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暗殺チームは全員で九人。
今日初めて顔を合わせた、ホルマジオ、イルーゾォ、ソルベとジェラートは、私をみて「こんな女の子にやらせて大丈夫かァ?」と口を合わせて言った。談話室でペッシが出してくれたコーヒーと、お茶受けのビスコッティをいただく。軽く自己紹介を済ませた私の口からは、乾いた笑いが出た。
談話室は広く、私と承太郎さんを合わせた十一人でもなお窮屈さを感じない。私は承太郎さんと横並びにソファーへ、向かいにはメローネとリゾット、その後ろにギアッチョ。ホルマジオは少し離れたところのダイニングテーブルに、ソルベとジェラートと居る。イルーゾォは壁の鏡からこちらをのぞいていて、ペッシとプロシュートは壁際に立っている。
「まあルナちゃんもスタンド使いだし、それなりに精神力があるってことだろ?ディ・モールトじゃないか」
メローネはパソコンの画面から少し目をあげて、私に視線を寄越すと、ニコリと微笑む。「てめえのそれは気持ちが悪りぃ」と後ろに立ったギアッチョに頭を叩かれていた。
着信音がし、音のする方を見ればリゾットが立ち上がって、「俺だ」と2コール目で電話に出ながら部屋の奥へと向かう。
リゾットが部屋から出るのと同時に、ホルマジオは興味津々な様子で前に乗り出して尋ねてきた。
「で、嬢ちゃん、どんな能力なんだ?」
「ハッ、資料ちゃんと読んでねえのかよ」
「え、資料になってるんですか……」
イルーゾォがホルマジオを鼻で笑い、私が眉根を寄せて聞けば、ペッシが親切にもその資料メモらしきものをポケットから取り出して見せてくれた。
「昨日ブチャラティから回ってきたんだ」
「へ、へえ…」
全てではないものの、事細かに書かれた自分自身の情報を読んで、私は口元を引きつらせ、カップに残ったコーヒーを啜った。
「俺たちはギャングだからな、アンタの知ってる常識ってもんは頭の隅に追いやった方がいい」
「いろんなやつがいるし、いろんなことやってるしな」
ジェラートが肩をすくめて言い、ソルベはその横で頷いながら続ける。先ほどからこの二人の距離感がかなり気になるのだが、誰も何も言わないので、何もみていないことにした。
「承太郎さんのいる財団もそれなりにイカしたところだって俺は聞いたが」
「ああ、こちらもいろいろやとっているからな」
プロシュートが笑って言うと、承太郎さんも私の隣でフッと口を横に引いた。己の知らないところでいろんなものが世界を動かしているのか、と知ることとなり、先日訳したばかりの露伴くんの漫画のストーリーが頭をよぎる。生きていると、何が起こるかわからない。
「ボスからの司令だ」
談話室に戻ってきたリゾットのその一言で、和やかな空気は一転、張り詰める。
「バチカン近くに例の誘拐犯がいるとの情報が手に入った。モーリス・モランと呼ばれているフランス国籍の研究者。スタンド使いだろうと思われるが能力は不明。モランが矢を手にしている映像が町のセキュリティカメラに写っていることが証拠だ」
矢、と聞き私は承太郎さんをみた。彼は表情を変えずに手元の黒い表紙の手帳にメモを取っている。
「それで、司令ってのはなんだいリーダー?」
「口を挟むなマンモーニ」
ペッシがプロシュートに頭を叩くと綺麗にパシっと音がなり、つい苦笑いしてしまう。
「言わずもがな殺しだ。条件付きだが」
淡々と告げるリゾットは、焼き増しされた写真を配る。彼の元に届いたであろうデジタルデータはすでに消去されているのだろう。抜け目ない、さすがギャング。
「ふーん、男の割に随分と美人な研究者じゃん」と呟くメローネの言葉に内心で同意する。女の人と言われても申し分のない、白い肌に綺麗にウェーブのかかった腰まで伸びた深海のような色をした髪。ペールブルーのシャツを着て、何かの本を読んでいる横顔が写されている。
「こいつは金も持ってそうだ」
「そういや報酬は?」
ソルベとジェラートが食いついて言う。
「報酬に関してはチームに直接、財団から出ることになっている。矢に関する重要な人物だからな」
承太郎さんが自分の手帳をペラペラと捲って、その報酬金額が書かれている所を彼らに見せていた。かなりの額なのだろう。部屋にざわめきが走る。
「あのー、条件付きって仰いましたけど、どんな条件なんです?」
先程のリゾットの言葉が気になった私は、皆が忘れてしまわないように、控えめに手を挙げて発言した。リゾットは私の方へちらりと顔を向け、それから皆の方に向かって答えた。
「ああ、殺すのは殺すんだが、尋問と拷問付きでとのお達しだ。何でも被害者にとあるVIPがいるらしい。拷問はそこからの依頼だそうだ」
「尋問は矢のことに関してだ。そこは俺とルナさんで、と考えている」
承太郎さんの付け足した言葉で、やっぱり私も現場に行かねばならないのかと改めて理解する。
「今回は暗殺っつーより捕獲と殺しって感じだな」
「俺たちのチームが一番適しているとのボスの判断だ。仕事については調査を俺とイルーゾォで行う。後の任務は追々連絡する。以上だ。解散」
「オーケーだ。じゃあ、俺はひと仕事してくるぜ」
リゾットの解散の言葉を聞くと、プロシュートは写真を胸ポケットに仕舞いこみ、ペッシとともに部屋を出た。続いて、ギアッチョ、ソルベ、ジェラート、ホルマジオも出て行った。
部屋に人が少なくなったからと、イルーゾォは鏡からするりと出てきて、ダイニングテーブルに置かれた缶からクッキーをつまみ、メローネの肩越しに私を見て笑いかける。今回会うイタリア人、なんというかステレオタイプすぎやしないだろうか。
「さて、メローネはさっさとそのデスクワーク終らせて承太郎さんたちの手伝いをしろ。イルーゾォ、調査は今から行くが大丈夫か」
「おう!大丈夫、いつもの感じだな」
「承太郎さんたちはそちらで動いてくれ。新しい情報が入り次第、伝える」
そして随分とあっさり解散し、その場を離れた私と承太郎さん。メローネは仕事が終わり次第連絡をくれるそうだ。今日中には終わらないみたいだから、急に暇になってしまった。仕事をするにしても今日は原稿やらをホテルに置いたままだし、かと言ってホテルへ帰るには勿体無いような心持ちだ。
「それまでどうしよう……」
「特にルナさんに頼むようなことはないからな、しばらくは自由という感じだ」
私は、支給されたものでない自分のスマホを取り出して現在地を調べる。ちょっと歩いた先に何かお店が並ぶ通りがあるようだ。そういえば、この地域にはいい古本屋があると前にどこかで見た気がする。
声を掛けようと顔をあげれば、承太郎さんの顔がすぐそばに。
「その辺で時間潰しでもするか」
一緒に私の手元を少し覗き込んでいたらしい承太郎さんは、そこに画面に写ったものを見て言った。驚いて固まっている私に気がつくと彼は口元を、ふっ、とゆるめる。帽子のつばの影から見える瞳は私を捉える。
「ルナさん?行かないのか」
「あ、え、い、いきますッ」
上ずった声で返事をして、すでに歩き出し先を行く承太郎さんを追いかけた。
来た道を辿って、階段を降りていき、広場に戻る。子供達はすでにどこかに行ったようで、可愛らしい小さな花冠が道端のポストに乗せられていた。
承太郎さんは私の隣で何も言わずに歩いている。昨日からの様子を見て思っていたが、口数の多い人ではない。私は割とおしゃべりな方なのだが不思議と何も話さなくても、居心地はどうしてなかなか悪くない。
あって数日の人に対してふさわしい表現とはいえないが、私たちはきっとスピード感覚が似ているのだろう、と私は半歩先をゆく背の高い彼を見た。
「どこかいきたい場所は?」
私が通りに並ぶカラフルな扉を見て密かに胸踊らせていると、承太郎さんはそんな私に気づいて聞いてきた。
「この辺りに、いい古書店があるらしいから、ちょっと見てみたいかな。学術書が揃っているらしくて」
「それはいいな。探してみよう」
研究者というもの、安価に自分の分野の書物が手に入る可能性があるのなら、いくらでも掘り出し物を探す根気がある。そういう面では、類は友を呼ぶ云々というわけか。
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