03


五条と蘭が屋上に着くとそこには伏黒の他にも一人、桜髪の少年がいた。


しかし蘭の目には伏黒しか映っていないようで、彼女は五条の腕の中から飛び降りて伏黒の元へと駆け寄る。


「恵!」


「蘭!?なんでお前がここに…!!」


「蘭、恵心配来た!悟もいる、安心!」


怒られると思った蘭は先手を打つべく、ビッ!と後方にいる五条を指差した。伏黒は蘭が指差した先にいる人物を目に映すと安堵したような表情を浮かべて。


「(あれれ、なんか僕いいように使われてる気がするけど蘭ちゃんー?)」


そう。五条が来るまで蘭は単身で学校に乗り込んでいたのだから伏黒に言った言い訳は半分嘘だ。もう半分は確かにここまでは一緒に来たのも事実なのだが、やはり五条が来なければ一人伏黒を探し彷徨う中危険があったかもしれないのも事実で。


蘭は伏黒の傷を心配そうに見ながらもチラチラと五条の方に目配せをした。そう、それは本当のことを言わないでくれと言いたげな小動物のような瞳で。ついでに両手の人差し指でバッテンを作って口の前に持って行き五条を見つめればもちろん、色んな意味で効果はてきめんだった。


「(フフン、そんな可愛い顔して僕の鉄壁の自制心を試そうって?全くどこでそんな技覚えてきたか知らないけどここがベッドの上だったら、"禁断!教師と教え子待ったなし10連発!"なーんて事になるトコだったよ、マジで。いやー本当、危ない危ない)」



五条が一人悶々とそんな如何わしい事を考えている間、蘭はもしや自分の思いが伝わってないのかと不安な表情で五条を見つめた。
もし本当の事を告げられてしまえば伏黒が鬼のような顔で自分を怒るのは目に見えている。


「さ、悟!恵、怪我してる!手当!」


「ん?ああー、ゴホンッなるほど!……ふむ、いやーしかしボロボロにやらたね恵。面白いから2年の皆に見せよっと」


五条は何とか煩悩を掻き消そうと咳払いをした。事のついでにスマホでカシャカシャと色んな角度から負傷した伏黒を撮る。
蘭の思惑通り話を逸らすのには成功したが今度は伏黒の眉間に皺が寄った。機嫌が悪くなっている証拠だ。



「ん?なになに?なんで僕がここにいるかって?そりゃもちろん蘭ちゃんがここにいたからさ!蘭ちゃんのいるところに僕あり、だよ。わかるかい恵」


「聞いてないし…って、蘭お前五条先生と一緒に来たんじゃないのか?」


五条の言葉に引っ掛かりを覚えた伏黒はピクッと片眉を動かして蘭を見た。蘭はビクッと大袈裟に肩を跳ねさせながらもブンブンと首を横に振る。

「!ち、ちがう!蘭、悟一緒に来た!」


「……で、本当のところどうなんですか五条先生」



「クククッ うん、まあそうだね、一緒に来たよ。蘭ちゃんがさ、恵の言いつけ破って呪霊がうじゃうじゃいる学校に一人で来るわけないでしょ。ねぇ蘭ちゃん!」


「…!うん、悟言う通り!蘭、恵の約束守る!」


敢えて"ねぇ蘭ちゃん!"と言ったが恐らく、いや確実に蘭はその真意には気づいていない。一方伏黒は感づいたのか、ジトーっと訝しげな目で蘭に目をやった。


「ハイハイ!それで?今どういう状況?指は見つかった?」


パンパン!と手を叩いてそう言った五条の問いに伏黒が何とも言えないような表情で押し黙る。と、その時、こちらも何とも言えない微妙な顔付きで桜髪の少年が手を挙げた。


「あのー ごめんそれ俺食べちゃった」


五条がふざけた顔のままフリーズする。


「マジ?」


「「マジ」」


「恵、宿儺の指、美味しい?」


「美味しくない。第一食いモンじゃねーよ」


特級呪物である両面宿儺の指を食べてしまった少年・虎杖悠仁を目に映しながら素っ頓狂な質問をする幼馴染み。これは一応、念押ししておくかと伏黒が再び口を開いた。


「いいか蘭、呪物は食いモンじゃねえし美味しくもない。興味が湧いても絶対食うな。わかったな?」


「うん!蘭、呪物食べない!約束」


「そこ!僕抜きでイチャイチャしない!」


続け様に「恵!僕のお嫁さん(未来)から2m離れなさい!」などとこの場の雰囲気に似つかわしくないセリフを吐く五条に伏黒が溜息をつくのはもはや仕方のないことであったのだった。


back/top