my angle


だから、おれは2




だから俺は、嫌われたかった。


何をどうしたって俺がアイツを嫌うことはないから。


あの事実を、覚えているのか覚えていないのか
覚えていたとして、少しだけなんとなくなのか、もうすべて事細かくなのか、それによっても違ってくる。

自分が酒のせいで理性を失い、彼にどんな方法でかは知らないが誘ったと仮定して、断れなかったジュンがやむなく俺の誘いを飲んだ、と…
あぁ、いや、結構ヤバい、我ながら凄いことをしたみたい
なにやってんだよもう…あーー……
どうしてそんなことしたんだろう


今まで酔って目が覚めたらそうだった、なんてこと一度もなかった。
そもそも自分から誰かを求めたことすら。

でもあの日はきっと俺から誘ったんだろう。
俺がアイツを求めたんだと思う。本当に記憶がないけれど、でも、なんでか、そうだと思う。そうに違いない。


全部頭では分かっているのに、それを認めて彼と向き合って話し合えよ、と言われるとそう簡単にはいかないんだ…すごく難しい。

向き合わなきゃいけない
発端は俺なんだから
謝らなきゃいけない
解決しなきゃいけない
皆んなも薄々勘付いているし
クプスは煩いし
俺も毎日イライラしてる
ジュンも…哀しそう、だし…


いつまでも、認められないとか向き合えないとか言ってちゃ駄目だ。認めて、向きあって、話し合わないといけない。

俺の気持ちを伝えて、アイツの気持ちを聞かなきゃ。
いやアイツの気持ちを聞いてから俺の気持ちを伝える。先にジュンに言わせよう、それから俺も話そう。

いいだろうそれくらい

俺の方が年上なんだから。









「仲直りできた!?」


コイツのお節介が普段よりも更に鬱陶しく感じた。

自分の気持ちを伝えようとしてジュンの部屋を訪ねたものの、目を合わせるとまともに喋れなくなって結局「悪かった」とだけ伝えて逃げ帰ってきてしまったのだ。


「コラ、返事をしなさい」

「煩い」

「謝ってこいって言ったろ?お前さぁ子供じゃないんだからいつまでも、」

「謝ったし」

「…ジュニはなんて言ってた?」

「なにも言ってなかった」

「聞かずに逃げ帰ってきたんだろ」


逃げ帰ってきた、と自分でも思っていたけど人に言われると反発したくなる…

けれど実際逃げたんだ俺は。
顔を合わせただけでもう頭の中が真っ白になっちゃって、声を聞くだけで鼓膜から伝わってきた振動が心臓まで響いた。

途端に身体が熱くなってきてもう彼の目の前に立っていることすら難しくなって…

逃げて、しまったんだよ
クプスの言う通りだ


「もう一回行ってきなさい」

「…は」

「ちゃんと仲直りできないと朝食抜きだよ」

「食べるし」

「だめ、俺が見張ってる」

「…もう放っといてよ」

「っあ、こら待て!…ハニっ」


泣きそうだった。
クプスに説教されたからじゃない、朝食が食べれないからでもない、なんか、もう、なんか、あぁ……

色々分かんない、全然分かんない

こんなに難しい感情に出会ったのは初めてだ
ジュンと出会ってからもう長いこと経つのに、アイツのことでこんなに頭を悩ませるているのは初めてだ…

今まで通りにしたいのに上手くいかない
元に戻りたいだけなのに叶わない

俺と彼の間になにが起きてるの?
これから先、もうずっと、こうなの?
こんな気持ちで彼と関わっていくの?ていうか

俺、アイツに関わってもいいの…?






「おはようジョンハン、これから朝食?」

「……シュア…」

「今ちょうどジュニが食べてるよ。俺は食べ終わったところ」

「…そ、」

「じゃあまた後で」

「いっ、行かないよ…」

「え?」

「……おれ朝食抜きだから。クプスに言われた」

「あぁ聞いた。本当に食べないの?」

「…うん」

「でもちゃんと食べないと体動かないよ」

「………」

「あぁそうだ、そういえばジュニが凄く嬉しそうにしてたな」

「………」

「今日は朝からジョンハン兄さんに会えたんだって、喜んでたよ」


シュアのすべてを見透かしたような瞳が苦手だ。

微笑んだ瞳の隙間から覗く黒目に、俺の本心はすべて見通されているような気がした。

…ご飯食べに行こうと思ったけどやめよう、と歩く方向を再び元来た方へと変える。


「ねぇジョンハン?」


後ろを振り向いたらシュアがどんな顔で俺を見てんのか、…想像すると怖くて振り返れなかった。

突き刺さる視線のせいで背中が丸くなる…
俺はシュアの視線から逃げるように、早歩きで自室に戻った。



「シュア、飯食ってきたの?」

「おはようクプス」

「おはよ。アイツ部屋戻った?」

「うん、本当にご飯食べないつもりみたい。不貞てたよ」

「本気にしてたの!?やばいどうしよ!」

「なんか食べるでしょ、子供じゃないんだから」

「……アイツさジュニのことあんなに面倒見てやってたくせに最近おかしいだろ?いつまで喧嘩してんだって、説教したんだよ」

「おせっかい」

「お前までそんなこと言うの!?」

「放っておきなよ。どれだけ時間がかかっても解決するって」

「…まぁ、な」

「答えは、二人とも同じなんだからさ」









俺は何から逃げてるの?


何を怖がっているの??


今自分にとって一番怖いことはなんだろう。
アイツに嫌われること?
アイツとの関係が崩れてしまうこと?
メンバーに迷惑をかけてしまうこと?
自分の気持ちを認めること?
どれだ…いや全部だな


ジュンはどう思っているんだろう。
記憶があったなら今俺のことをどんな目で見てるんだろう。

逆の立場だったら。
俺がジュンだったなら、「あの人は酒に酔ったら誰彼構わず仕掛ける変態」だと軽蔑して距離を取ると思う。

彼の方も勢いで乗ってしまったものの、もしかするとあの日のことを酷く後悔してるかもしれない。

きっと向こうも酔ってたんだろうし、お互いなんとなくで起きてしまったコトだったんだろう、それならちょっと話し合って「ごめんね、全部忘れて無かったことにしよう」って言えばもしかしたら済む話なのかもしれないけど。


しれない、けれど


なんなんだろう

無かったことにはしたくない

彼と繋がった事実を消したくない

記憶に無くても身体には刻み込まれているはずだから、それをこのまま大事にとっておきたい

過去の嫌悪をすべて綺麗に消し去って、
データを書き換えてくれたような気がするんだ

書き換えてくれたのがジュンだったってことを忘れたくないんだ

そしてこのまま
これから先もこれ以上の上書きは必要ないから

だからずっとそばにいてよ…

どこにも、いかないでよ…

俺は…
お前が居ないと……駄目なんだ……


「……あ…」


あぁ、そうか

だから俺は怖くてたまらなかったのか
築き上げてきたものが崩れてしまうということは、今までの二人の時間ごと崩れてしまうって。

そうしたらもう彼は俺のそばに居てくれなくなるって。


俺が一番怖がっているのは、


ジュンを失うことだ。









失いたくない、ただ一つの思いを胸に強く持ち、俺は再び彼の部屋を訪ねた。

間を開ければ開けるほど言いにくくなると思ったから、なるべく早く本題を切り出した。


「……ジョンハニヒョンは覚えてるの?」


彼は覚えていると言った。

そうなんだろうとは思っていたけれど直接聞くと改めて気まずくなる。

…覚えてて
よく俺のこと気持ち悪いとか思わないね

…もしかして思ってんのかな?
言わないだけで。でも周りの為に平然を装ってくれていたのかな。だとしたらジュンは俺の知らないうちに凄く大人になっていたのかもしれない。
…反対に俺はいつのまにかめちゃくちゃ面倒くさい餓鬼になってしまっていたらしい。


ごめんなぁ

ジュナ


俺…こんなんで
お前困らせて…


どうしようもないな

自分に腹が立って仕方ないよ


「おまえだけ覚えてんのむかつく…」


精一杯の突き放しだった。
悔しかったのは本心だけれど。

思いっきり噛んだ下唇に痛みを全く感じない。
素直に悪かった、と伝えられたら終わるのに伝えられなかったのは、俺の性格のせいと、あとは


まだ終わらせたくなかったからだ

悪かった、で終わってしまうのなら言いたくない…


俺に触れた事実を無かったことにしないで欲しい


「思い出させてあげようか?」


その声は俺が今まで聞いてきた彼の声の中で一番低く、一番男の声だった。


「僕だけ覚えてるのが、嫌なんだよね」

「……何言ってんの、馬鹿じゃない」

「嫌ならいい」

「嫌に決まってんだろ」

「それならいい。僕は全部覚えてるけど」


なに……言ってんの……?

お前はどういう気持ちでそんなこと言ってんだよ

嫌だろ?男同士だぞ

なんで嫌じゃないの?

なんで、…なんでお前は、そんな顔して…


……挑発してくるんだよ


「知らないままがいいなら、それでいい」


知らないままのほうがいいんだろうけど、でも

でも、

思い出させて、くれるのなら


「あの日と同じこと、してあげられるよ」


落とされた視線にゾクゾクした。

あぁ知っている
この熱っぽい視線…

身体が記憶している
この荒い呼吸……


お前には一生、
余裕のない姿を見せたくなかったけれど

きっと気付いてたでしょ?

落とされたお前の"男"の視線のせいで、
俺はもうギリギリだったんだよ


「………上等だよ」


精一杯強がって、やっと出せた一言だった。









あんな触れられ方をしたのは生まれて初めてだった。


まるで宝物を扱うかのように
彼は俺を大切に、大切に扱った。

そのせいで自分の身体が、ビックリするほど感じやすくなってしまっていたことが悔しかったけれど
でもそんな思考もすぐに消えてなくなっちゃうくらい気持ち良かった。


どうしてあんなに平気だったんだろうって
俺の上で荒い呼吸を続けながら、自分は何もされてないくせに凄い良さそうな顔をして、苦しいくらいの想いを溢れさせていて。

なんで彼があんなに興奮していたのか
俺はずっと不思議だった。

彼の口から直接、好きだよ、と聞くまでは。


俺は心の底から驚いたんだけど
驚いた、はずなんだけど…

なんだか驚き過ぎて冷静だった。

嘘だろ?そんな昔から…?
そう思うと、今までどれだけ俺のことで悩んでいたんだろうか…と心苦しくなる。

もっと早く気付いてやればよかった
誰にも言えず一人でそんな想いを抱え込んでいたのかって。

けど同時に、

ああやっぱり俺のこと好きだったんだね、とも思った。
だって妙に懐いてくれてたし、俺のこと好き過ぎるとは思っていたけれどそういう意味だったとは…まぁそこまではさすがに気付けなかったよ俺も。


俺のどんなとこが好きなんだろう

いつどの瞬間に恋に落ちたんだろう

じゃあさ、あの子役時代からの知り合いの女の子?だっけ?あの子ともなんにもないってことだよね。
幼なじみとかとも。

ジュンは俺のことが好きなんだもんね
皆んなにもそう言っていいかな?

ジュンは俺のことが好きなんだって、って
世界中の人々に言いふらしたいんだけど、いい?



「あの、…ジョンハニヒョン」

「ま、まぁ、帰る、わ、とりあえず、な」

「う、うん、そだね」

「…じゃあまぁ、うん…おやすみ、ということで」

「…おやすみなさい」

「…ゆっくり休めよ?」

「…ありがとう…っ」


彼の部屋の扉を閉めた瞬間、俺は走り出した。
全力で。

そして向かった先はあのお節介なリーダーの部屋。




「おいちょっと!!」

「!?」


ノックもせずにクプスの部屋に入るとそこにはシュアも居て、二人は同じタイミングで振り返り俺の存在を確認する。


「…おま、ビックリしたじゃん!」

「なんでシュアが居んの?まぁいいやどうでも。それより聞いて欲しい、おれちゃんと話し合ってきたから」

「ジュニと?」

「そう。お互いに話し合ったし、アイツの気持ちも全部聞いた、…し」


俺はニヤけが止まらなくて、ベッドの上に腰掛けていたクプスを押し除けそのシーツの上にダイブした。

抱き締めた枕に顔を埋め、「むあーーーーっ」と叫んでこの気持ちを発散する。
心がずっとドキドキしてて苦しいけれど、最近ジュンのことを思って感じていた苦しさとはまた別の種類の苦しさで、しかも今回のは幸福感に溢れたやつだ。


「んじゃ、解決したってことだな?」

「うんそう」

「ならよかったよ」

「うん。クプスのお節介からやっと逃れられるよ」

「なーんーだーとー」


クプスは俺の上に乗っかり、頭をわしゃわしゃと掻き毟った。
やめて、と手を払ったけれど実はそんなに鬱陶しくはなかった。今日は俺の機嫌がいいから。

ベッドの上でクプスと戯れ合っていると、立ち上がったシュアがやれやれ、と笑いながら部屋を出て行こうとしていたから呼び止めた。


「シュアもありがとう。迷惑かけて、ごめんな」

「かかってないよ、俺は」

「てかシュアはなんでここに居たの?」

「ん?」

「クプスと話途中だった?」

「んーん。大丈夫」


気持ちが舞い上がったままこの部屋に飛び込んできたから気にしてなかったけれど、冷静さが少しだけ戻ってきた今、彼らの話を途中で遮って割り込んでしまったことを申し訳なく思ってきた。今更やっと。


「とりあえずよかったね。これからのことは落ち着いてから決めたらいいじゃん」

「これからのことってなに」

「俺は知らない。あ、嘘、知ってるけど言わない」

「……」

「応援してるから俺たちは」


ね、スンチョル?
と声をかけたシュアも、シュアの言葉に勢いよく飛び起きて頷いたクプスも、二人とも俺より先を走っているみたいでなんか置いて行かれてるような気になった。

先の展開をもう知っているような言い方をするから。


「…おう、えん?」

「しらばっくれちゃ駄目だよジョンハン。早いとこ認めたら?」

「なにをだよ」

「良い報告待ってるね、おやすみ」

「……」


またあの全てを見透かしたような目を向けられ、ドクンと心臓が跳ねる。

カチャリと扉を開け、身体が半分見えなくなったシュアが、俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた最後の台詞で、あぁやはり…この男には全てバレているんだなと怖くなった。


「ジョンハンが着るとブカブカだね、そのTシャツ」





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