罪と罰〜サウンドオブギルティ〜
「…被告人、前へ」
判事の冷たい声を聞きながら、汚い(きたない)は昨日の夕食の事を思い出していた。
メルヘン通り中央に位置する拘置所『ゴミ袋』
灯りの切れた独房の壁は、月の光だけでもわかるくらい堅牢で、汚い。
太い格子についた小窓から夕食が差し入れられたのは定刻より20分遅れだったが、それでもいつもに比べると随分早い方だった。
トレイの上には粗末な豆のスープと一切れのパン、バターナイフとランプをカバンに詰め込んで首都高を駆け抜けた日々。ライバルのケツに火を放ったこともあったっけ。あのあと後遺症が残るぐらい半殺しにされたんだよなあ…こえーわマジ全然ジョーダン通じねえんだもん…
そんな事を思い浮かべながら、淡々と語られる自らの罪状の一つ一つに対し、神妙な面持ちで頷いた。
でもよく考えるとさあ、あいつも悪いよね。俺に火をつけさせたっていうのも罪でしょ。どうしても火つけたくなったんだもん。お陰でこっちも酷い目にあってんだしさぁ、五分五分でいいじゃん。それをさ、「もう二度とうんこできないねぇ…」とかやばくね?鬼でしょ鬼
共和国国選の弁護士は苦笑いしたまま、一言も発さない。その表情を確認した検事は自信ありげな顔で、本件が如何に卑劣で身勝手な犯行か、それによって被害者がどれだけ苦しんだかを訴える。
あークソまじイラついてきた何で俺ばっかりこんな思いしなきゃなんねーのよ。次見たらもっと酷い目に合わせてやろうっと。こないだ貰った沖縄のお土産をマフラーに詰め込んで、あいつの犬のエサに洗剤混ぜて…
「ガスメーターをマジックで塗りつぶす、お気に入りのTシャツの乳首のところだけハサミで切りとる、風呂の栓を盗む、飼ってる鳥を逃がす、実家の畑に除草剤を撒く、免許証に落書きする。これらの厄介な行為は到底許されるべきものではなく…」
汚いはその先を聞くことはしなかった。己の肩にのし掛かる罪の重さに口を噤んだ。彼の意識は現実や時間から目を背け、暗く深い海へと沈んでいく。
ライバルと街を疾走したあの頃…
耳に残るのは、摩天楼の中いつも流れていたあの曲だけ
(バ-ニラッバニラバ-ニラ求人ッバ-ニラッバニラ高収入〜ッ)
「では、判決を言い渡す。主文…」
(バ-ニラッバニラバ-ニラ求人ッバ-ニラバニラデアルバイト〜ッ)
「ガチョ〜ン!」
「えっ」
「ガチョンガチョ〜ン!ガチョチョ〜ン!」
「ガ、ガチョーン老人判事…!」
「そう!わしはガチョーン老人判事!世にはびこる罪をガチョーンの一言で片付ける、愛と司法の伝道師!ガチョーン!」
ドダダ!!ドダダダダ!!!
いきなりマシンガンで撃たれて
死なない!死なないのだ!
生きろ!汚い(きたない)!
生きて、生きて、生きろ!
そして、目を背けるな!
罪がはびこる現実を見ろ!
見ろ!見ろ!見ろッロッロッ…
だが、見えないのだ。
現実が見えるのは、現実を見る能力を持った者だけ。
それがッ! Say!
オーレイッ!
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