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車は少し古びた外観の、地中海らしい印象の白い煉瓦造りの建物の前に停った。
ブチャラティさんの丁寧なエスコート付きで車を降りた。花壇に植えられた可愛らしい花が、鮮やかな色彩で目を楽しませ、甘い香りを漂わせているその奥へと進み、赤茶色の扉の中奥に入るとジョルノは微笑みを私に向けた。
「今から仕事についてお話します。でも、そうですね、大きな荷物は先にホテルに運んでおいていいでしょう。フーゴ!」
フーゴと呼ばれた少年(だと思う)が少し先の扉から出てきた。真面目そうな、お堅い雰囲気をまとっているのだが、苺柄のタイをしているせいか可愛らしさを感じてしまう。フーゴは私を見て少し頭を下げた。
「おかえりなさい、ジョルノ、ブチャラティ。空条さんもご一緒ですね。そこの女性が伊川さんですか?」
もう私の名前が分かっているのか。情報の伝達が早いというのは良い団体・組織において、当然の共通項だ。なんて感心しつつも、彼らが何をして稼いでいるのかは未だに不明なことに気付く。きっとそれもこの後教えてくれるのだろう。そんなことを思いながら、私はフーゴを見て挨拶を返した。
「彼女と承太郎さんの荷物をミスタの管轄のホテルに持っていってください。部屋は任せる」
「わかりました。あ、会議室の準備は出来ています。それと、ブチャラティ、アバッキオがカジノの件で話があるそうです」
「そうか。ありがとう」
フーゴは要件を簡潔に伝え終えると、私と承太郎さんに会釈をして外に出て行った。その後すぐに、ブチャラティさんもジョルノと二言三言交わすと、また後で、と言って奥に消えた。
「さてと、こちらです」
ジョルノは淡々とそう言って前を歩いていく。承太郎さんが続き、私も追い掛けるように着いて行った。
黒く、如何にも重たそうな扉の前に来れば、そして如何にもと言う風貌のスーツの男性が頭を下げた。警備にしては上等な服だと感じた。スーツの男とジョルノが話している様子を観察していると、承太郎さんが溜息をついて私に顔を向けた。
「ルナさん、ここにいるやつらは、全員スタンド使いで、一応信頼できる面子だ。だが……」
「変な人が多いので、気をつけてください。本当に」
ジョルノがやけに真剣な調子で言葉を続けたため、急に不安になってきた。
会議室には既に数名いて、皆険しい目付きで席についていた。男性ばかりの状況に気圧されながら、承太郎さんの後ろに隠れるようにして、そろりと部屋に入った。
「Molta Bella!」
驚きすぎると人は声すら出ない。
ヌッと現れたブロンド長髪の男性に、急に至近距離まで顔を寄せられ、私は間抜けな金魚のように口をパクパクとさせる。その服は着る必要はあるのだろうかと思うくらいに、上半身は半分ほど肌色が見えている。
「座ってろッこの変態馬鹿メローネェッ!」
「痛ァいッ!!ひっどいなあ?!」
突然つららのようなものが、そのメローネと言われた男性の頭を直撃した。尻もちをつき頭を押さえて、眼鏡の男性を睨んでいる。
「気にするな、バンビーナ」
金髪をぴっちりと後ろにまとめた男性が、微笑んで手をひらりとさせた。バンビーナといわれる程の年ではないものの、言われて嬉しくないわけはない。好意的な様子が見て取れ、絶句している私に気を使ってくれているのが分かった。さすがイタリアーノ。
「ルナさん、どうぞ座ってください」
ボスらしく上座に立っていたジョルノは私に座るように促した。承太郎さんの隣の椅子を引いて、そっと腰を下ろす。
「伊川ルナさんです。先程皆さんに連絡した通り、我々の助っ人になる方です」
全員が席に着くとジョルノがそう言う。
私は承太郎さんから回された資料に視線を落とす。メモ付きで、恐らく承太郎さんの筆跡と思われる丁寧な字で再度警告される。相当に厳しい仕事かもしれない、これを読めば後戻りはできないが大丈夫か、と。何となく確信もないが、大丈夫な様な気がして、私は目線を彼に移し頷いた。
資料はペラ紙一枚で、裏返しにされ文面が見えないようにされていた。表を向け、そこに美しいフォントのイタリア語で書かれていたのは次のようなことだ。
パッショーネ、暗殺部隊補助業務について
指示は全て部隊リーダーもしくはボスから直接受け取ること。配給するスマートフォンから確認可能。閲覧された情報は最初の閲覧後一時間で自動消去される。業務については守秘義務があり、破られた場合には相応の処分あり。業務上、危険性の高いものがあり、その場合においては安全が確保されない場合もあることを承知すること。期間は指令完了までであり、約一ヶ月。この文章は再度裏返しにされた時点で処分され、貴殿の特別な入団が許可される。報酬は……
云々。組織の名前はパッショーネと言うそうだ。そして私が手伝いをするのは何と暗殺。これもまた小説の中でしか見た事のない文字であり、現実感というものは今の段階ではやはり毛程も無い。こっそりとテーブルの下で手の甲を抓っても、ただ痛いだけで夢から覚めることも無く、同じ光景が広がっている。もう致し方ない、と思い紙を再び裏返すと、どういう訳か紙はモンシロチョウになり、私にバンビーナと言ってきた男性の元へ飛んで行った。蝶は枯れた花びらのようにポロポロと崩れた。そうすると、ジョルノが明朗な声でまた話し始めた。
「ルナさんのために組織について簡単に説明すると、僕らパッショーネはギャングの組織です」
「ギャング……」
「単にイタリア政府などが表立ってできない仕事をしているというだけで、要は自治組織ですからね。世界的な財団とも手を結んでいまして、承太郎さんはそちらの関係でここに来て貰っています」
「財団……」
隣にいる承太郎さんをちらりとみれば、特にどうってことは無いというように無表情に居た。
「先ほどの紙が裏返されたので、この場でルナさんとの業務契約が締結したものとします。ここまでで何か質問は?」
「あの、業務内容は?随分と危なそうだけれど……」
「それについては承太郎さんから話していただきます。契約については特に問題は無いですね?」
ジョルノに言われて頷いた。
見たこともないような額の報酬と、滞在中から日本までの超がつくほどの高待遇が約束されている。業務は危険かもしれないが、今後の作品に生かせるリアリティの為だと思えば多少は問題ないだろう。マーシレス・カルトのスタンド能力は長距離であるし、私自身が危険に近づくことはきっと避けられるだろう。
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