5日目(赤筆先生)




「なかなかいい線いってたが、詰めが甘ェ」
「は、はい」
「俺がわざと勘違いする様な言い方したのは当たりだ。おそらく土方さんも」
「えぇっ、なんで…」
「おもしれーから」


そんな理由で…いや、とっても沖田さんらしい…。
山崎さんは僕の話を聞いただけで、きっと2人の性格も加味して見抜いたんだろう。さすがだ。


「でも、土方さんがわざとそうさせたのは、お前ェの存在に気づいてから。俺が考えるに、仕事が終わって優生の方を向いた時、視界の端に扉の方が見えた」
「なるほど…?」
「一言目で、いつもと違うと思ったんだろ?その時は2人とも気づいてないはずなのに」


たしかに。
優生さんは僕が扉の向こうにいたことに気づいてないみたいだったし、土方副長も仕事中は机に向かっていたから、僕の感じた違和感はなんだったんだろうか。


「優生、野郎のことを"土方さん"って呼んでやせんでしたかィ?」
「あっ!!!」


ーーーーー"働き者ですねぇー、土方さんは"


「普段は副長って呼んでるからな。タメ口も、2人の時だけ」


自覚出来なかったけど、だから違和感を。


「仕事を終えて、土方さんにスイッチが入ったのも事実。だが振り返ってお前ェの存在に気づいて、わざと聞かせる事を思いついた。テストっつーのは、自分が山上の存在に気づいてることを、山上自身気づいてたのかってところでしょう」


メリット、ではなくテストが目的だったのか。

だとしたら、僕は不合格だ。
まさか気づかれていたなんて、僕にわざと聞かせていたなんて、夢にも思わなかった。
これがもし敵だったら…僕はまんまと敵に誤った情報をつかまされていたことになる。


「ここにいるうちは全てがテスト…僕は0点ですね。土方副長に惑わされて、沖田さんに惑わされて、違和感に気付けてもそれじゃあ意味がないですもんね」


その可能性を少しも考えなかった僕と、すぐに気づいた山崎さん。
隊士とそうでない者の違いだ。


「というかそもそも、根本を勘違いしてる」
「根本?」


まだ何か…?


「優生が誰と恋愛しようが、それが隊士だろうが、切腹になんてならねーよ。そんな法度そもそもねェ」
「えっ?」


だって、

だって、


「優生さんが本当は男だから、とか?」


混乱してわけのわからない事を言い出す僕の頬を、


「女じゃコラ」


と掴んできたのは当の本人。
山崎さんのと戯れは終わったようだった。


「でも、色恋沙汰は御法度だって、山崎さんも土方副長も、沖田さんだって!」
「よーーーく思い出してみなせェ」



ーーーーー"男色は法度違反だからね"


ーーーーー"法度を破って色恋たァいいご身分だなァ"


ーーーーー"野郎は色恋にうるせーんで気をつけなせェ"



「記憶違いはありません。確かに禁じられています。局中法度にだって確かに記載があります」


屯所へ来る前に松平さんから渡されていた局中法度の冊子を取り出す。

穴が空くほど読み込み暗記し、いつもお守り代わりに携帯している。
間違えるはずがない。


〜局中法度〜
第19条、男色不許
(男色を許すべからず)


「"男色禁止"。優生は女だからこれに含みやせんぜ」
「はっ?!」
「そもそもこれ、私が来る前に出来た法度ですもんね」
「まあ、土方さんが色恋にうるせェのは事実だし、山崎と山上がそういう関係ならもちろん切腹。誰も間違ったことは言ってやせん」
「なんだ…僕てっきり…、」


さっき僕がこの話をした時、思い出しながら話すことに夢中で特に気にしていなかったけど、隊士たちがピンとこない表情をしていたのはそういうことだったのか。


「これもわざと。お前ェが優生に興味もたねェ様に、あえて"男色"じゃなく"色恋"って予防線張ってんでさァ。ですよね、土方コノヤロー」
「なワケねーだろォが!言葉のあやだよ」
「"土方副長だけ例外"はなかったんですね…」
「あたりめェだろ。テメェが守れねェ規則作ってどーする」


タバコを吸う土方副長を、隊士たちはにやにやした顔で見ている。


「サラシもボタンも、優生を変な目で見られたら困るからでしょーに。意地っ張りはモテやせんぜ、土方クソヤロー」
「あぁ!マッサージ中にワイシャツ脱ぐなって言ったのも、山上くんが近くにいたからですか?いつもは何も言わないのに変だと思ったんですよね」


優生さんの頭の上にピカーンとついた電気を消すように"お前ェは黙ってろ!"と土方副長が煙を吹きかける。


「やだぁー。土方さんいい年して独占欲ですかぁー?気持ち悪いから死んでくだせェ」
「総悟!!いい加減にしねェと叩っ斬るぞ!」


今にも爆発しそうな土方副長を、周りの隊士が必死に止めている。


「でも、そこまでするなら予防線じゃなく法度に書けばいいのでは…?」


その方が手っ取り早くみんなに浸透するし、効率がいい気がするけど…。


「野暮な事言いやすねェ」
「鈍いな、お前」
「あれ、結局山上は知ってるんだっけか?」


土方副長を抑えていた隊士たちが少し気まずそうに、と言うにはどこか朗らかな顔つきで力を緩める。


「それじゃあ、土方さん自身も優生とくっつけなくなる。それは困りやすもんねェ、土方バカヤロー」
「書き直すのが面倒なだけだっつーの。俺は仕事が山積みなの」


顔を赤らめてポリポリと頬を書く土方副長は、初めて見る表情をしていて、


「書き直す前に籍入れちまったしよォ」


気持ちを察するには充ぶ…


ん?


今、


なんて?



ーーーーー"書き直す前に"


ーーーーー"セキ入れちまった"


セキ、


セキ?



「籍って戸籍ですかァァァァアァァァアァァアアァ???!!!?!!!?!!!!!!!」



「うるさ」
「その"セキ"以外何入れんだよ」
「そんなに驚くかね、毎度毎度…」


優生さんが怪訝そうな顔つきで、"新人隊士の恒例みたいになってません?"と周りの隊士に問う。



ーーーーー"また掛け違えてんぞ"


ーーーーー"朝から喧嘩ですかィ。犬も食いやせんぜ。いや、もう食うのか"


夫婦だった片鱗は、たしかにここに。



「"元"だから、今はなんでもないから」
「ぇ…離縁したんですか?」
「そ。だから気にしないで。さ、見廻り行ってきまーす」


時計を見ると見廻りの時間だった。

このもやもやを抱えたまま見廻り…少し、いやだいぶ気持ちを整理したいけど、そうは言ってられない。


「山上、とっとと行くぞ」
「はいっ」


今日は沖田さんと見廻りだ。


……


「あの、土方副長はその、優生さんの事まだ…」
「気になるんですかィ?優生の事」


見廻り中、隣でアイマスクをしている沖田さんに問う。
本来なら"マスクしてたら見廻れなくないですか?"とでも言うべきなのだろうけど。


「いや…離縁したのに、優生さんに男を近づかせないようにしてたみたいなので」
「あの2人は嫌い合って別れたわけじゃねーからねィ。副長の元嫁に手出そうなんて考える輩はまずいねェのに、新人が入ると特に、自分の葉っぱがかかってるって見せつけようとする、気色悪りィ野郎でィ」
「そうなんですか…」


これ以上聞いてもますます頭が混乱しそうで、何も言わなかった。

でも、土方副長は優生さんを今でも想ってるんだろう。
じゃなきゃいくらテストでも、僕にあんな勘違いをさせる必要はない。
メリットは、優生さんに近づかせないこと、だった。

そして優生さんも、今でも土方副長の存在が特別だから、2人の時にしか見せない顔を持っている。


仕事熱心でストイックなあの2人が、プライベートをわざと作っているのは、言葉にしなくても伝わるように…
いや、言葉にできないからこそ、伝わるように…
相手に"あなたを想っている"ことが、伝わるように…、だ。





その日、よくわからない切なさが、1日中胸を締め付けていた。
長い1日だった。

監察日記
5日目(赤筆先生)




「なかなかいい線いってたが、詰めが甘ェ」
「は、はい」
「俺がわざと勘違いする様な言い方したのは当たりだ。おそらく土方さんも」
「えぇっ、なんで…」
「おもしれーから」


そんな理由で…いや、とっても沖田さんらしい…。
山崎さんは僕の話を聞いただけで、きっと2人の性格も加味して見抜いたんだろう。さすがだ。


「でも、土方さんがわざとそうさせたのは、お前ェの存在に気づいてから。俺が考えるに、仕事が終わって優生の方を向いた時、視界の端に扉の方が見えた」
「なるほど…?」
「一言目で、いつもと違うと思ったんだろ?その時は2人とも気づいてないはずなのに」


たしかに。
優生さんは僕が扉の向こうにいたことに気づいてないみたいだったし、土方副長も仕事中は机に向かっていたから、僕の感じた違和感はなんだったんだろうか。


「優生、野郎のことを"土方さん"って呼んでやせんでしたかィ?」
「あっ!!!」


ーーーーー"働き者ですねぇー、土方さんは"


「普段は副長って呼んでるからな。タメ口も、2人の時だけ」


自覚出来なかったけど、だから違和感を。


「仕事を終えて、土方さんにスイッチが入ったのも事実。だが振り返ってお前ェの存在に気づいて、わざと聞かせる事を思いついた。テストっつーのは、自分が山上の存在に気づいてることを、山上自身気づいてたのかってところでしょう」


メリット、ではなくテストが目的だったのか。

だとしたら、僕は不合格だ。
まさか気づかれていたなんて、僕にわざと聞かせていたなんて、夢にも思わなかった。
これがもし敵だったら…僕はまんまと敵に誤った情報をつかまされていたことになる。


「ここにいるうちは全てがテスト…僕は0点ですね。土方副長に惑わされて、沖田さんに惑わされて、違和感に気付けてもそれじゃあ意味がないですもんね」


その可能性を少しも考えなかった僕と、すぐに気づいた山崎さん。
隊士とそうでない者の違いだ。


「というかそもそも、根本を勘違いしてる」
「根本?」


まだ何か…?


「優生が誰と恋愛しようが、それが隊士だろうが、切腹になんてならねーよ。そんな法度そもそもねェ」
「えっ?」


だって、

だって、


「優生さんが本当は男だから、とか?」


混乱してわけのわからない事を言い出す僕の頬を、


「女じゃコラ」


と掴んできたのは当の本人。
山崎さんのと戯れは終わったようだった。


「でも、色恋沙汰は御法度だって、山崎さんも土方副長も、沖田さんだって!」
「よーーーく思い出してみなせェ」



ーーーーー"男色は法度違反だからね"


ーーーーー"法度を破って色恋たァいいご身分だなァ"


ーーーーー"野郎は色恋にうるせーんで気をつけなせェ"



「記憶違いはありません。確かに禁じられています。局中法度にだって確かに記載があります」


屯所へ来る前に松平さんから渡されていた局中法度の冊子を取り出す。

穴が空くほど読み込み暗記し、いつもお守り代わりに携帯している。
間違えるはずがない。


〜局中法度〜
第19条、男色不許
(男色を許すべからず)


「"男色禁止"。優生は女だからこれに含みやせんぜ」
「はっ?!」
「そもそもこれ、私が来る前に出来た法度ですもんね」
「まあ、土方さんが色恋にうるせェのは事実だし、山崎と山上がそういう関係ならもちろん切腹。誰も間違ったことは言ってやせん」
「なんだ…僕てっきり…、」


さっき僕がこの話をした時、思い出しながら話すことに夢中で特に気にしていなかったけど、隊士たちがピンとこない表情をしていたのはそういうことだったのか。


「これもわざと。お前ェが優生に興味もたねェ様に、あえて"男色"じゃなく"色恋"って予防線張ってんでさァ。ですよね、土方コノヤロー」
「なワケねーだろォが!言葉のあやだよ」
「"土方副長だけ例外"はなかったんですね…」
「あたりめェだろ。テメェが守れねェ規則作ってどーする」


タバコを吸う土方副長を、隊士たちはにやにやした顔で見ている。


「サラシもボタンも、優生を変な目で見られたら困るからでしょーに。意地っ張りはモテやせんぜ、土方クソヤロー」
「あぁ!マッサージ中にワイシャツ脱ぐなって言ったのも、山上くんが近くにいたからですか?いつもは何も言わないのに変だと思ったんですよね」


優生さんの頭の上にピカーンとついた電気を消すように"お前ェは黙ってろ!"と土方副長が煙を吹きかける。


「やだぁー。土方さんいい年して独占欲ですかぁー?気持ち悪いから死んでくだせェ」
「総悟!!いい加減にしねェと叩っ斬るぞ!」


今にも爆発しそうな土方副長を、周りの隊士が必死に止めている。


「でも、そこまでするなら予防線じゃなく法度に書けばいいのでは…?」


その方が手っ取り早くみんなに浸透するし、効率がいい気がするけど…。


「野暮な事言いやすねェ」
「鈍いな、お前」
「あれ、結局山上は知ってるんだっけか?」


土方副長を抑えていた隊士たちが少し気まずそうに、と言うにはどこか朗らかな顔つきで力を緩める。


「それじゃあ、土方さん自身も優生とくっつけなくなる。それは困りやすもんねェ、土方バカヤロー」
「書き直すのが面倒なだけだっつーの。俺は仕事が山積みなの」


顔を赤らめてポリポリと頬を書く土方副長は、初めて見る表情をしていて、


「書き直す前に籍入れちまったしよォ」


気持ちを察するには充ぶ…


ん?


今、


なんて?



ーーーーー"書き直す前に"


ーーーーー"セキ入れちまった"


セキ、


セキ?



「籍って戸籍ですかァァァァアァァァアァァアアァ???!!!?!!!?!!!!!!!」



「うるさ」
「その"セキ"以外何入れんだよ」
「そんなに驚くかね、毎度毎度…」


優生さんが怪訝そうな顔つきで、"新人隊士の恒例みたいになってません?"と周りの隊士に問う。



ーーーーー"また掛け違えてんぞ"


ーーーーー"朝から喧嘩ですかィ。犬も食いやせんぜ。いや、もう食うのか"


夫婦だった片鱗は、たしかにここに。



「"元"だから、今はなんでもないから」
「ぇ…離縁したんですか?」
「そ。だから気にしないで。さ、見廻り行ってきまーす」


時計を見ると見廻りの時間だった。

このもやもやを抱えたまま見廻り…少し、いやだいぶ気持ちを整理したいけど、そうは言ってられない。


「山上、とっとと行くぞ」
「はいっ」


今日は沖田さんと見廻りだ。


……


「あの、土方副長はその、優生さんの事まだ…」
「気になるんですかィ?優生の事」


見廻り中、隣でアイマスクをしている沖田さんに問う。
本来なら"マスクしてたら見廻れなくないですか?"とでも言うべきなのだろうけど。


「いや…離縁したのに、優生さんに男を近づかせないようにしてたみたいなので」
「あの2人は嫌い合って別れたわけじゃねーからねィ。副長の元嫁に手出そうなんて考える輩はまずいねェのに、新人が入ると特に、自分の葉っぱがかかってるって見せつけようとする、気色悪りィ野郎でィ」
「そうなんですか…」


これ以上聞いてもますます頭が混乱しそうで、何も言わなかった。

でも、土方副長は優生さんを今でも想ってるんだろう。
じゃなきゃいくらテストでも、僕にあんな勘違いをさせる必要はない。
メリットは、優生さんに近づかせないこと、だった。

そして優生さんも、今でも土方副長の存在が特別だから、2人の時にしか見せない顔を持っている。


仕事熱心でストイックなあの2人が、プライベートをわざと作っているのは、言葉にしなくても伝わるように…
いや、言葉にできないからこそ、伝わるように…
相手に"あなたを想っている"ことが、伝わるように…、だ。





その日、よくわからない切なさが、1日中胸を締め付けていた。
長い1日だった。


- 8 -


*前 次#

戻る
好きだけじゃやってけない