本人以上にそわそわ/孤爪


※2022 孤爪くんハピバ記念に書いたものです。多分この設定では二度と書きません。



世界的人気YouTuber KODZUKEN 元アイドルと結婚を発表

今日未明 人気YouTuberであり株式会社Bouncing Ball 代表取締役であるKODZUKENが自身のSNSにて結婚を発表。

お相手は元アイドルで現在同じくYouTuberとして活動中の……

そのニュースを見た瞬間悲鳴が出た。昼休みだというのにご時世なのかデスクには人で溢れている。私は注目を集めてしまったことに頭だけ下げて謝罪の意を示した。それからもう一度手元のニュース記事に目を滑らせる。

まじか。確かにコヅケンは前からこの子が推しだということは隠してなかった。むしろ全面的に出していた。部屋に当たり前のように飾られていたゲームコラボ時代のポスター。YouTuberとして名前が売れてからは駅前に出された広告、バラエティショップのポップやコラボアイテムと悪ふざけのように写真を撮ってはSNSに上げていて……そういえばゲーム実況者なのにコスメのプレゼントとか貰っていた気がする。

あとは、たしかこの子高校時代バレーやってたとかでVリーグの解説ゲストに呼ばれてたような。あ、コヅケンって全国行ったって噂あったし。

記事を読み込むと、アイドル時代には接点はなく飽くまでもファンとして応援していた、共通の友人を通して紹介をしてもらい、そこからお互いのことを知り人として好きになった、と書いてある。
そこまで読んでいつも覗いているSNSの最新記事を表示させる。夫婦Tシャツを可愛く着こなした2人の写真と共にコヅケンがご報告という見出しで投稿していた。


『ご存知の方もいらっしゃると思いますが、兼ねてより応援していたこの方と晴れて入籍致しましたことをご報告します。俺の誕生日を入籍日に、と選んでくれた彼女には感謝を忘れずに夫婦として共に歩んで行きたいと思っています』

「た、誕生日が結婚記念日……」
「さっきから何、挙動不審過ぎない?」
「お、推しが推しと結婚しました……」
「なにそれ。おめでたいねよかったじゃん」

驚愕に満ちた声が自分から出たのがわかる。あ、また私は視線を独り占めしてる絶対。視線を感じて隣を見ると、怪訝そうな顔をした先輩がお握りの包装の端を持って固まっていた。
目が合ったことによって声をかけざるを得なかった先輩の問い掛けに、現状をそのまま返答する。

呆れたようにお握りの包装を剥がすことに戻った先輩。違う、違うんです。私の推しが、推しの推しと結婚してしまったんです。

これは確かに祝うべきなんだ。そうなんだ。でもあのコヅケンが結婚するなんて天地がひっくりかえっても有り得ないって思っていたから、なんかもう脳内が追いつかない。
一生一人で自由に生きていくタイプだと思っていた。うわあ、2人になってしまったんだ。
悲しいかな嬉しいかな、気持ちだけが追いつかないのでいつもしているコメントはお休みさせてもらう。
記事の写真を2回タップして真っ赤なハートを出すと並んだ二人の間に綺麗に納まった。あ、これもきっと考えた構図なんだ。コヅケンさすがすぎる。

とりあえず、タグ付けされているコヅケン妻のアカウントをタップしてみた。やっぱり元アイドル現人気YouTuberとなると顔面が尊い。今日はこんなメイクだよ、とか新しいネイルとかああ、キラキラ女子ですねはいはいわかります。そんな感じですもんね。という投稿に溢れている。
それを自分で作ったお弁当をつつきながら眺めた。いいなぁ。
どうせあれでしょ。お金だって死ぬほど入ってきて今くらいの時期には夏に頼んでた秋冬の新作アイテムとか続々家に届いてるんでしょ。
動画撮るのに追われて自炊なんてする暇とかないだろうからUberとかで頼んでるんでしょ。

「あれ」

ふ、とある投稿で指が止まった。手作り感溢れる1口大のパイ菓子の写真。
『パイ生地は少し面倒だったかも……中は簡単にりんごジャムだよ!りんごジャムはレンジで簡単に作れるからみんなやってみてね』
アップルパイだ。コヅケンの数少ない好物。1口大という所に彼女の気遣いを感じてしまった。え、絶対ゲーム中でも気軽に食べれるようにじゃん。うわ、出た、あざと。
ふん、と鼻で笑いながら私は更に投稿を遡る。

ふんふん、自炊はするんだ。
美容と健康に気をつかってるらしくあまり外食もしないらしい。だからといって朝はスムージーだけとかそういうのでもないらしく、きちんと野菜たっぷりのご飯を召し上がっているようだ。こんな具だくさんの味噌汁なんて作ったことない。精々ワカメだけ。たまに豆腐も入れるけど一人暮らしだとなかなか難し……

「あー……そういうこと」

コヅケンはストーリーを上げても絶対にハイライトには残さない。だけどネットのガチ恋勢は『これもしかして誰かの手作りじゃない?』なんて必ずスクショを載せるのだ。
思い付いてコヅケンのファンが集まるコミュニティを覗くと私の予感は当たった。やっぱり特定してる人が大勢いた。そうだよね、あんな自堕落なコヅケンがたまに手作り感満載のご飯を載せてたんだから怪しむよなあ。
彼女の作ってくれたご飯を全世界に発信するだなんて俗っぽいところもあるんだ、そんなこと思いながら私は再びコヅケン妻のアカウントに戻った。

てゆうか、ご飯も美味しそうなのもあるけど私服が可愛い。ハイブランドだらけのコーデもあるけど私のような一般OLでも手の届くようなブランドでコーデを組んでるのもあって普通に参考になる。うわ、好きかもしれない。案外チョロい自分に笑いが込み上げてきた。

笑った拍子に指が滑って、どうやら最新記事を読み込んでしまう。あ、と思った時にはぽこんと新しい写真が表示され、そこには笑顔の推しと元アイドルの写真。多分何枚かあるようだ。

コヅケンのように計算された構図でもなんでもないけど、珍しく破顔したコヅケン。恥ずかしそうに左手で顔を隠す様子が他撮りならではの新鮮さと、恐らく恋人にしか見せない一面を表している。
左にスワイプして次の画面に切り替えると今度は真剣に婚姻届を書くコヅケンだった。婚姻届こそぼかしが入っているけれど、めちゃくちゃオフショで感激が止まらない。

「かっ……かっこよ死する……!」

隣の先輩はもはや何も言わずインスタントの味噌汁を口に含んでいた。
尊い。尊すぎる。ゲーム以外でもこんな顔するんですか。しんどい。
興奮を抑えながらまたスワイプすると恐らく車内なのかゲッソリと疲れた顔のコヅケンがうんざりした様子でハンドルにもたれかかっている姿を背景に楽しそうにピースをする元アイドルのツーショットだった。

『彼のSNSや私の事務所からも発表があった通り、KODZUKENさんと結婚します。写真はプロポーズからの婚姻届提出後です。無事に受理されて疲れがどっときたそうです。誕生日なのに疲れさせてすいません。お互い応援してくださる皆さんがいてこその仕事なので、このように発表するかとても悩みました。ですが、隠すようなことはひとつもありません。これからも夫婦共々精進しますのでよろしくお願いします。』

さっきまで見ていた砕けた文章とは打って変わった畏まっている文書だった。恐らく私のようなKODZUKENガチ恋勢が見ているのを意識したんだろう。
これで、この子を叩いたりアンチしたりそういうことをするのはとても簡単。完璧そうに見えたってそうじゃないこともあるんだろう。
人は生まれながらに平等ではないし、そんなこと誰から教えられなくてもみんな知ってる。
正直に言うとこの子は確かに可愛いしいい子そうだから偏見なしに見たらファンになってたに違いない。でもまだ複雑なのは変わらないのだ。

だけど、ああいう顔は、恋人、っていうかもう奥さんだけど、まあ、そういう人にしか見せないんだろうな。


しょうがない。取り敢えず家に帰ったらこの子の動画でも見てあげよう。そのうち夫婦のチャンネルとか作らないかな。きっと奥さんにしか撮れないコヅケンがいて、それが見られるなら、まあ、推しが結婚するのも悪くない。

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