サウンド・オブ・サイレンス1


ユーネリア山脈の南端、ウライズラ地方の自然公園は一級の観光地としてその名を広く世に知らしめている。晩秋、日に焼かれその身を焦がした山林と、カルヌイ海の遠浅に広がるエメラルドビーチに挟まれた観光街には世界中から多くの人々が訪れる。このカラフルに彩られた自然と、レンガ造りの情緒溢れる町並は、浮世の辛さを忘れ、ひと雫の安息を求める者たちのユートピアなのである。


日がまだ燦然と輝いている昼下がり、陽気に誘われたカップルは、洒落た竹織りのランチボックスにサンドイッチを目一杯に詰め込み、自然公園の中で他愛もない言葉を交わして乳繰り合っている。また、親にしっかりと手を握られた子供は、何度も跳ね回りながら、見る物見る物を指差しては親にあれは何か?と尋ねてはしゃいでいる。

「素晴らしき世界!美しき世界!ようこそ幸せの果てへ!ここはあなたの心の故郷、シルクイの街!」

 街の入口で仰々しい文句と共に建てられた看板も陰ってくる頃になると、この街はその景色と共に色を変えていく。レンガ作りの古き街並からは、優しく包み込むような光が曇った窓ガラスから溢れ出し、そこかしこで空腹を刺激する甘く香ばしい匂いが漂う。すると、昼間にホテルでその身体を休めていた熟練の旅人達が、わずかな怪しさを纏い、街に彷徨い出てくるのである。メイン通りを少し離れた街の奥に足を運べば、様々な弦楽器や打楽器が美しい音色とリズムを奏でている。そこはビアガーデンやバーが軒を連ね、それぞれの店がその店独自の色を出しながら、旅人達の顔を赤く染め上げて行くのである。

そのさらに奥へ歩を進め、シーサイドホテルが遠目に見える所まで来ると、一軒のビアガーデンが迎えてくれる。辺りには麦畑が広がり、風が凪ぐごとにさわさわと幾筋かの波が穂の上を這い、ビアガーデンから漏れ出ずる音楽に合わせて踊っているかのようだ。

ネオン灯の下の重厚な押し扉を開くと、ひそやかな喧噪と、厳格な陽気さを混ぜ合わせた店内が広がっている。奥の小さなステージにある黒塗りのピアノには、銀色のハーモニカと灰皿が置かれ、その椅子にはすらりとした艶の良いスーツを着た男が一人。

その姿は顔から靴まですべてが黒く、目と首元に下げられた小さな首輪だけが鋭く光を放っている。しかし、首輪に限ってはその男に限らず、丸テーブルやカウンターに腰掛ける全ての人々も同様である。さらに、店内を見渡すとバルーンアートのように、関節以外には余すところなく無駄な脂肪をこさえたマスターが、まるでこびり付いて取れなくなったような笑顔を見せながら、忙しそうにグラスへ酒を注いでいる。

この場末の酒場では、ある者は粛々と、ある者は儀式的に、またある者は懐疑的に、目の前にある酒を舐めるのであった

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