フェノメナル・キャット4


商店で品物を受け取りのを待っていたシンディは、なゆたが出てくるとニコリと笑った。

「ねぇねぇ。帰りはレイルネットで送ってあげようか?」先ほどの話でストックマートの輸送に使われるというレイルネットだが、なゆたには従来の車や電車といった輸送手段を想像するしかなかった。人を送迎できるというのであれば、車のようなものだろうが、この街には車がほとんど走っていない。なゆたは人々が離れた距離を移動する際にどのような手段を用いて移動しているのかに興味を抱いたようだった。

「もし、お邪魔で無ければ乗せてもらってもいいですか?」

「大丈夫、大丈夫。じゃ、いこっか」シンディはしっぽをピンと立ててにこやかにそう言うと、近くにあるハブへとなゆたを連れて行った。

「いらっしゃいませ」中に入るとホログラムで映し出された店員が、お辞儀をして出迎える。なゆたの想像していたコンビニとは似て非なるもので、一昔前の郵便局や銀行に近いだろう。長椅子や観葉植物、様々な雑誌やホログラムディスプレイが置かれているが、肝心の商品はどこにも無かった。

「無知とは極上の嗜好品。さぁ、味わおう。次世代の甘さをサイコキャンディー( 幼少期味 )新発売!」どこかの商品の宣伝であろうか、ホログラムディスプレイだけが無機質な店内に淡々と時を刻んでいる。

「ここがハブですよね?商品がひとつもないですけど、どこで買うのですか?」なゆたはシンディに尋ねた。

「ソウルリンカーで注文すればあそこのカウンターですぐに受け取れるよ。この街で日々必要になりそうなものはAIが管理して地下に収納してあるから、大体のものはすぐに受け取れるし、仮に地下に無くても他のハブから取り寄せるだけだからどんなに長くても30分くらいで物は届くかな」シンディはそう言いながら実際にキャンディーを注文して見せた。

「へぇー、すごく便利ですね」

「ははは。私が子供の頃には大体もうこんな感じだったから、特に驚きはなかったけど、商店しか利用しない人からすれば確かに便利だよね。ほい、あめちゃんあげる。これ今都会の方で流行ってるんだよ」シンディはそう言ってカウンターで受け取った飴を一粒渡した。

「あ、ありがとうございます。サイコキャンディー?さっきCMでやってた飴ですね。美味しいんですか?」なゆたは包装されたその飴玉をまじまじと見つめながら聞いた。

「ま、食べてみたら分かるよ」

「じゃあ」なゆたは袋から出した玉虫色の飴玉を掌に乗せると、口の中に放り込んだ。

「どう?」

「何だろ・・・。甘くはないけど、まろやかなような・・・そうでもないような・・・でもなんだか懐かしい味・・・」なゆたは飴玉を口の中でコロコロと転がしながら味覚でその味を捉えようとするが、どの味覚にも反応がない。

「ははは。変な味でしょ?それは新発売の幼少期味だからね。脳に作用して幼少時代の愛や恐れや好奇心を思い起こさせる味になってるんだよ。元々は精神病を患っている人向けに開発された医療用の飴なんだけどね」

「そう・・・ですか。私の幼少期はこんな気持ちだったのかな」なゆたはサイコキャンディを舐めている内に、どんどんと胸が熱くなってくるのが分かった。母親の顔や父親の顔。そして、自分の産まれた故郷が急に恋しくなった。そして、そのどれもがやはり思い出すことができずに、自然と涙が溢れてきたのだ。

「わわ。大丈夫?」シンディは毛を逆立てて、ワタワタと驚きふためいた。

「大丈夫です。ああ、もう。泣かないって約束したのに・・・」

「えっと、えっと。あ、そうだ。と、とりあえず私のレイルカーに乗ろっか」シンディは皿を落としてしまった子供のように、わたわたと手を振りながら、ぐずつくなゆたをなんとか誘導して、店の奥のエレベーターに連れて行った。地下10階まであるエレベーターは商業用や個人用、店舗用など様々な用途によって階分けされていて、個人用は地下4階にあった。エレベーターを出ると地下に広がるのは両側に無数の扉が連なる長い通路であった。予めレイルネットに繋がるエレベーターであることを教えられていなければ、おそらくどこかのホテルに連れてこられたと勘違いしたであろう。

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