アイ・ウォナ・ビー・アドア1


二人の問答は夕暮れどきにまで及んだ。はじめこそ、マントにもビリーの姿にも戸惑いを見せていたなゆただが、やがてそれも慣れてきたようである。さらに、コミュニケーション能力も飛躍的に向上した。ソウルリンカーのおかげで日常会話の半分くらいは理解できるようになった。

「それにしても、そのソウルリンカーで私の言葉を翻訳できるのは分かりましたが、どうやってビリーさんは私と同じ言語を話したり理解したりできるんですか?」なゆたは底の無い疑問を次々と投げかける。

「骨伝導というものは分かるかい?」

「こつでんどう?」

「単純に言えば鼓膜を使わず、骨などの振動によって直接、聴覚神経に音を伝える技術さ。まず、君の音声をソウルリンカーで読み取り、それを私の言語に変換する。そして、変換されたデータは骨伝導によって聴覚神経へ伝わり、あたかも自分の知る言語として脳が理解するわけだ。タイムラグもほとんどない」

「すごい・・・!だけど、それだけで相手の言語を話せるようになるのですか?」

「もちろん変換機能だけでは無理だね。話すには少し慣れが必要になるが、自分の言語で話したいと思った内容を、ほんの小さな動きでもいいから、唇を動かすのさ。うまい奴ならほとんど頭の中で読み上げるだけでもできる。すると、その動作に対する脳の信号をソウルリンカーがキャッチし、膨大なデータの中から君が用いる言語に変換した後に、再度、骨伝導で聴覚神経に送る。そうすると、自分が伝えたい内容が君の言語になって読み上げられるのさ。あとはそれを発音するだけだね」ビリーはさも当たり前の技術であるかのようにその仕組みについて答える。しかし、なゆたは聞いたこともない話ばかりで、目をまるくして感嘆するばかりであった。

「そんなことができる機械がこの世界に普及してるんですか?」

「ああ、そして、我々はソウルリンカーで形成された社会の事をSLSと呼んでいる。さっきも言ったように君が知っている文化水準は何十年も前のものだよ。ソウルリンカーが普及し始めて50余年が経ち、この小型情報端末器ひとつであらゆる情報を即座に得られるようになったし、様々な機能が使えるようになった。例えばマントを着ていない君をこのソウルリンカーでスキャンすれば、君のおおよそのスリーサイズから年齢、嗜好に至るまで実に多くの情報を読み取ることができる。つまり君が昨晩バーに訪れた時の格好なんて、現代社会においては丸裸に等しいのだよ」ビリーにそう言われると、自覚のなかったなゆたは、顔を真っ赤にして、怯えたように自分の両肩を抱いて蹲った。

「このバーにそんな野暮な真似をするやつが来店しているとは思えないがね。今の若い世代は知らないが、この技術が流行りだした当時、様々な犯罪が起こったものさ」

「こ・・このマントはそれが分からないようにするためのものなんですか?」

「そうだとも。ソウルリンカーからの干渉をジャミングして妨害するのさ。今はホログラムで自分とは別の姿を映し出すことで、それも必要なくなったのだがね。まあ、そういう技術を総称してファイヤーウォールと呼んでいるのさ」

「朝に言ってたファイヤーウォールって、そのことだったのですね」なゆたはそれを聞いて一安心という具合に、胸をなで下ろした。

「そうだね。ホログラムは皆それぞれ好きなように映し出せるから、現代じゃ君みたいに人の姿をして常にマントを着ている人は稀なくらいさ」

「じゃあ、もしかしてビリーさんの卵みたいな姿も本当の姿ではないのですか?」

「当たり前さ。こんな姿の人間がいるかね」ビリーはそう言って高らかに笑った。

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