my angle


かなわなくても2




「…はい、はい、うん…そうなんですけど、……
……あぁいや、…ううん、じゃなくて……」


ああもう


「…はい分かります、でもそれは難しい。俺、伝えられないです」


どうして分からないんだよ


「…いや分かるんですけど……はい…」


どうして分からないんだよって、会社(あっち)も思ってるんだろうなぁ…


直接じゃないだけマシだが休憩の時間まで電話をかけてきて懇々と同じようなことを言われるのは流石に精神がやられる。

結局なにも解決しないまま電話は終わり、俺は通話が終了しているのを確認してから携帯をベッドの上に思いっきり投げた。もう思いっっっきり。
このモヤモヤとイライラが混じった思いを乗せて力一杯に投げてやった。

あぁ……
次回の会議が今から憂鬱だ


「……アイス食べたい」


本当にふとそう思って、時間を確認する。
休憩終了まであと15分か…
急いで買いに行ったら間に合うかなぁ、と財布を手に取った瞬間、2、3日前にこの部屋で寝て帰ったアイツの言葉を思い出した。

…なんか言ってたな
アイス買ってきてるよとかなんとか

手に取った財布を置き、部屋に備え付けられている小さな冷蔵庫を開けてみると
一番上の狭い冷凍の部分にカップのアイスクリームが一つ置かれているのが見える。


「あった」


ナイスだ、シュア…!
絶好のタイミングでお前が買ってきてくれたアイスが食べられる。
俺は感謝を込めて手を合わせ、薄らと霜に覆われたアイスクリームを取り出した。


「バニラー……?」


アイスのパッケージをしっかり見ることなんていつもはないけれど。
なんだか見覚えのある字が、霜の下に見えたから
俺は薄く張ったそれをそぉっと除けた。

人差し指と中指の皮膚がヒンヤリと冷たくなる


「………」


霜の下から出てきた字もウサギの絵も、誰が書いたのかなんて一瞬で分かって

胸が苦しくなった


" いつもお疲れ様 "


その一言がどれだけ嬉しかったか
嬉しすぎて、嬉しいって言葉じゃ足りないくらい嬉しくて…心が一杯になる。

ジョシュアの行動はいちいち俺を喜ばせる。
練習で疲れていた身体も、さっきまでボロボロだった精神も、お前が買ってきてくれたアイス一つで、ほらもう復活した。
俺が特殊なのかお前が凄いのかどっち?
多分お前が凄いんだと思うよ俺は…


「…ぁー泣きそ」


未だジンジンと冷たさの残る人差し指と中指で、もう一度その文字と絵をなぞる。


「寒かったろ。ごめんな」


結露をまとったウサギが寒そうで可哀想に見えた。もっと早く思い出していればよかった…

彼の字も絵も、たまらなくて
本当に愛しくて、しょうがなかった

暫く眺めていると、練習開始の知らせを伝えにきてくれたメンバーに呼び戻され我にかえる。
アイスは溶けて液体になってしまっていて、せっかく買ってきてくれていたのに無駄にしてしまったとジョシュアに申し訳なくなった。


「…なーディノ、アイスって溶けちゃったら飲むしかないよな」

「もう一回凍らせたら??」

「……天才か?」









「ん!」

「何?」

「アイス返しだよ。こないだはありがとな」

「アイスのお返しがアイス?」


もっと他になかったの?と呆れたように笑われたが、嬉しそうに受け取ってくれたから良かった。

あのアイスはディノの天才的な案の通り、もう一度凍らせて少し形は歪になったがちゃんと美味しく頂くことができた。


「ていうか」

「ん?」

「大丈夫なの?あなたは」

「あーうん大丈夫!お前のおかげで本当に元気になった」

「俺のおかげ?」


あぁいや違うよ、
変な意味ではなくて


「お前の…お前のアイスのおかげ!」

「アイス一つで?」

「アイス美味しいから!」

「…ふっ」

「…え?」

「あぁそう、じゃあ毎日買ってくよ」

「……」

「スンチョルには毎日元気でいて欲しいから」

「……あ、りがとう」


なんで
そんなに
俺の心を揺さぶるんだよ…

ううん違う
ジョシュアは普通で
俺がおかしいんだ

勝手に喜んで、勝手に揺さぶられて、勝手に苦しんで

コイツはいつだって変わらずに
出会った頃と同じ存在で居てくれているのに

俺だけこんな気持ちで、お前のこと変な目で見たりして

ごめん…
だけど断ち切り方を知らないんだ…

断ち切れれば楽になるってとっくの昔に気付いてから、何回も何回もそうしようと思ってるのに
日に日にデカくなっていく気持ちに自分自身も追いついていけないんだよ…

このままデカくなり続けて
限界がきたら、俺はどうするんだろう
どうなってしまうんだろう
全然予測できない


ジョシュアを傷つけることだけはするなよ


今は"俺の知らない俺"にそう願うしかなかった










「帰って」

「…お前な、俺がどんだけお前の相談にのってやったと、」

「知らないよ…俺たちの限られた愛の時間を邪魔しないで」

「バっ…お前!!」


ジョンハンの口を両手で覆い、彼の身体を押し込むようにして部屋の中へ入る。


「デカい声でそゆこと言うなよ!隠すつもりあんの!?」

「…クプスの声の方が大きいし」


本当にコイツにはヒヤヒヤさせられる…
ジュンとのことを律儀に報告してきたあの日、俺への礼と 何があってもこの関係は隠し通すからと真面目な顔をして宣言していたくせに早速コレだ。


「お前な、もっと意識を持って…」

「はいはい分かってる、分かってるから」

「話聞けよ!」

「相談ならまた今度にして。ほらジュニも困ってるでしょ?」


部屋の中にはきょとん。と目を丸くして俺を見つめるジュンが座っていて、絶対俺悪くないのになんか申し訳ないような気持ちになってきて「…わ、悪い」と何故か謝った。
ジョンハンは無理矢理俺が部屋に入ってきたことに腹を立て「はやくでてけ」と言いながら弱い力で俺の腕を引っ張っている。


「いーいーじゃーんー!!」

「駄目」

「お前にしか相談できないんだよ、俺…」

「…だからまた今度聞くって」

「今度っていつだよ!!」

「………もぉぉぉーー」


しつこい俺の駄々に負けた彼は、諦めたような深い溜息を吐き俺の腕を離した。
俺は解かれた腕を上に挙げ、万歳の格好で「ありがとう!」と礼を言った。

その様子を終始無言で見つめるジュンの存在は忘れてしまうほど空気に溶け込んでいて少し面白い。


「……なんか進展したの?」

「や、そういうわけじゃないんだけど」

「なに」

「…いや俺さ、結構限界かも…どうしよう」


気持ちを堰き止めていたものがパンク寸前で、もう今にも崩壊しそうな状態なんだと
そしてそれは少しだけお前らのせいでもあるんだぞと、そう伝えた。

誰かのせいにしてちょっとでも自分を正当化しようとしているだけで、本当は誰のせいでもないけれど。
アイツに対する自分の感情は勝手に肥大していって、日に日に大きくなるそれに ただ怯えているだけなんだけど…


「なら早いとこ伝えたら」

「…簡単に言うなよ」

「でも伝えてみないとなにも進まないよ。クプスがそんな目で見てるって絶対気付いてないし」


「俺がジュニとのこと伝えた時も 男同士とかありえないって顔してたもん」とコイツは更に俺を貶めるようなことを言うのだ。

てかお前…
「まったく未知の世界の話じゃないじゃん。ほら俺とジュニのおかげで」とかなんとか言ってなかった?
言ってること全然変わってるじゃん…
無責任な発言やめろよマジで……


「だからまずは、そういう目で見てるんですよってことをさぁ」

「…だな」

「どうやって伝える?いつにする??俺がセッティングしようか」

「……お前なに急にワクワクしだしてんの」

「いや俺そういうの得意だから」

「ドッキリと一緒にすんなよ…馬鹿ーぁ…」

「大丈夫。タイミングはクプスに任せる」

「タイミング…?」

「言おうって思った時に言えばいいよ。伝えたいって思った時でいい」

「……」

「そのときがきたら、もう頭で考える前に勝手に口から出ちゃってるよ」


それは…
とても恐ろしい現象ですね
是非とも"そのとき"とやらが来ないことを願いますよ俺は

自分の頭と心が矛盾しているのには気付いている。

頭では、こんな気持ちを抱き続けてはいけないということも、間違ったことをしちゃ駄目だということも、俺は別に彼とどうなりたいわけでもないって、今のままでいるのが一番良いって本当にそう思っているのに。
心の方では、好きな気持ちはどんどん増えていくし、その気持ちを早く伝えたいとかも思うし、もっと違う意味でシュアに近付きたい…もっと色んなシュアを見てみたい、皆んなが知らない部分まで知りたい、シュアの特別になりたい……


「…気持ちわる」


俺めっちゃ気持ち悪い
これ俺がシュアの立場でこんなこと、男から思われてたらめちゃくちゃ気持ち悪い
めちゃくちゃ嫌だ……
やめやめ…変なこと考えるな


「なにが気持ち悪いの?」

「…俺の思考」

「なに考えてたの」

「…言わない」

「えーやらしー」

「なんでだよ!お前に言われたくないわ!!」


相談しに来たつもりだったのに結局揶揄われただけだった…

けれど話を聞いてくれただけでだいぶ救われたように思う。
誰にも言えることじゃないから誰か聞いてくれる人が居るというだけで本当に心が楽になる。

終始無言で微笑んでいたジュンと目を合わせ「邪魔してごめんな」と肩を叩くと、彼はフルフルっと頭を振って「邪魔なんかじゃないよ」と俺の言葉を否定した。
あぁなんて可愛い弟なのだろうか…

悪魔とは大違いだ。


「邪魔だよ」

「分かってるよ…帰る帰る、お邪魔しました」

「早く出ていけ」

「はいはい…」

「クプス」

「ん?」

「気持ち悪くは、ないよ。全然」


最後の一言は悪魔から出た声だとは思えないほど優しい声だったから俺は驚いて振り返った


「それ、凄く綺麗な気持ちだから」


「………」


………そう言った彼の瞳が物凄く綺麗に澄んでいて
コイツこんな綺麗な目だったっけ……と唖然とした。


「だから抑えないでいいと思う」

「………」

「以上。はいサヨウナラ」

「……ジュナ」


突然名前を呼ばれた彼はぴくんっと体を跳ねらせ反応する。
俺はジョンハンから彼の方へと視線をずらし、心の底から感謝を込めて微笑んだ。

コイツがこんなに生き生きしてんのは
全部お前のおかげなんだろう

俺コイツのこんな瞳、初めて見たよ

互いに綺麗な気持ちで愛し合っているんだなぁ、お前らは



「ありがとな、ジュナ」

「え??」

「いーから早く出てって」






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