹が銀世界に色を添える。小さくて古くとも私は幼いころからこの神社が好きだった。
笛を取り出し、口をつける。
深く息を吸って、笛の中に息をいれる。
しかし、いつものように私を虜にしたあの澄んだ音が出なかった。
まるで初めて篠笛を手に取ったあの頃の自分のようなかすれた息の音しかしない。

「なんで・・・」

ぐるぐると思考を巡らせる。
こんなことは初めてだ。音が出ないことなんて今までなかった。
徐々に徐々に日は暮れはじめ、逢魔が時に差し掛かる。

「お主、何に中(あ)てられた。」

後ろから突然女性の声がし、勢いよく振り返る。
だが後ろには誰もいない。あるのは何もない社だけだ。

「聞いておるのか?何に中てられて楽(がく)ができんようになった。」

再び聞こえる女性の声。

「あなたは、誰?どこにいるの?」

「なんじゃ、聞こえておるのではないか。社の戸を開けてみろ。」

何故か言われた通りにしなければいけないという謎の使命感に駆られ、社の戸を開けた。

「はじめまして、じゃのう。」

そこにいたのは十二単を纏った美しい女の人だった。



美女と私




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