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「やっぱ俺も行きますよ」


「無理しないの 病み上がりなんだから」


「恵行っちゃダメ 悟の言う事聞く」


虎杖と釘崎の2人が廃墟ビルに呪霊を祓いに行って数分。伏黒が自分も行くと腰を上げようとした所、蘭が彼の服の袖を掴んで引き留めた。


伏黒のじとっとした目が放せと言わんばかりに蘭を見つめる。しかし蘭も負けじとその目を見つめ返した。


「そうそう 蘭ちゃんもこう言ってる事だし大人しくここで2人を待とうじゃない」


「でも虎杖は要監視でしょ」


「まぁね でも今回試されてるのは野薔薇の方だよ」


「野薔薇?」


「そ。前にもチラッと言ったと思うけど 悠仁はさ、イカレてるんだよね」


コンコン、と自分の頭を指で指しながら五条が続ける。


「異形とはいえ生き物の形をした呪いモノを 自分を殺そうとしてくる呪いモノを一切の躊躇なくりに行く」


いつものおちゃらけた雰囲気ではなく少し真面目なトーンの声色に蘭も伏黒も五条の話に耳を傾ける。


「君達みたいに昔から呪いに触れてきたわけじゃない 普通の高校生活を送っていた男の子がだ。才能があってもこの嫌悪と恐怖に打ち勝てず挫折した呪術師を恵も蘭ちゃんも見たことあるでしょ」


コクコクと頷く蘭を見て五条がニッと口角を上げる。


「だから今日は彼女のイカレっぷりを確かめたいのさ」


「でも釘崎は経験者ですよね 今更なんじゃないですか?」


「呪いは人の心から生まれる 人口に比例して呪いも多く強くなるでしょ。地方と東京じゃ呪いのレベルが違う」


蘭は重たい空気に包まれている廃墟ビル越しに虎杖と釘崎を思い浮かべた。


「…でも野薔薇なら大丈夫。悠仁も」


「本当蘭ちゃん何でかすごい野薔薇に懐いてるよねぇ ちょっと僕妬いちゃうよ?」


「冗談風に言ってますけど顔マジなのやめてもらえませんか 相手女子ですよ」


「何言ってるの恵 性別が女の子だからって安心だと思ったら大間違いだよ。蘭ちゃんの魅力は性別の垣根なんて優に超えてくるからね」


「そうですか」


「え、それだけ?もっとこう どういうとこが蘭ちゃんの魅力でどうして好きなのかとか聞いてよ」


五条の絡みに内心めんどくせえと思いながら伏黒が答える。


「別に聞かなくてもコイツのいい所なんて知ってますから」


「……へぇ〜ふーん?恵 やっぱり君蘭ちゃんの事好きでしょ 恋愛的な意味で」


「どうしてそういう事になるんですか…長いこと一緒にいるんだからいいとこぐらい知ってて当たり前でしょう」


「いーや 僕の目はごまかせないよ。でもゴメンね恵!蘭ちゃんのココ、もう売約済みなんだ」


五条は蘭の手を取りココ、と彼女の左手の薬指を指し示した。あ、もちろん買収したのは僕だよ!と言いながら五条が蘭の手の甲にスリスリと頬を寄せる。


「悟 スリスリくすぐったい。やめて」


「ええ〜蘭ちゃんのスベスベの肌を堪能したかっただけなんだけど…くすぐったいならしょうがないね」


蘭にそう言われシュンとした五条を見た伏黒は訳がわからんと言いたげに顔を歪めた。


「(…そんな落ち込むことか?)」


伏黒がそう思うのは尤もである。
しかし五条が落ち込んだ訳とは彼女の手にスリスリできなくなったからではなく、"やめて"という拒絶の言葉に軽いショックを受けただけだからであって。


「蘭ちゃん 僕蘭ちゃんがいいこいいこしてくれないとショックで死んじゃうかも」


「悟死んじゃう ダメ。いいこいいこ、元気出す!」


「ありがとう蘭ちゃん!おかげで力が漲ってきた クククッいいかい?今の僕はただの僕じゃない――元気100倍!悟マンだよ!」


「元気100倍…!悟、すごい。――あ、恵もいいこいいこしたら元気100倍なる?」


「全ッ然!!恵はいいこいいこしても元気にはならないよ!するだけ無駄だから蘭ちゃんは僕だけいいこいいこしてればいいの」


「ふーん 恵、そうなの?蘭にいいこいいこされても元気ならない?」


蘭はそう言って首を少し横に傾けながら伏黒を見た。


恐らく蘭は元気にならないと言われてショックを受けているわけでもなく、ただ疑問に思ったから聞いているのだろう。


だが質問された当の伏黒は本人に面と向かって"元気になんてならない"とは言いたくないし、そもそも大事な幼馴染みから頭を撫でられるなど少々恥ずかしい気はすれど嫌な気はしない。むしろ…



「別に……ならなくはないんじゃねえの」


自分を見上げてくる蘭を見ながら少し照れ臭そうに、だが正直な気持ちを伏黒が答えた。


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