5日目
屯所に着いて、山崎君からさっきの事の経緯を聞いた。
どうやら山上君は人違いをしているらしい。
そして、今朝の摘発で保護した女性の人数があまりにも少なかったため、残りの被害者がいるだろうと多めにパトカーを出していたらしい。
だから2人で乗って帰っても大丈夫だったわけで、そう言えばいいのに。
報告書を書いて、副長室へ向かう。
今日の不機嫌は今日中に直してあげないと。
「働き者ですねぇー、土方さんは」
「たりめーだ」
想像通り、土方さんは仕事をしている。
大きい山を片付けた日くらい、休めばいいのに。
そりゃあこんなに働き詰めでは、誰だって不機嫌になる。
「お前、サラシは」
横目で私を見た土方さんは、さらに眉間に皺を寄せて仕事を続ける。
屯所の風紀を守るのも、このお方の仕事だそうで。
この人、仕事しながら仕事している…と眉間の皺に納得する。
「ボタン2つ以上開けんなっつったろーが。また掛け違えてんぞ」
「あれ、ほんとだ」
サラシを取ったあと、というか、仕事スイッチがオフになってしまうと、どうも気が抜けてしまうんだけど、これ以上不機嫌になられては困る。
肩を揉むと、お説教タイムの予感がして、
「そういえば山上くん、」
少し強引に話を変える。
「ヒーローだって言ってましたね」
きっと山上君のヒーローは、土方さんだ。
当の本人に自覚があるのかないのか、わからないけど。
「そうだったか?」
「そうでした」
とぼけちゃって、またまたぁ。
なんて思っていたら、
「そうだった、お前ェあいつに抱きしめられてたよなァ」
意地悪な声で振り向かれ、振ってはいけない話題だったと気づく。
「あれは抱きしめるというよりハグというか」
「……へェ」
体が、心が、頭が、押してはいけないスイッチを押してしまったと言っている。
「なにしてるんですか、土方さん」
「ボタン、掛け直してやってる」
片肘を机につきながら、それはそれは楽しそうな顔でボタンを外される。
「自分でできますっ、というかお風呂入るしっ」
外されたボタンを留めようとするのに、こういう時に限って上手くできない。
いや、鬼の副長を前に動揺してしまえば、何もできなくて当然なのか。
「山上は知らねェんだよな、俺らのこと」
"俺らのこと"
元、夫婦であるということ。
私の冷たい手を、温かい手で優しく掴まれて、たったそれだけで心臓が跳ねる。
「っ、多分。山崎くん言ってないですかね」
「1人だけ知らねェのもよくねェよなァ、教えてやんねーと」
何もできない私を面白そうに、肩に置いた手で首筋を優しく撫でられて、このままでは土方さんのペースに飲み込まれてしまう。
「土方さん、遊んでないで、お仕事」
全く力の入っていない手で、必死で押し戻す。
余裕のない話の逸らし方なんて、通用するはずもなく。
「風呂の前か後か、選べ」
「後」と答えたところで、後になったことなんてない。
頭にかけられたスカーフの隙間から、土方さんの肌が見える。
「はァー、今日は疲れた。いつもの」
「へっ?」
"いつもの"
そう聞いて、ほとんど音になっていない声を出してしまう。
土方さんの"いつもの"は、マッサージだからだ。
てっきり……。
私ってばなんて破廉恥な女になったんだ。
あんなことやこんなことの始まりを予感していたなんて、恥ずかしすぎる。
バレたら、一生からかわれる。
「今日は、私も疲れたし、」
わかってました、そんな顔をしながら最大限に冷静を装う。
「お前ェは脱走した子犬探しだったか?俺は朝一で人身売買の現場を押さえて」
「うっ、それを言われると」
「お前ェが、癒してくれんだろ?」
「もう、わかりました。脱いでください」
ここで不自然に拒否をすれば、私が土方さんの体に不必要にドキドキしていたことがバレてしまうし、勝手に弄ばれて悔しいけど致し方ない。
腕まくりをして気持ちを切り替え、丁寧にマッサージする。
さっきまで遊ばれていたのに、傷がついていないことに安心してしまう。
ずるい男だと力を込めても、硬い筋肉に跳ね返されてまた悔しくて、やっぱり余裕なんて全然ない。
「優生、」
土方さんの声と同時に、勢いよく襖が開く。
「総悟?!おま、人の部屋開けるときはノックしなさいって教えたでしょうが!」
「びっくりしたぁ」
「どーぞ続けてくだせェ。俺ァ土方さんの弱った声を聞きにきたんで」
「ンな声出すかっ」
「そそそうですよ。お、沖田さん、なんて事をっ」
"弱い声"にさっき自分が想像していたことが一瞬で蘇り、わかりやすくドモってしまった。
危ない…特に総悟くんには絶対に悟られてはいけない。
冷静に。絶対冷静に。
……
「んあー、つっかれたぁー」
総悟くんのマッサージが終わり、また副長室に2人だけになった。
部屋を飛び出していった山上君が少し気になるけど、体がバキバキすぎて今日はこのまま寝てしまいたい。
伸びをした勢いで布団に横になると、一気に睡魔が襲ってくる。
ここで寝たら、土方さん怒るかな。
考えながら、まぶたはゆっくり閉じていく。
「優生、」
「ん」
「風呂は」
ああそうだ、お風呂まだだった…。
汗もかいたし絶対入りたいけど、まぶたが開きません。
「ちょっとだけ、休憩、」
「コラ、寝るな」
「ん、寝てません、お風呂入ります」
「ったく」
タバコの匂いがして、唇に温かいものが触れる。
ゆっくり目を開くと、土方さんの唇が触れていた。
「っ、」
「目、覚めたか」
半分寝かかっていた頭では、急展開すぎてついていかない。
さっき、そうじゃないと方向転換したのは土方さんなのに。
ぼーっと見つめると、また静かにキスされる。
「ぁっ」
深く唇を奪われて、やっと頭が回り出してももう遅くて、
「土方さんっ、」
肩を弱く掴むと、何かの合図だったかのように手が体に回される。
「風呂の前か、後か、」
「あ、後に決まってます!汗かいてっ」
言い終わる前に下着が解かれ、ズボンのボタンが外される。
元夫婦なわけだから、こういうことは当然初めてではなく。
別れたての頃は「"元"なんだからいけません」なんて言ったこともあったけど…
今では"2人でいる時"は上司部下以上、夫婦未満な関係が成り立っている。
「トシ、今日はほんとにっ」
そんな関係、土方さんの中に存在するなんてだいぶ意外だったけど、
「これから汗かくなら、同じだろ」
前髪が触れる距離、時々意地悪に見つめられて、熱すぎる手で優しく触れられて、低い声で名前を囁かれて、思考も余裕も理性も立場もすべて吸い込まれて、どうでもよくなってしまう。
みんなにバレたらきっと「副長がそんなんでいいんですか」って言われてしまうだろうけど。
私が知っている土方さんは、私だけが知っている土方さんなら、どんなでもいい。
夫婦じゃなくなったって、私の気持ちは変わってないし、
土方さんもそうなんじゃないかって思えるから。
あなたが、愛していない人にこんな風に触れるなんて、出来ないことを知ってるから。
「あっ、ん、」
たとえ不安になっても、
「っ、優生、」
あなたはすぐにそれを消してくれる。
もうそんな必要ないのに、絶対に消してくれる。
だから私はいつも満たされて、土方さんを愛すことしかできなくなってしまう。
「心配した」
「え?」
「もしあの場に、浪士が2人だけじゃなかったら、山崎も山上もさほど当てになんねェだろ」
今、お説教タイム入ります??
せめて終わってからに、…いや、明日にしません??
「う、でも、」
「でも?」
言い訳すら出来ない。
確かに、あの場に2人だけ、というか、山上くんを連れ去った人物が何人かなんて、わからなかったから。
「すみません」
「お仕置き、だな」
「えっ?!」
それが目的ですか!!
なんて言う間もなく、また全て吸い込まれて、結局朝シャンでした。
監察日記- Another side-
5日目
屯所に着いて、山崎君からさっきの事の経緯を聞いた。
どうやら山上君は人違いをしているらしい。
そして、今朝の摘発で保護した女性の人数があまりにも少なかったため、残りの被害者がいるだろうと多めにパトカーを出していたらしい。
だから2人で乗って帰っても大丈夫だったわけで、そう言えばいいのに。
報告書を書いて、副長室へ向かう。
今日の不機嫌は今日中に直してあげないと。
「働き者ですねぇー、土方さんは」
「たりめーだ」
想像通り、土方さんは仕事をしている。
大きい山を片付けた日くらい、休めばいいのに。
そりゃあこんなに働き詰めでは、誰だって不機嫌になる。
「お前、サラシは」
横目で私を見た土方さんは、さらに眉間に皺を寄せて仕事を続ける。
屯所の風紀を守るのも、このお方の仕事だそうで。
この人、仕事しながら仕事している…と眉間の皺に納得する。
「ボタン2つ以上開けんなっつったろーが。また掛け違えてんぞ」
「あれ、ほんとだ」
サラシを取ったあと、というか、仕事スイッチがオフになってしまうと、どうも気が抜けてしまうんだけど、これ以上不機嫌になられては困る。
肩を揉むと、お説教タイムの予感がして、
「そういえば山上くん、」
少し強引に話を変える。
「ヒーローだって言ってましたね」
きっと山上君のヒーローは、土方さんだ。
当の本人に自覚があるのかないのか、わからないけど。
「そうだったか?」
「そうでした」
とぼけちゃって、またまたぁ。
なんて思っていたら、
「そうだった、お前ェあいつに抱きしめられてたよなァ」
意地悪な声で振り向かれ、振ってはいけない話題だったと気づく。
「あれは抱きしめるというよりハグというか」
「……へェ」
体が、心が、頭が、押してはいけないスイッチを押してしまったと言っている。
「なにしてるんですか、土方さん」
「ボタン、掛け直してやってる」
片肘を机につきながら、それはそれは楽しそうな顔でボタンを外される。
「自分でできますっ、というかお風呂入るしっ」
外されたボタンを留めようとするのに、こういう時に限って上手くできない。
いや、鬼の副長を前に動揺してしまえば、何もできなくて当然なのか。
「山上は知らねェんだよな、俺らのこと」
"俺らのこと"
元、夫婦であるということ。
私の冷たい手を、温かい手で優しく掴まれて、たったそれだけで心臓が跳ねる。
「っ、多分。山崎くん言ってないですかね」
「1人だけ知らねェのもよくねェよなァ、教えてやんねーと」
何もできない私を面白そうに、肩に置いた手で首筋を優しく撫でられて、このままでは土方さんのペースに飲み込まれてしまう。
「土方さん、遊んでないで、お仕事」
全く力の入っていない手で、必死で押し戻す。
余裕のない話の逸らし方なんて、通用するはずもなく。
「風呂の前か後か、選べ」
「後」と答えたところで、後になったことなんてない。
頭にかけられたスカーフの隙間から、土方さんの肌が見える。
「はァー、今日は疲れた。いつもの」
「へっ?」
"いつもの"
そう聞いて、ほとんど音になっていない声を出してしまう。
土方さんの"いつもの"は、マッサージだからだ。
てっきり……。
私ってばなんて破廉恥な女になったんだ。
あんなことやこんなことの始まりを予感していたなんて、恥ずかしすぎる。
バレたら、一生からかわれる。
「今日は、私も疲れたし、」
わかってました、そんな顔をしながら最大限に冷静を装う。
「お前ェは脱走した子犬探しだったか?俺は朝一で人身売買の現場を押さえて」
「うっ、それを言われると」
「お前ェが、癒してくれんだろ?」
「もう、わかりました。脱いでください」
ここで不自然に拒否をすれば、私が土方さんの体に不必要にドキドキしていたことがバレてしまうし、勝手に弄ばれて悔しいけど致し方ない。
腕まくりをして気持ちを切り替え、丁寧にマッサージする。
さっきまで遊ばれていたのに、傷がついていないことに安心してしまう。
ずるい男だと力を込めても、硬い筋肉に跳ね返されてまた悔しくて、やっぱり余裕なんて全然ない。
「優生、」
土方さんの声と同時に、勢いよく襖が開く。
「総悟?!おま、人の部屋開けるときはノックしなさいって教えたでしょうが!」
「びっくりしたぁ」
「どーぞ続けてくだせェ。俺ァ土方さんの弱った声を聞きにきたんで」
「ンな声出すかっ」
「そそそうですよ。お、沖田さん、なんて事をっ」
"弱い声"にさっき自分が想像していたことが一瞬で蘇り、わかりやすくドモってしまった。
危ない…特に総悟くんには絶対に悟られてはいけない。
冷静に。絶対冷静に。
……
「んあー、つっかれたぁー」
総悟くんのマッサージが終わり、また副長室に2人だけになった。
部屋を飛び出していった山上君が少し気になるけど、体がバキバキすぎて今日はこのまま寝てしまいたい。
伸びをした勢いで布団に横になると、一気に睡魔が襲ってくる。
ここで寝たら、土方さん怒るかな。
考えながら、まぶたはゆっくり閉じていく。
「優生、」
「ん」
「風呂は」
ああそうだ、お風呂まだだった…。
汗もかいたし絶対入りたいけど、まぶたが開きません。
「ちょっとだけ、休憩、」
「コラ、寝るな」
「ん、寝てません、お風呂入ります」
「ったく」
タバコの匂いがして、唇に温かいものが触れる。
ゆっくり目を開くと、土方さんの唇が触れていた。
「っ、」
「目、覚めたか」
半分寝かかっていた頭では、急展開すぎてついていかない。
さっき、そうじゃないと方向転換したのは土方さんなのに。
ぼーっと見つめると、また静かにキスされる。
「ぁっ」
深く唇を奪われて、やっと頭が回り出してももう遅くて、
「土方さんっ、」
肩を弱く掴むと、何かの合図だったかのように手が体に回される。
「風呂の前か、後か、」
「あ、後に決まってます!汗かいてっ」
言い終わる前に下着が解かれ、ズボンのボタンが外される。
元夫婦なわけだから、こういうことは当然初めてではなく。
別れたての頃は「"元"なんだからいけません」なんて言ったこともあったけど…
今では"2人でいる時"は上司部下以上、夫婦未満な関係が成り立っている。
「トシ、今日はほんとにっ」
そんな関係、土方さんの中に存在するなんてだいぶ意外だったけど、
「これから汗かくなら、同じだろ」
前髪が触れる距離、時々意地悪に見つめられて、熱すぎる手で優しく触れられて、低い声で名前を囁かれて、思考も余裕も理性も立場もすべて吸い込まれて、どうでもよくなってしまう。
みんなにバレたらきっと「副長がそんなんでいいんですか」って言われてしまうだろうけど。
私が知っている土方さんは、私だけが知っている土方さんなら、どんなでもいい。
夫婦じゃなくなったって、私の気持ちは変わってないし、
土方さんもそうなんじゃないかって思えるから。
あなたが、愛していない人にこんな風に触れるなんて、出来ないことを知ってるから。
「あっ、ん、」
たとえ不安になっても、
「っ、優生、」
あなたはすぐにそれを消してくれる。
もうそんな必要ないのに、絶対に消してくれる。
だから私はいつも満たされて、土方さんを愛すことしかできなくなってしまう。
「心配した」
「え?」
「もしあの場に、浪士が2人だけじゃなかったら、山崎も山上もさほど当てになんねェだろ」
今、お説教タイム入ります??
せめて終わってからに、…いや、明日にしません??
「う、でも、」
「でも?」
言い訳すら出来ない。
確かに、あの場に2人だけ、というか、山上くんを連れ去った人物が何人かなんて、わからなかったから。
「すみません」
「お仕置き、だな」
「えっ?!」
それが目的ですか!!
なんて言う間もなく、また全て吸い込まれて、結局朝シャンでした。
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好きだけじゃやってけない