ストレンジャー2
ビリーが手持無沙汰にカウンターに立ち、コップを丁寧に磨いていると、彼女は先ほど渡された衣服を着て現れた。
ベージュのケーブルニットとブルーグレイのマキシスカートという女性らしい衣服の上には、昨日手渡されたどうにも粗野な茶色いマントが羽織られている。
「あ・・・あの、なんですかこれ?」マントには殆ど重みが感じられなかった。どうにも他の衣服とは違う趣のそのマントが気になったらしい。
「何って、君のファイヤーウォール用のマントさ。まさか何も羽織らずに過ごすわけにもいくまい」
「?」
彼女にはどうやら言葉が伝わっていないようである。複雑な会話をするにはもっと多様な言語のやりとりを首輪で解析する必要がある。
しかし、ビリーの懸念はどうやらその他にもありそうであった。ビリーは彼女に対して自分の首輪を指差し、こう言った。
「ソウルリンカー」
「ソウルリンカー?」彼女は首を傾げて、そう呟き返すが、やはりその言葉の意味は分からない様子である。
ビリーは半ば予想してはいたが、首を傾げた彼女を見て、彼女が抱える事情が思ったよりも複雑で、のっぴきならない物だと確信することになる。
それというのも、首輪を外しているがために言語が通じず、意志の疎通ができないのであれば、問題は首輪を装着すれば解決するはずだ。
だが、あれほど無防備な姿でバーに現れた彼女である。問題は常識の範囲では及ばない。かといって彼女自身が常軌を逸した人間にも見えない。
となると、問題は彼女を取り巻く環境が常軌を逸しているのであろう。そもそも彼女は首輪に対する知識を持ち合わせていないのではないか。というのがビリーの懸念であったのだ。
記憶喪失による記憶の欠如なのか、そもそもそのような知識を持たないのか、ビリーには判断ができなかった。
例え記憶喪失としても、首輪に対する知識が抜け落ちるなんてことがあるだろうか?人名を忘れたり、直近の記憶がまるまる抜けるという話は聞いたことがある。
だが、この頭上に果てしなく続く空が空であること、山嶺を下って海へ流れゆく川を川と呼ぶこと、そんなことまで忘れたりするだろうか。科学が発展した現代において、このソウルリンカーと呼ばれる第2の頭脳はもはやそれほど当たり前の存在なのである。
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