my angle


だから、おれは3




「…待てよ?」

「ん?」


ドギョムに勧められた店について来た俺は、彼の奢りなのをいいことにわざと一番高いメニューを注文してそれを美味しくいただいている最中だった。


「どしたの?」


ドギョムと居ようが頭にあるのはアイツただ一人で、最近常に考えているのもアイツのことで、思いだして恥ずかしくなるのもアイツとしたアノ日のアレのことで。

口の中に広がる挽肉と玉葱の甘辛い味をゴクリと飲み込み、俺は箸を咥えたまま固まった。
思い出したんだ。そう、あの日アイツはたしか……
  

「ドギョマ」

「うん?」

「なにをしたら、"ヤった"ってことになる?」

「へ?」


俺の質問に大きなハテナを浮かべ首を傾げた彼に、遠回しに言うのも面倒だと思ってダイレクトに聞いてみる。

だってな、俺てっきりアイツとしたもんだと思ってたのにそうじゃなかったとか言うから

それってなに?結局なに?
俺はアイツに"してもらった"ってだけだろ?正式な行為を行ったわけじゃないよな、俺たちは本当の意味で繋がったわけじゃないってことでしょ?


「っごほ…げっほ、がはっ」

「大丈夫?」

「じょっ、じょんはっ、」

「ん。水」


挽肉をつまらせたのか玉葱をつまらせたのか、まぁどっちでもいいけどそこは。
俺が悪かったな、今の質問は突然すぎたし、夕食中に話す話題でもなかった。

俺の分の水まで飲み干して落ち着いたドギョムに軽く謝り、会計伝票をくしゃっと掴んで席を立つ。


「ちょ、座ってよ!ぼく質問に答えてないじゃん!」

「え、答えてくれるの」

「答えるよ!分かんないけど!考える!」

「……」

「その前に…誰とそんなことになったのか、」

「それは言わない」


かぶせるように彼の言葉を封じ、もう一度椅子に腰掛ける。
彼もそれ以上は追及してこず、黒目を上下左右色んなところへ泳がせ必死で考えてくれている様子だった。

俺はそんな彼の目の前でくしゃくしゃになった会計伝票をひらいては折り、遊ぶ。


「…なにを、したら、というのは…さ」

「うん」

「…そりゃあ、あれでしょ、二人で…」

「だよな。その手前で終わった場合は?」

「…それは、"した"ということには、ならないと思う……まぁ状況にもよるのかもしれないけど」

「え」

「え?」


え。

じゃあ、俺、ジュンと、

え。

やっぱり、そういうこと?俺だけ、

え。

上書き、して、くれたわけじゃ


「ないってこと…か」

「ヒョン?」

「……帰る」

「う、うん。あ、それ伝票もらう」

「……いやいい」

「でも今日はぼくが奢るって」

「ああそうだったな。じゃあよろしく」


そうか…
そっかそっか…

勝手に俺だけそう思ってただけじゃん、じゃあ。

でもアイツ俺のこと好きだったんだよな?
なんで?いくら好きでもさすがに嫌だった?
そりゃそうか、それが普通だ。

一度目の記憶は皆無で、二度目のそれは彼の記憶通りに進んでいった。
すなわち俺の記憶には二度目の行為しか残ってないわけだけど、始めから終わりまで、あの行為の中に彼が気持ち良くなることなど一つも含まれていなかった。

だから俺は自分の意識外のとこで、俺もなにかしてやらないと…って咄嗟に思って、終わった後にそう提案したんだ。断られたけど…


…てかドギョム遅くない?

腕を組んだまま店内を覗き込むと、会計を済ませ丁度出てきた彼と目が合う。


「なにしてたの」

「ヒョンが伝票に折り目つけてたから伸ばしてたの、店長さん困ってたよ?」


も〜!と笑いながら怒っている彼に、伝票の件は無視してご馳走様。とだけ伝え、俺たちは宿舎へ帰った。


「確かに美味かった」

「でしょう〜よかった〜」









ジュンは俺のことを好きだと言ったくせに、あれから全然近寄ってこない。とてもイライラする。

好きだって言ったくせに。
ずっと昔から好きだったって。
諦めようとしたけど諦められないんだって。
そう言っていたのに。


「…仕方ない」


近寄りづらいのなら俺の方から出向いてやろう。
一応解決はしたし、この話題はこれ以上どうする必要もないのかもしれないけど、それでもなんだかモヤモヤするから。

俺はアイツの部屋へ行こうと決めて立ち上がり、なにも考えずに洗面所まで来て鏡で少しだけ髪型を直す。

視線を落とした先にあった歯ブラシを見つけ、別に、深い意味はないけど、まぁ食事してきた後だしと歯を磨いた。

ついでに視界に入ったシャワールームと葛藤した結果、一応シャワーも浴びておこうと中へ入った。


髪を乾かして、新しい部屋着に着替える。
別に深い意味はない。
俺は話をする為にアイツに会いに行くんだから。
歯を磨いたのもシャワーを浴びたのも全部気分だ。

深い意味は、ない。


ないんだってば。







「いい匂いするね」

「別に」

「?」

「気分だから」

「??」


「僕はこれからなんだー」と、いつもの調子で へにゃりと笑うジュンにドキドキしてしまっているのは間違いない。

突然押しかけたのに、扉を開けた彼は俺の姿を捉えた瞬間とても幸せそうな顔をして抱きついてきた。

そんなのも今までだったらなんとも思っていなかったスキンシップだが、今はそうじゃない。
メンバーに抱きつかれるのと、俺のことを好きなヤツに抱きつかれるのとは全然違う。

コイツにとっては今まで通りのスキンシップなのかもしれないけど、俺はなんだか変に…
妙に、ドキドキした。そしてそのドキドキを部屋に入った今もなお、引き摺っている。

でもこれは仕方なくない?
俺だって本意じゃないけど
仕方なくない?


「ご飯、食べに出てたの?」

「…あーうん」

「そうなんだ」

「ドギョムと」

「そっか」

「俺、アイツとはよく行くんだよな」

「…」

「……」


わざとらしく背伸びをしながら、彼の表情を覗いてみると、なんにも感じていないような平気な顔をしてニッコリと笑いかけられた。

それにまた腹が立つ…


「…なんとも思わないの」

「え?」

「…ドギョムと二人でよく出掛けてるじゃん、俺」

「そうだね」

「……そうだね、って…」


なんだよ…

それだけ?


「そんなの気にしてたらキリないから」

「………」

「毎日気が狂っちゃうよ」

「……毎日は言い過ぎでしょ」

「ううん」

「…大袈裟なんだよお前は」


と言ったものの本当は凄く嬉しかった。
俺のこと気にしてたら、毎日気が狂いそうになるのか…そう思うとつい顔が緩んでしまいそうになったから、俺は彼に見られないように顔を背けた。


そんなに好きでいてくれるならさ
どうして今までみたいに近寄ってこないんだよ

そんなに好きでいてくれたなら
どうしてあの日ちゃんと最後までしなかったんだよ


俺とのその先を、お前は求めていないの?


「今度、僕もそのお店に連れて行って?」

「…っえ」

「今日行ったお店」

「…ああ、うん、分かった」

「クプスヒョンたちも誘ったら来てくれるかな?僕、お詫びしないといけない…凄く心配をかけてしまったから」

「……来るんじゃない?」


携帯を取り出し、さっそくスケジュールを確認しているジュンを見つめていると、なんだか自分ばかり気にしているのが情けなくなってきた。

気にしすぎなのかもしれない。

彼は、俺に気を遣わせないように普通にしてくれているんだろう。
そして彼は、俺のことが好きだとは言ったが、だからどうなりたいとかそういうのは考えていないんだろう。

俺がジュンに思っていた親心と同じで
子が親を慕う気持ちに似た"愛"なのかもしれない。
違ったとしてもそれが少し肥大したようなもの。

なんにせよ始まりは、男と女が恋に落ちるトキメキというよりは、家族同士で抱く愛情からだったはずだ。

家族同士も、同性同士も、どちらも恋愛をするには難しい関係なのに
俺たちの関係はよりにもよって、そのどちらともを兼ね揃えてしまっている。

そもそもが
そうなんだから


「風呂、入んなきゃな」

「えっ…もう帰っちゃうの?」

「明日は朝からだし。しっかり寝ないと」

「…そう…だけど」

「少しだけど話せて嬉しかったよ。また明日も頑張ろうな」


立ち上がり、ジュンのサラサラの髪の毛を優しく撫でた。
俺を見上げる表情が、寂しい。まだ居て欲しい。と言っているように見えて、まるで捨て犬を放って帰るような気分になる。

自分の部屋に連れて帰りたいんだけどな

叶うのなら俺だってずっと一緒に居たいんだけどさ…


「おやすみ、ジュナ」

「僕も、嬉しかったよっ、少しだけど、話せて…」

「はー」

「…ほんと、に」

「うん。俺も嬉しかった」

「…おやすみなさい」

「……」


あぁ……


「……ジュナ」

「うん?」


……キス、とか

したら


「………なんでもない」

「え…」

「おやすみ、また明日」

「おやすみなさい…ジョンハニヒョン」


どんな顔するんだろう。
驚くかな、喜ぶかな、戸惑うかな?

ずるいよなぁ…そんなの


意味分かんない衝動ばっか浮かんでくる。
気になる。多分アイツより俺のほうがアイツのこと気にしてる。昔は違ったかもしれないけど少なくとも今は俺のほうがジュンを想っている。

悔しいという感情はもう抱かなくなって
ただどうすればいいのか分からない、湧き上がる衝動をどう処理していいかが分からない。



自室に戻り扉を閉めた瞬間、俺はその場にへたり込んだ。

身体を縮こまらせ、抱えた頭を自分でワシャワシャと掻きながら 行き場のない衝動を必死でかき消す。

心臓煩い….
 

「…もーー…なんなの…あーー……」


アイツを撫でたときの髪の毛の感触や匂いや温度が、今も手のひらに残っている。
ジンジンと熱を持っている。

近くで合わせた視線の距離を縮めたかった。

そのまま彼の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけて

叶うのならキスしたかった。


「…………」


自分の唇に親指を当てて、"あの夜"の彼の唇の感触を思い出す。
それだけで身体が熱くなってきて、心臓が高鳴って、全身に鳥肌が立つ。


触れたい


触れて欲しい


"メンバーの一人"という関係じゃ許されないのなら、それなら俺は、違う関係になりたいなんて…今はそんなことまで思っている。

そのくらい
この衝動を一人で抑え込むにはもう限界だった。










「教えて」


仕事を終え、撮影が一緒だったジョシュアを呼び止め俺はついに頭を下げた。
なるべくなら自分一人で解決したかった問題だがどんだけ考えても解けなかったから、答えを知っているらしいコイツに頼るしかない。


「なんの話?」

「言ってただろお前、知ってるけど教えないって」


俺たちに何があったか全部分かっているんだろ?
この先俺たちがどうなるべきか ジョシュアは知っている、と言った。知っているけど教えない、って。


「もしかしてジュン?」

「だよ」

「何が知りたいの?」

「どうするべきなのか教えて」

「どうなりたいの?」

「……分かんないから教えてって言ってる」

「どうするべきなのかは教えられるけど、どうなりたいのかはジョンハンしか分からないよ」


スラスラと相手の口から出る正論に俺は言葉をなくし固まった。
彼の言う通りだと思ったし、そう分かっているけど…

分かっているから、ちゃんと自分の気持ちを見つけなきゃいけないんだろうって、何度も…俺、
何度も何度も考えだんだよ……

だけど……


「嘘つく癖がついてるんだね」


…………

シュアの言葉はとてつもなく鋭利な刃物となって
俺の心臓を突き刺した。
 

「自制かけちゃうんでしょ?」


『この世界でやっていく為だ』
『皆んなとずっと家族で居る為だ』
『SEVENTEENとして存在し続ける為だ』

それさえ守れればいい
俺のすべてなんだ

その為ならなんだってするから
嫌なことも嫌だとは言わない
こんなの普通じゃないと分かっていても、そうしろと言われるならそうするよ

だって俺のすべてと引き換えなんでしょう

守りたいものを守る為に
"不必要な感情"なんてすぐに捨てよう

抱いた瞬間に捨てよう

抱く前に捨てなきゃ


『不必要な感情は、捨てよう』



「…必要、ない……こんな…気持ち……」

「…ジョンハン」

「…好きとか、思ったって、意味ない…、意味ないんだよ」

「……」

「俺はただお前らと、」

「ジョンハン」


…おれは、
これからも、ずっと…

お前らと一緒に居たいだけなんだ


何も奪わないで

頼むからこのままでいさせてよ


まさか自分の感情にそう願う日が来るとは思わなかった。
自分の大事なものを自分自身に奪われそうになるなんて。



「変わらないよ」
  


……………


「ジュニのこと好きになったら、ジョンハンは変わっちゃうの?」

「…」

「俺たちは、何も変わらないよ。
ジョンハンはジョンハンのままで、ジュンもジュンのままでしょ?」

「…」

「二人が変わらないんだから、皆んなも変わらない」

「……」

「だから」


『嘘つかないで』


…彼の穏やかな声が、
塞ぎきっていた心を溶かすように響く。

色んな感情が一度に溢れて心臓がパンクしそうだ…

彼の優しさが大きすぎて、とても苦しい…
心が痛くなるほど優しい彼に俺は今までどれだけ救われてきたんだろう。

彼だけじゃない、毎日口煩いクプスだって常に俺のことを気にかけてくれていて
ドギョムだって最近なんか変な俺を気遣ってご飯に連れ出してくれたんだ。
他のメンバーもきっと何かがあったんだろう、と思いながらも多くは聞かず、それでも側に寄ってきて楽しい話をしてくれたり笑わせてくれた。

崩れそうになったときはいつも、彼らが助けてくれる…


「……ありがとう」


ありがとう
当たり前のように手を差し伸ばしてくれて

偽らなくても
取り繕わなくても

お前たちはいつだって味方で居てくれるんだな…


「安心しなよジョンハン」


おかげで、やっと

素直になれそうだよ



「まだ好きって認めたわけじゃないけどね」

「…Contrary person」

「へ。なに」

「調べて」

「言って」

「はやく帰ってクプスに美味しいもの食べさせてもらおうよ」

「作戦会議しなきゃだもんな」

「なんの?」

「ジュニへの告白大作戦」

「切り替え早いね」

「ねぇ、驚くかな?驚くと思う?」

「知らない」

「愛してるよシュア」

「…勝手にやって。ちょっとクプスに電話してみる」


認めてしまえば早い。あとは伝えるだけだ。

見てろよジュナ

俺が
この俺が

本気でお前のこと手に入れようとしてるんだからな


「覚悟して待ってろ」

「……急に強気じゃん」





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