my angle


だから、おれはfinal




それにしても使えない奴らだった。


出会って何年経つんだ、ただの仕事仲間じゃないだろ?そんな俺が初めて真面目にした恋愛相談をよくあんなに軽くあしらえたな…と、苛々しながら布団に潜る。

クプスはまぁいい、アイツは気の利いた答えをくれたわけではないが話を真剣に聞いてくれた。
シュアだよ問題は。食事にしか興味を示さず俺の相談をどうでもよさそうに聞き流して、挙句「ねむい」なんて言い出してさっさと帰りやがった。もう論外。

なんだよ
お前ら応援してくれてたんじゃないの?
偉そうに説教してきたくせに…結局放ったらかしですか


「…まぁいいよ」


一ヶ月振りくらいのオフは朝から晩まで寝てようと思っていたから、明日は予定のない一日だった。
朝目が覚めたら一番にジュンのところへ行こう。
彼が明日の休日をどう過ごすのかは知らないけど朝の少しの時間くらいなら貰ってもいいだろう。


「…なんて言おっかな」


目を閉じて、思い出してみる。
彼があの日俺に言った言葉を。



『僕は凄く、幸せだったから』


『みんなのジョンハニヒョンが、あの時間だけ、僕一人のものになった気がして』


『嬉しかったんだ』


『…好き』


『…好きだよ。ジョンハニヒョン…』


『僕のこと、嫌い?』



「…………」


どれだけ…
苦しめていたんだろう

アイツは一人で、どれだけ悩んでいたんだろう

どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう

あんなに近くに居たのに
あんなに気に掛けていたのに
俺はジュンのこと、なんにも分かってやれてなかった

最低な言葉を突きつけて、遠ざけて
その挙句、実は俺もお前のこと好きみたいで…とか

許してくれるかな…


「………ジュナ…」


でも俺はもう逃げないよ
もしもそれでジュンを更に苦しめることになったとしても、この気持ちだけは伝えなきゃいけないと思うから。

やっと気付けたんだ

遠回に遠回りを重ねて
迷路みたいな道のりだったけれど

お前のことばっか気掛かりだった理由が、やっと分かったんだ。


目蓋の裏に浮かび上がる、いつものふにゃけた笑顔…
アイツのことを想うだけで泣きそうなくらい苦しい。

お前もそうだったの?
俺のこと想って泣きそうなくらい苦しんでいた?

よく耐えていたね…
俺なんてお前への気持ちに気付いてから今夜が初めての夜なのに、もうこんなの苦しすぎて耐えらんない

どれだけ耐え続けてたの?
いったい何日こんな夜を過ごしたの?
やっぱり辛抱強い奴だなぁ
弱音も愚痴も吐かずに、たった一人で


「……助けてやれなくて…ごめんな」


身体の向きを横にすると、いつのまにか溜まっていたらしい涙が零れた。
久しぶりに流した涙は、
大事で大事でたまらない奴に抱いた、大事で大事でたまらない気持ちを乗せて俺の頬を伝った。










「ウォヌは?」

「朝ごはん、食べに行ったみたい?」

「なんで分かってないの」

「朝起きたら居なかったから…でも昨日の夜までやり込んでたから今日誰かと一緒にする予定だったのかもしれないね」

「あぁゲームな」


ウォヌに用だったの?と首を傾げられるが、俺の用はお前にしかない。
ウォヌには悪いけど早朝から席を外してくれていたのは俺にとって好都合で有り難かった。


「お前はどっか行くの」

「僕は特になにも」


そうか。と軽く返事をして半分入りかけていた彼の部屋に入室する。
扉が閉まった瞬間鍵をかけ、その音にジュンは不思議そうな顔をした。

どうして鍵を閉めたの?
そう聞きたいのだろうが口にはしない。

大きすぎる瞳をキョロキョロと動かし、両手をグーにしたりパーにしたり落ち着かない様子の彼は、俺がなんで訪ねてきたのかって理由を必死で考えているようだった。


「ジュナ、あのな」

「っ?!」


少し口を開いて声を出してみると、ビクンッと身体を跳ねらせ俺を見る。
ビクビクと小刻みに肩が震えているのが分かって、俺は躊躇いそうになったけれど、言おうと決めたことだけは伝えようと再び決心する。

嘘をつく癖も、偽る癖も、取り繕う癖も
コイツへの感情に関してはすべて取り払って

まっさらで、清らかで、純粋な想いをそのまま伝えたい。

俺の中で創り出されたのが不思議なくらい美しい、この恋心を……


「好きだよ」


他の誰に抱くのとも違う愛なんだ


「ジュナ…」


お前のことだけが特別なんだ

誰よりも
お前のことを愛している


「…………」

「…………」


………なに
なんで黙ってんの…?

相手が自分のことを好きだと思い込んでいるから、サラッと言えた台詞だが そうも表情が変わらないと不安になってくる。

ジィ……とジュンを見つめ、彼も同じく俺を見つめて
この睨めっこは羞恥に耐えきれなくなった俺が負けた。

…え、なに
なになに?なにこの空気
俺、ちゃんと言えたよね、きっと間違いなく伝わったはずなんだけど、なんで固まってんの、ねぇ


「…………ヒョ…」


やっと、ジュンの小さな声が僅かに聞こえた。
けれどそのあとに続く言葉はなく、彼は口元に手を当て顔の半分を覆ったまま俺を凝視する。

もう無理
耐えられないこの空気


「だっ、だから!」

「……」

「提案なんだけど」

「……」

「俺の恋人にならない?」


言いました…ハッキリと言いましたよ僕は

本当は彼がどんな返事をするかとても怖くて足がカクカクと震え、立っているのもやっとだったけれど
それが伝わらないように後ろの壁に体重をかけてもたれ、腕を組み直して、身長の高い彼を見下ろすような視線を注ぐ。


ドクンドクンと
心臓部が大きく振れて苦しい。

早く彼の口から彼の気持ちを聞かせて欲しい…

はやく、はやく…
早くこの空間から抜け出したい…酸素薄い……
俺、限界がきたらまた逃げ出してしまいそうだから、イエスでもノーでも分からないでもなんでもいいからとりあえずなんか言ってくれ……


「…ジョ……ン…ハ…」

「………」

「…ど、どういう、つもり…?」

「…っはぁ?!」


一世一代の告白だったというのになんだその返事は
シナリオでは、泣いて喜んで俺に抱きついてきたジュンが「ぼくもすきだよ」って言って俺たちは晴れて…ってハッピーエンディングだったのに、
思ってたのと全然違って、俺だけ一人恥ずかしいような気がして、顔が熱くなる。

きっと耳まで真っ赤だ…それを見られるのは癪すぎると俺は咄嗟に向きを変え、彼に背中を見せた。


「…ジョンハニヒョ」

「…煩い」

「…あの、え、どういうこと…僕、」

「なんなのお前!?」

「…や、だって、どういうつもりで…」

「どういうつもりもなにもない!!」


お前がどういうつもりなんだよ…


「……ぁ…」

「お前は…っ」

「………」

「俺と、付き合った方が、いいって、言って、んだ…」

「……そんなこと…許されるの?」

「…知らない」

「えぇ…」

「…嫌なら嫌って言え」

「嫌とかじゃなくて、そうじゃなくて、ただ、」

「じゃあ今日からお前は俺の恋人だから、俺はお前の恋人だから」


じゃあな!と彼の戸惑いを封じ込め俺は部屋を飛び出した。

顔を覆った両手が真っ赤でとても熱い。
ずっと背中を向けていたからバレてはいないだろうが、顔どころかもはや全身が染まっている。

鼓動もとてつもない速さで波打ち、息を吸って吐くという当たり前のことも喉に痞えて上手に出来ない。


「…っは……はぁ……はぁ…っ…」


鬱陶しい前髪をかき上げると、じっとりと額が汗ばんでいた。
自分がここまで彼に対して余裕がないなんて予想外だ…もっと涼やかに運べるはずだったのに
いざヤツを目の前にすると、こうしようと思っていた台詞も表情もシチュエーションも全部吹き飛んでしまって、何一つ上手くいかなかった。


…ジュンの困った顔だけが脳裏に残っている


「……こい、びと…に、なった…」


シナリオ通りではなかったけれど
でも、伝えなきゃいけなかったことは伝えたし


「…恋人、になったぞ……」


俺とジュンは恋人同士になった(一方的に)
ということは結果的にこのミッションは成功ということになる。

よしよし…
今日からアイツは俺の、


「…………」


あぁ……

…嬉しい…凄く。とても幸せだ…

大声で叫びたい気持ちを堪え、俺はもうほぼゼロに近い体力を振り絞ってなんとか立ち上がり、
身体を引きずりながら自室へと歩き出す。

とりあえずシャワーを浴びてこの汗を流して
ちょっともう休もう。

じゃないと無理
下手したらレッスン日より体力使ったかもしれない…
久しぶりのオフだというのに。

けれど気分は良い。
身体はボロボロだったけど心の充実感が半端じゃなかったから。

この先のことを想像するだけでワクワクするし
好きだという気持ちが鼓動と共に増し続けていく。


「…恋っていいなぁ」


緩んだ口元を隠すことも忘れ、俺はヘラついたまま部屋へと戻っていった。










それにしてもよく寝た。

ちょくちょく起きてはいたけれど、ベッドに転んだままダラダラしていたらいつのまにか外が真っ暗だ。カーテンを閉めたいけど立ち上がるのが面倒くさい。

朝一番にアイツの部屋を訪れ告白をして、恋人同士になった記念日がもうすぐ終わろうとしている。
久しぶりのオフは、はちゃめちゃな始まり方をしてごく普通な終わり方で締め括られそうだった。


ジョシュアが一緒に頼んでくれた出前を持って俺の部屋に来たから、ちょうどいいタイミングだと俺は今回のミッションの成功を報告した。  


「……嘘でしょ?そんなこと本当にあるんだ」

「……は?」


お前らに頼らなくたって俺はちゃんと自分の気持ちを伝えられましたし、予定とは違う場面もあったが結果的にはハッピーエンディングってことだって。

そう言ったら「よかったね」って祝福してくれると思っていたのに。細めていた目を大きく開いて俺を覗き込んだ彼はとても驚いている様子で、その反応にこちらの方が驚いた。


「いやお前なにを今更驚いてんの。分かってたくせに」

「…分かってたけど付き合うとか…へぇー…ふぅん」

「なにその反応」

「…やー…凄いな、本当にあるんだなぁと思って。いざ近くで起きると、しかもメンバーでとか……へぇ」


こくこくと頷きながら何やらボソボソと呟いている。そのくらい彼にとって信じられないことだったらしい。


「…なるほどね…」

「極秘だよトップシークレット」

「…言えるわけないでしょ、そっちこそちゃんとしてよ」

「なにが」

「バレるような付き合い方するなよって」

「分かってる」

「いやぁ…うん…はー…」

「なんで…てか特になにも変わらないし、普通にしてね」

「…うん、分かってるけど」


思いの外動揺させてしまっているようでちょっと申し訳なくなってきた。

シュアにはすべてバレていると思っていたから、いや実際バレてはいたんだろう…
バレていたし俺の気持ちを応援してくれていたのは事実なんだろうけど
でも、本当にそういう関係になりましたと聞かされたらやはりビックリしたらしかった。

よく考えれば
"ありえないこと"を当たり前のように報告したんだから、この反応が普通だとは思う。

恋人ができたというのも
それが男だというのも
実はメンバーの一人なんだというのも
普通の人が聞いたら「ありえない」と言うだろう。
信じられない、考えられない、って驚く反応が正常思考だ。

それでもジョシュアはしばらく時間をかけてその結果を飲み込んでくれた。
そして、「…まぁ、応援はする」とだけ言い残し自分の部屋へ戻っていった。


…やっぱり
シュアとクプスにだけだな

本当は全員に伝えたいしそれどころか家族にも会社にもファンにも公表したいくらいだったけど難しい。

ジュンの為にも
皆んなの為にも
大切なものを守る為には、秘密にし続けるべき事実なのだと覚悟をしなおした。


大丈夫。そんなの我慢できる


誰にも言えない関係だっていいよ


俺とお前だけが分かってればそれでいい


お前が俺の恋人で、俺がお前の恋人なら


「…それだけで充分だよ」


なんて言って一人で彼への想いに浸っていると
真っ黒の画面がぴかぴかと光り俺の視界に入り込む。

誰だよ、せっかく幸せな気分だったのに…と溜息を零しながら携帯に手を伸ばし、名前も見ずに通話ボタンを押した。


「はい?」

『…あっ、あ、あー、…』

「………」


『あ』という一文字しか聞こえてこなかったが、その可愛い過ぎる声を俺が聞き間違えるわけがなかった。


「ジュナ?」

『…あ…ハイ、そう…』


今朝ぶりに聞く彼の声がいつにも増して愛おしく感じる。
俺は携帯を持つ手に力を入れ直し、その声をなるべく近く鼓膜に響かせるように耳をくっ付ける。


「どした?」

『あの、今、どこに居る?』

「部屋に居るよ」

『ちょっと、話したい…』

「あぁ。行こうか?」

『いや…ウォヌ帰ってきたから、』

「そっか。じゃあおいで」

『ありがとう……切るね』


アイツが切り終わった音を確認して耳から携帯を離した。
会えるのが素直に嬉しくてベッドの上で小さくバウンドしてみる。

……え、でも話ってなに
ハッピーな話だとは限らないぞ、もしかしたら

今朝のことだけどよく考えたら僕…ヒョンとそういう関係になりたいわけじゃない、とかそういう


「いや」


そんなはずはない
朝は俺の方も余裕がなくてどういう流れだったか記憶が曖昧だが、言い逃げみたいになってしまったような気もする。
きっとそれを話し直したいのだろう。

アイツは真面目だからなぁ


まぁなんにせよ
今からジュンに会える事実に変わりはない。
嬉しくてワクワクする。

このくしゃくしゃの部屋着を着替えようかどうしようかと悩んでいると、部屋のドアがノックされ彼があっという間にやって来てしまった。

…まぁいっか
今更取り繕う必要もない。

ありのままの姿なら今までずっと見せてきたし
アイツはそんな俺に惚れていたんだから。

俺は高鳴る心臓に手を当て、満面の笑みで扉を開けた。










「どこまで…本気なんだろうと思って」

「へ」

「今朝ヒョンが僕に言ったこと、どれとどれが本当のことなの?」


彼も俺に会うのが楽しみでやって来たのかと思ったのに
扉を開けた先の表情は俺のとは真逆だった。

俺より高い身長を屈ませ、困ったように眉を下げ見上げられた表情は、けして俺に会うのを楽しみにして来たようには見えなかった。

中へ誘い椅子に座らせると彼はさっそくここへ来た理由である本題を話し始めたから、俺はくしゃくしゃのシーツの上で枕をくしゃくしゃに抱きかかえながらその言葉を静かに聞いた。
ちなみに部屋着もくしゃくしゃだ。


「…どういう意味」

「今朝のこと覚えてる?」

「…は?覚えてるに決まってるだろ、なんだよ」

「……」

「お前、覚えてないってこと?忘れたの?」

「忘れてないから確かめに来たんだよ」

「……怒んなよ」


基本的に穏やかな空気の中に存在する彼が、本心を真っ直ぐに伝える時がたまにあって
それは何に対してなのかは分からない、彼にしか分からないのだけど、そういう時はいつもの穏やかな空気感はどこかへ行ってしまうから俺は少し苦手だった。

けれど今日は怒っている、というよりは
戸惑っているように見える。
彼に恐怖を感じるというよりは
彼自身が何かに怯えているような、そんな風に見えた。


「怒ってるわけじゃない…」

「………」

「…ハニヒョンの気持ちが…分からない」

「…ぇ」

「……わからない…」


…どうして

分からないってお前…
俺ちゃんと伝えたよな、伝えたかったことはちゃんと全部伝えられたはずだ。

それなのに今彼が、俺の目の前でこんな顔をしているのが不思議でならない。
不安そうに身体を縮こまらせ、小さくか細い声を絞り出すように出して、周りを、…俺すらを警戒するように壁を隔てている。

まるで……

昔々、練習生時代に一人で教室の隅に居たあの子に再会したようだった。


「……ジュナ、おれ」

「………」


何年もかけてようやく開いてくれた心が、また閉じていくような音がして俺は怖くなった。

ふと、我にかえる

最近の俺はいつにも増して、本当に自分のことばかりで、コイツの立場の気持ちなんて全く考えてやれていなかった。
自分の気持ちを整理して処理するのに精一杯で、相手が今どういう状態でいるのかを考える余裕もなかったからだ。

けれど余裕がなかったからとはいえ俺の決めた道に彼を無理やり引っ張ってきて、このレールを走れと言ったって当然について来てくれるわけがない。


俺は甘えていたんだ

ジュンに。


ジュンの気持ちに、甘えて
ジュンの気持ちに、頼って
自分の気持ちを押し付けたんだ

どれだけ苦しい思いをさせていたか、昨夜そう思って涙が流れたんじゃなかったのか…
どうして俺はコイツに、苦しい思いばかりさせてしまうんだろう
誰より一番に救いあげてやりたいヤツなのに


「…苦しめてごめんな」

「…」

「…もしかしたらこれからもっと苦しめるかもしれない」

「……」


つい最近までの自分だったら
やっぱりなし。気にしないで。忘れてくれる?とか適当な言葉を並べて逃げていたと思う。
その方が平和ならそれでいいって、そう思って安全なレールにシフトを変えて走り直していたんだろうけど



「俺、お前のことが好きだ」



逃げたくないから
衝突覚悟で言わせてくれ



「ジュナにしか思わない感情が沢山あるんだよ
…愛の種類がみんなへのとは違う、お前にはなんか、特別な感じで…」


「……」


「こう……触って欲しいとか、思ったりもするし…」


「………」


「…お前が俺に思う好きが一緒か分かんないけど…
もし一緒なんだったら、俺は、おれは…おまえ、の」


「…………」


「おれ、…」


「……………」


「……お前のものになりたい」






ガタンッ、と
椅子が倒れる音が聞こえて、その後すぐに俺の身体もグラリとベッドの上に倒された。

状況を飲み込もうと必死で瞬きを重ね ぼやけた視界の中にやっと認識できたのは、見慣れた天井とさっきまで椅子に座っていたはずの彼の顔。


「………へ?」


訳が分からな過ぎて思わず間抜けな声が出る。
状況確認の為の脳神経が物凄いスピードで働いてくれているはずなのに何一つ意味の分からない状況だ。

何が起きた
どうなってる?

突然立ち上がった彼がベッドまでづかづかと近付いてきて、俺の身体に覆い被さるように乗っかってきて、それで

俺はくしゃくしゃの枕を抱きかかえたまま押し倒されて

訳も分からずパチパチと瞬きを繰り返して

見上げた視線の先には、辛そうな彼の表情があった


「……ジュ」


ゼー、ゼー、と
苦しそうな呼吸音がすぐそばで聞こえる


「……怒った…の?」


眉間にシワを寄せて、大きな瞳を細めて、歯を食いしばって
どう見たって喜んでいる表情ではなかった。

俺の言葉を聞いてそんな顔をしてるんでしょ
やっぱり俺、お前のこと苦しめてしまったの?


「……本気にするよ」


………


「本気にするよ、僕」


俺はこの声を知っている
低くて深い、彼の男の声

『思い出させてあげようか?』そう言ったあの日の声と同じ。もっと言えば
注がれた熱っぽい視線も、限界間近の荒い呼吸も全部
あの日のそれと重なる。


いい加減に…本気にしてよ……


おれ頑張ったよ
逃げなかった
逃げずにお前に伝えたじゃんか

もう俺の気持ちを…疑うなよ……


俺だって、


「…ほん、きだから……」


俺だってな
 

「……好きって言ってよ…」


俺だって不安なんだ…
だってお前…あれから一度も


「…もう一回言って…俺のこと好きだって、…言って…っ…」

「………っ…」


一度も…
言ってくれないから……


自信のあるフリも平気なフリも癖付いたものだから仕方ない。
きっと彼にもそう見えていたと思う。どんな時だって彼の目の中の俺は、自信があって平気そうに映っていたと思う。

本当はそんなことないのに、でも
そんなことないんだよと言えるわけでもなくて
結局のところ俺の真意はいつだって伝わることはなかったのかもしれない。

だから今言うよ

もうとっくにカッコ悪いところだらけだから


俺本当はね、お前のことが好きで仕方ない
お前に愛されたくて仕方ないんだ



「…ッン…ぅ」


キスされたことにもビックリしたけど、好きって言えって言ってんのにその返事がないことに腹が立った。

だから俺はがっついてくる彼の身体をなんとか引き剥がす。勿論キスが嫌だったわけじゃない。むしろもっとしたかったけれど、でも。


「ちゃんと、言って…」

「…好き…大好き…」

「おれのこと…?」

「…愛してる…ジョンハニヒョン…」


…あいして…る…


「…おれもお前のこと…愛してる」

「……夢みたいだ」


泣くなよ…
お前が泣くから俺まで、


「……キスしよう」


キスで紛らして
お前に泣き顔を見られるのは嫌だから、なんて
結局こういうところは直らない。
だからシュアに捻くれた奴、だなんて嫌味を言われてしまうんだろうけど。

もう許してよ







俺はお前のことが特別だった

出会った頃からずっと
お前のことが気掛かりだった

その気持ちに名前があることも知らなかったし
あったとしても知りたくなかったんだ

きっとSEVENTEEN(俺たち)にとってプラスになることじゃない
むしろ不必要な感情だってことも分かっていたし

なにより俺のせいでお前のことを汚したくなかった
純粋で真っ新なお前のことを遠くから守り続けたかったんだ


「……ぁぁぁああ…」

「なに」

「……泣いちゃうよ…嘘みたいだ…夢かもしれない」

「泣いちゃわないで、嘘でも夢でもないから」

「…ぁぁぁああああ」

「よしよし分かった分かった」

「…好きだよ…大好き…大好きなんだ……ぼく、ジョンハニヒョンのこと…大好きなんだよ…」

「…うん」


俺もだよ。そう返すと
彼はもう一度俺を抱きしめなおし、キスをした。

さっきから何度も好きだと伝えているのに、まだ信じられないような顔をして奇跡が起きたみたいに幸せを噛み締めている彼が愛おしくてたまらなかったし
この笑顔をこれからもずっと守ってやりたいと、心底思った。



ジュナ

俺のせいで沢山悩ませてしまって、ごめんな

俺の気持ちを正面から聞いてくれて、嬉しかった

俺のことを嫌いにならないでくれて、ありがとう

お前を想っている時間が一番幸せなんだ


お前が苦しんでいたら俺が一番に手を差し伸べるから
この先の道がどれだけ険しくても俺がお前を守るから

もう絶対に苦しませたりしないから
俺のそばから離れるなよ

こんなに嬉しいのも、こんなに幸せなのも全部お前のおかげなんだ…
お前のおかげで俺は
こんなにも美しい気持ちに出会えたんだよ


だから、俺は


俺はこれから先何があっても
お前と、お前が教えてくれたこの気持ちを守っていく


これから先何があっても
お前のことだけを愛し続けると誓うよ




 

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