order of deathC


「どうぞお座り下さい」

アナウンスに従い部屋に入ると、くたびれたスーツを着た男が洋介に席を勧めてくれた。

「えーっと、お名前は志賀洋介さんですね。はい、はい。うん。はい。あー、Cコース。あー、はい、なるほど」

くたびれたスーツを着た男はカルテを片手に持ち、足を組みながらそれに目を通している。


「すみませんね。わざわざここまで足を運んで貰って。こればっかりはAIで全てを判断する訳にもいかなくて・・・
。っといっても、まぁ、私ども人間が特に何か重要な決断をする訳でもないんですがね。何というか、まぁ、形式上決まっとる訳ですな。最後の判断は人間でと」

「いえ、今更これぐらいの足労は些末な事ですから」

「ま、そうですな。今更ですし。些末でしょうとも。ま、何にせよ、やらなくちゃならないから、やっぱりやらなくちゃならんということですな。人間である限りは、やはりそれぞれに役割というものがあって、一応はそれをやりきらないといけないということで、ま、そのへんの事は洋介さんには、まぁ、特に問題のないことですな」

「それで、何を確認しなくてはいけないのですか?」

「ああ、そうそう、んー、どうします?サインもされてますし、やるって事でいいですね?一応これは最終確認ですが」

「・・・・」

「いいですよ。悩んでも。一向に構わないです。悩む位の時間なら永遠と言っていいほどありますからね。まぁ、でも、ワタシの経験上、悩んでも大抵は何も変わりませんがね。というより悩むほどの材料がないというか、まぁ、いや、まあ、ゆっくりと考えて下さい」

男はそう言うと椅子の背もたれに身体を預けると天井を仰ぎ見て、深いため息を吐いた。

洋介は演技臭いその男の横柄な振る舞いを傍観しながら、幾ばくかの時間を自分が今悩んでいるのかどうかを考えようとしたが、やはり頭には何も浮かんでは来なかった。

「いえ、もう十分考えてのことですから」

「分かりました。それでは決定ということで、それで、いつから始めますか?」

「今からでも可能と伺いましたが」

「もちろん可能です。というより、それが普通ですな。まぁ、普通というよりそういう考え方でないとどこか辻褄があってないということです」

「では、今からでお願い致します」

「うん、はい、そうですね。はい、あーでは、プランの内容でいくつか詳細を決めていきましょうか」

「お願いします」

「ではですね、えー、この項目に登場する氷川さんという方ですがね。あー、実はもう既に亡くなられているんですが、ここはどうしましょう、代役を立てるか、それとも元々居ない体にするか、あとはまぁ、どうですかね、近しいシチュエーションで新たに創作してしまったりも可能ですが」

「そうですか。氷川さんが。氷川さんの死因は分かりますか?」

「えーっと、氷川さんは、えっと?ああ、まあ、心不全となっていますね。つまり、まぁ、氷川さんにとってはそうなのかもしれませんね」

男はそう言って少し申し訳無さそうに、目を伏せた。

「そうですか。いえ、構いません。記憶も朧げですし、氷川さんという名で自然な形で創作してください」

「ええ、はい、そうですか。はい。かしこまりました」

「それではですね。ーーーーーー」

その後も男は洋介に対して各項目についての擦り合せを行っていく。洋介はあまり時間を掛けずにそれぞれの質問に対して簡潔に答えて行くが、それでもその問答が終わるのには数時間が経っていた。

「それでは、最後の質問になりますが。ああ、これは、まあ、このプランとは関係なくワタシが毎回聞いているだけで、単なる好奇心というか、趣味というか、コレクションというか、まあ、とにかく、そういうことなので、特に答える必要もないのですがね。一応皆様に質問しているのですが、よろしいですかね?」

「ええ」

「あ、はい、ではですね、ええ、あなたは幸せですか?」

「私が幸せか・・・?」

「ええ」

「・・・・・」

これまでほとんど詰まることの無かった問答であったが、男の最後の質問に洋介は即答できなかった。洋介は目を瞑り、もう一度自分自身に問いかけた。自分の置かれている環境をただ客観的に評価すればいいだけなのであるが、どうにも返答がない。

洋介の目は虚空を見つめている。5度にわたって自分に問いかけてみる。

『自分は幸せか』と

洋介ははっとしたように、目を開き。少し恥じらうように笑った。

「はは、そうか。あなた自身がおっしゃった事ですよ。人には役割があると。つまりその役割はあなたであって私ではない」

「なるほど。なるほど。まあ、まあ、そうですね。その答えが最も理に適っておりますな。よろしい、100点満点を差し上げましょう。ああ、いや、点数などは野暮というものですかな。まあ、なんにせよ。いや、最後にワタシのわがままに付き合ってくれてありがとうございます」

「いえ、思わず笑ってしまいましたが、なるほど、そんな質問もあるのですね」

「ええ、ええ、57番街ジョークとというやつですな。それじゃあ、まあ、確認も終わったことですし、そろそろ始めるとしますか」

「ええ、お願いします」



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