sweet shadow



「ねぇ、吉影」

私は呼びかけた人物に、寝転がったまま手を伸ばす。

「どうしたんだいレイラ」

私に微笑んで椅子から立ち上がり、ベッドサイドに腰掛けると、彼は私の手にそっと頬を寄せた。

「今日は珍しく夜更かしじゃあないの」
「……ああ、少しやることがあって」

吉影はちらりとデスクの方を見た。

「大丈夫?最近疲れてるようだけど」
「大丈夫さ。レイラが居てくれるからね」
「そう?無理しないでね」
「ウン。もう少しだから待っていてくれないか」
「はいはい」

吉影は私の指先と唇にそれぞれキスを落として、またデスクに戻る。記録をつけていて、また何かしら変わったことがあったようで、ノートに熱心に書き込みをしている。

私はぼんやりと携帯の画像フォルダを開いて、彼と撮った写真を見ていた。あんまり写真は好きじゃないらしいんだけど、私と撮るのは良いとか言って、デートに行けば思い出としてたくさん撮ってある。
一番古いのは、ピクニックに言ってサンドイッチを頬張って、目を見開いた私と吉影。すごく可愛い感じに撮れていると思う。どれもいい写真だから大切にバックアップもとってる。

「何?笑ってるの?」

作業を終えたらしく、吉影はそっと音なくベッドに入り込む。

「写真見てた」
「ああ、レイラはいつも上手に撮るな。わたしにも送ってくれる?」
「いいよ。ホーム画面にでもしてよ」
「はは、そうしようか。君は?」
「もうしてる、ほら」

言いながら私はスマホのホーム画面を見せた。二人の手元の写真。ゴールドのペアリングをはめて、カフェでいつかにテイクアウトしたコーヒーカップを持っている写真。

「レイラ……君は本当によく出来た彼女だ」

大きく満足気なため息をついて彼は私の手を握る。

「んー、ふふ」

私の人差し指をすうっとなぞって、綺麗に塗られた爪を見た彼はまた、満足げに手の甲を撫でている。よく飽きもしないものだと思えども、そうやって触れられることが好きだし、私も吉影の手が好きだから似た者同士というところだろう。

「新しい色もいいね。君の指がもっと綺麗に見える」
「それから、吉影が塗るのが上手いからね」

いつもは後ろに撫で付けて整えられた美しい薄いブロンドの髪が、寝る前にはいつも目元にカーテンを引いてしまう。私はその緩やかに波打つ前髪をそっと払って、彼の視界を明るくさせる。
そうすると、これもまた決まって、吉影は指を絡め取り、そこへ唇を寄せるのだ。

「明日も仕事でしょ?」
「ああ、君も明日は早いんだったっけ。寝ようか」

私は重くなってきた瞼に抵抗せず、彼へと少しすり寄った。イングリッシュペアーの甘く優しい香りがかすかに鼻をくすぐる。私は緩慢に目を開け、吉影の頬をそうっ撫でると、同じように彼の暖かな手が私の頬に触れた。

「おやすみ、レイラ」
「おやすみ、吉影」

そうして私たちは、指を絡め合わせたまま、穏やかで静かな夢へと落ちてゆく。