ストレンジャー3
「わかった、お嬢さん。とりあえず名前を教えてもらえるかい?」押し黙ったまま動かないビリーを前にして、マントに包まれたまま不安げな顔を浮かべる彼女は、小穴で雨をしのぐ小動物のようである。
「な・・名前ですか?」
「ああ」
「なゆた・・・麻生なゆたです・・・」
「ふむ、なゆたか。いい名前だ。それで、なゆたはどこから来たんだね?」
「?」
「どこ・から・来た?」ビリーは指で円を描くように周囲を指さした後、その指を自分の足元まで持ってくると、首を傾げて疑問形っぽい頭の悪そうな表情を見せた。
「ここに?」
「ああ」
「・・・・あ、えっと・・・分かりません。気づいたらあの山にいて、気味の悪い生き物も沢山いて・・・。それで、怖くて必死に逃げてたら街が見えて・・最初に見つけたお店がここで・・・」彼女は自分の言葉が通じているのかが分からず、少し喋ってはビリーの顔色を伺っていた。
「大丈夫。録音しているから、ソウルリンカーで解析しても分からない部分はあとで改めて聞こう」ビリーは手振りでそれを伝える。彼女はその所作を見て、その首輪が翻訳機のような役割を果たしていることを悟った。
「他に覚えてることは?歳とか住んでいる場所とか」ビリーは段々とジェスチャーによって意思を伝えることが面白くなってきた。昔はこんな風に色んな所作を用いて気持ちを伝えたものだ・・。などと感慨深くさえ感じた。
「えっと・・・・・歳は・・・」なんとなく打ち解け始めたかという矢先、なゆたはそこで言葉を詰まらせ、長い間黙りこくってしまった。なゆたは自分の年齢が自然に出てこない事に今初めて気づいたのであった。親の顔は?自分の住まいは?ここはどこなのか?今は何年?なゆたは思いつく限りの質問を自分に投げかけるのだが、どれひとつとして返答は返ってこない。
(どうして?何故何も思い出せないの?一体自分は誰なの?)
疑問が疑問を呼び、膨大な疑問だけが蓄積されていく。やがて、それは泥沼のようになゆたの思考を絡め取って、得体の知れぬ恐怖感に引きずり込んでいくのである。
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