02


「いいかい蘭ちゃん。僕はお札がついた指の回収だけだから君の同行も許したんだ。けどそれを剥がした指の回収となると話は別だよ。両面宿儺は呪いの王だ 雑魚ならともかくお札を剥がした特級呪物の回収は何が起こるか分からない。ここまでオーケー?」


五条の問いにコクコクと無言で首を縦に振る蘭。


「蘭ちゃんはさ、普通の呪術師とは別枠なんだよ。通常の呪術師にはない特別な力がある。そう、少し言い方を変えると一般的な呪術師よりもかなり目立つ存在なんだ。呪術師から見ても、もちろん呪霊側から見てもね」


五条は隣を歩く小さな蘭の歩幅に合わせながら(本人が聞いてるかは別として)尚続けた。


「僕達が呪霊を祓う時に使う呪力は"負のエネルギー" でも君の力はその反対。僕達とは対になる"正のエネルギー"で呪霊を浄化して昇華する事ができる。一見反転術式と勘違いする術師もいるだろうけどそれとは全くの別物だよ。負のエネルギーを掛け合わせない純粋な正のエネルギーだけでできた力だ。つまりだ、僕が何を言いたいかと言うと――」


「悟、それより恵危ない。早く行こう」


「…蘭ちゃん、さっきから"それより"ってさ、いくら鋼のメンタルの僕でも結構傷つくんだよ?」


伏黒が心配だと言いながら先陣を切って歩いていた蘭だったが、五条が冗談混じりに放った"傷つく"という言葉を聞くと彼女はピタリと足を止めて後ろを振り返った。


「悟傷つく、ダメ。いいこいいこ」


蘭は手で顔を覆いながら泣き真似をする(もちろん泣いていない)五条の腕をくいっと引っ張り身長差を縮めるといいこいいこ、と言いながらその頭を撫でた。


「悟、もう傷つかない大丈夫?恵も心配。けど悟傷つく、嫌。悟傷つくと、蘭悲しい」


「……あ〜、本当もう…。勘弁してよ蘭ちゃん」


「?」


「これ以上僕を惚れさせたらさ、困るのは君なんだよ。ね、それとも――もしかして分かっててそういう可愛い事してる?」


「蘭困る、どうして?悟、蘭どうして困る、教えて」


「……まいったな。んー、教えてあげてもいいけど…後で後悔しても僕知らないよ?」


五条の問いに蘭が頷く。
それを確認すると彼は一歩足を前に進めた。ただでさえ近かった距離が更に縮まり、蘭が不思議そうな顔で五条を見上げる。


見上げると、いつもは隠れているはずの碧眼と目が合った。目隠しを下にずらしたらしい五条の瞳が蘭を見つめる。

久しぶりに見たそれは、蘭の一番好きな色。どんな宝石よりも綺麗で、世界中のキラキラを集めてもきっとこんなに綺麗な色はない。そう思うほどに蘭は五条の瞳が好きだった。


一方、いつもの軽薄さはどこへやら。五条は左手で蘭の柔らかな頬に手を添え、その手をゆっくりと顎の方へ滑らせると、くいっと顔を上に上げさせ、身長差を無くすように上半身を屈めた。

ズンッ!!!


「…!!悟!」


瞬間、迫り来る五条の顔をじっと見つめていた蘭だったが突如感じた威圧感に我を取り戻した。目前に迫っていた五条の顔を両手で挟んで動きを止めればものすごく、それはものすごく不機嫌な顔の五条がそこにいた。(ちなみにいつのまにか目隠しはいつもの定位置に戻っている)


「ハイハイ、わかってるよ。とりあえず恵のとこ行こっか」


そう言うと五条は何故か蘭を抱き上げて歩き出した。その体制は、いわゆるお姫様抱っこっというやつで。


「悟?蘭自分で歩く、できる!」


「まあまあ蘭ちゃん。固いこと言わないでさ。イイとこで寸止めされたんだ これくらいは大目に見てくれてもバチは当たらないよ」


「悟、たまによくわからない。変なの」


「僕は蘭ちゃんの事なら何でも分かるけどね!あ、そうそう、それとこっちの方が恵までの最短距離だけどそれでも降りて歩く?」


「!悟、蘭抱っこしたまま、お願い」


「モチのロンだよ、お姫様」


蘭は五条に抱えられた方が伏黒への最短距離だと分かると早々に自分の足で歩くことを諦めたのだった。


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