12


「これからどっか行くんですか?」


「フッフッフ せっかく一年が4人揃ったんだ。しかもその内2人はおのぼりさんときてる」


「おのぼり?」


「そこの2人の事だ」


「オイ何だその地方民バカにしたような目はよォあ"あん?」


ちら、と虎杖と釘崎を見て蘭に説明した伏黒は思いきりガン飛ばし顔の釘崎に田舎のヤンキーよろしく詰め寄られ彼女からフイッと顔を背けた。


「野薔薇 恵悪気ない。落ち着く」


伏黒に詰め寄る釘崎の制服の袖を掴んでそう言った蘭に彼女の動きが止まる。
ここで蘭の手を振り払うのは簡単だが仲良くしたいと言われた手前いくら釘崎とてそれはしたくなかったのだ。


「ったくしょうがないわね――いい?大体この私が重油まみれのカモメに火をつけて遊ぶような奴に馬鹿にされる筋合いはないのよ」


「――は?重油まみれのカモメ…?」


「あらすっとボケちゃって ダメよ?重油まみれのカモメに火をつける以外の遊びもしないと」


「へー伏黒ってカモメ飼ってるんだな」


釘崎の訳の分からない物言いにそっぽを向いていたはずの伏黒の顔が彼女の方に向いた。一体釘崎の言う"重油まみれのカモメ"とは何の事なのだろうか。虎杖が話に入ってきたせいでもっと話がややこしくなってきた。


とりあえずお前(虎杖)は黙れと強く思った伏黒が重油まみれのカモメの件について眉間に皺を寄せながら考えていると五条が間に入って来た。


「まぁまぁそれは置いといて。――行くでしょ 東京観光」


「ディズニーランド!ディズニーランド行きたい!!」


「バッカ ディズニーランドは千葉だろ!!中華街にしよ先生!!」


「中華街だって横浜だろ!!」


「横浜は東京だろ!!」


パァアア!!と効果音がつきそうな程テンション爆上げな釘崎と虎杖の2人は五条の周りに群がって各々行きたい場所を口にする。
もはや釘崎の脳内は伏黒に言った重油まみれのカモメの件など綺麗さっぱり忘れたようで次は虎杖と行き先について揉めている。


「それでは行き先を発表します」


五条の一言に虎杖と釘崎がすっと地面に片膝をつく。


「六本木」


六本木。その街にどんな期待を膨らませているのやら虎杖と釘崎の2人は顔を見合わせておおいに喜び合っている。


「よしアンタ!じゃない――蘭でいいわね。今日は洋服買ってデパコス買って遊びまくるわよ!」


「!うん 蘭、野薔薇とお洋服お揃い、したい」


「よし、そういうことなら私に任せなさい!ついでにディズニーランド用のお揃コーデも調達するわよ」


釘崎の提案に嬉しそうに頷く蘭。
釘崎もそんな蘭に満更でもない顔でふん、と鼻を鳴らしている。
漸く全員揃った一年生計4名とその担任1名。


彼らが向かうは大人オシャレな街・六本木!!



――――――――――――――――――――




ズズズズズズ…


「いますね 呪い」


「嘘つきーー!六本木ですらねー!」


「地方民を弄びやがって!!」


五条に連れられ来た場所は六本木
――とは程遠いいかにも呪いがウヨウヨいそうな廃墟ビルだった。


「悟、嘘つきダメ。東京観光違うなら違う言う。野薔薇と悠仁、かわいそう」


「ごめんごめん ついその場のノリでね」


「蘭も野薔薇とお揃い、楽しみだった…」


そう言ってしゅん、と寂しそうに俯いた蘭。
瞬間、五条の目は彼女の頭に垂れた犬の耳とスカートから垂れ下がった尻尾の幻覚を見た。


「蘭ちゃん…!!ごめん 僕が悪かった!後で好きなだけ洋服でも家でもなんでも買ってあげるからさ」


「いい。蘭お洋服自分で買う」


「え 待って待って!本当軽い冗談のつもりだったんだって!蘭ちゃんに嫌われたら僕生きていけないよ。ね、どうしたら許してくれる?」


フイッと顔を背けた蘭の前に回り込んでぎゅっと彼女の両手を握り許しを請う五条を見た釘崎はドン引きしながらその光景を目に映した。


「ちょっと、アレは一体なんなの?やっぱりアイツ犯罪者予備軍だったわけ?」


アイツ、と言って顎で五条を指し示した釘崎に伏黒がじわじわと込み上げてくる笑いを咳払いをして堪える。
"犯罪者予備軍"というあまりにも的を得たワードに少しツボりつつ、気を取り直して伏黒が口を開いた。


「さぁな けどいつもああだ。オマエもその内慣れるだろ」


「いや慣れるかよ」


「まぁ五条先生結婚するって言ってたしいいんじゃねえの?」


「は?誰と」


「蘭ちゃん」


「うっわマジ?キッショ」


散々な言われようの五条に伏黒はまあこれが普通の反応だよなと改めて思う。
五条の蘭に対する接し方に呆れはしていたものの、慣れとは怖いものでいつの間にかそれが普通の光景のように彼の脳が錯覚していたのだ。


しかし第三者の介入のおかげで伏黒は"普通"の感覚を思い出す事が出来た。
その点では無駄に適応力の高い虎杖だけではダメだっただろう。
現に2人の関係を見て"いいんじゃねえの?"と肯定的であるのだから。


「ハァ〜!せっかく上京してきたのに担任がコレじゃあね。まあいいわ。アンタ、あいつがあの子に変なマネしないように見張っときなさいよ」


「言われなくてもそのつもりだ」


「ねえねえ俺は?俺は何すればいい?」


「アンタは大人しくハナクソでも食ってなさい」


「ハナクソ!?なんで!?」


こうして蘭を抜かした一年3人の間で彼女を五条の魔の手から守るという謎の連帯感が生まれるのであった。


back/top