ライインベッド


眠りにつく瞬間のことを、私は覚えています。
決して夢を見ているのではありません。毎晩のことですから。
こんな風に言うと、皆へらへらと私を茶化しにかかるか、気色悪がってさっさと話を切り上げようとするのがお決まりなのですが。それも全員、覚えています。

要するに皆、私を嘘つきだと。言明して懲らしめてやるのは忍びないので、関わり合いになるのを避けるのです。こんなつまらないやつに取り合うと自分も甘く見られるぞと、私を見下すのです。

辛抱強く話を聞いてくれた両親も、しまいには偉い先生に頼みこんで、私の頭にこれでもかと電極を繋がせました。朝になって、先生はしばらく何かの機械と写真を見比べた後、わからないと言いました。
両親も、先生も、ついに私を嘘つきだと言明することはありませんでした。
私は、誰にも、嘘つきだと断じられたことは一度もありません。

そもそも、皆さん、眠りとは何かをご存知なのでしょうか。
睡眠と覚醒の境を、はっきりと示すことが出来る方はおられるのでしょうか。
こう言いますと、私自身の話に矛盾を感じられるかも知れません。
しかし私は、薄らと私自身が、私の手を離れていく瞬間を、毎晩感じ、毎朝思い返すのです。

真面目に話を聞いて下さる方も、中にはいらっしゃいます。貴方もそうです。
ですけれど、真面目に聞いて下さるからどう、と言うことはありません。
ただ私に好かれようと静かに相槌を打ったり、物言いをつける機会を伺ったりするものですから。

夢に見るのは大抵、そんな方々です。
私が一生懸命に話をして、何度も何度も主張を繰り返すのですけども、とんと響かない表情で私の目を覗き込むのです。
私にこれでもかと電極を繋いだ偉い先生が、にこやかな表情で私の話に相槌を打つのです。私、もう、恐ろしくって。飛び起きたことだってあるんですよ。

起きる瞬間のことですか、それも覚えております。
と言いましても、夢を見てしまうと、あとから思い出すのには少々難儀しますけれど。
一昨日のことでしたら、よく覚えております。
家には犬がおりまして、躾が足りてませんもので。朝には大きく吠えて、それで私、目を覚ますのです。
犬が吠える前に、お風呂場の灯りを消し忘れたかなと考えておりました。起きたら消しに行こうと。
いいえ、その時はまだ眠っております。だって、起きてませんもの。

灯りはきちんと消えておりました。その前ですか。
その前のことなんて覚えちゃいませんよ。だって私、眠っているんですよ。
ですけど私、貴方のことも覚えておきますから。
嫌ですよ。どうせ、一番よく夢に出てくるんです、貴方みたいな方が。

夢に出てきて、そうです。
きっと、今さっきみたいな顔で、自分は信じるだとか何とか、私の耳元で仰るんです。
私が一生懸命、嘘だ嘘だと主張しているのに、ちっとも聞いてくれやしないんです。
嘘ですよ、全部。嘘で結構です。本当にいつもこうなるんですから。
ですけど、さっきも申し上げたように私は、誰にも、嘘つきだと断じられたことは一度もありません。

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