04


「んー?ははっ本当だ 混じってるよ。体に異常は?」


「特に…」


「宿儺と代われるかい?」


「スクナ?」


「君が食った呪いだよ」


「あぁうん 多分できるけど」


「じゃあ10秒だ 10秒経ったら戻っておいで」


「でも…」


虎杖は歯切れ悪そうにそう言うと伏黒の隣に座りこちらを見ている蘭に目をやった。蘭は虎杖が何故自分を見ているのか不思議に思いながらも、取り敢えず目が合ってしまったのでなんとなく虎杖に向かって緩く手を振る。


するとその行動を見た虎杖もまた手を振り返して来た。しかもこちらは眩しい程の笑顔付きだ。伏黒はと言うと、一体何を見せられているんだという表情で手を振り合う二人を見ている。


「ああ、もしかして蘭ちゃんの心配?それなら大丈夫 僕最強だから」


第一僕が蘭ちゃんにまで危害が加わるかもしれない状況に事を運ぶわけがないじゃない。ね、恵!と伏黒に同意を求める五条だったが、伏黒は華麗にスルーを決め込んだ。


「悟、無理しない、大丈夫?」


「大丈夫大丈夫!軽く準備運動するだけだから!その間蘭ちゃんは喜久福でも食べてゆっくり見物しときなさい」


ガサッと紙袋を伏黒に投げ渡すと五条は言い忘れてたとばかりに口を開いた。


「そうそう、僕のオススメはずんだ生クリーム味だから蘭ちゃんも食べてみて!絶対ハマるから」


「後ろ!!」


「悟…!」


つい先程まで好青年風だった虎杖の雰囲気がガラリと一変した。十中八九中の宿儺と入れ替わったのだろう、伏黒と蘭が叫んだ時には既に宿儺が五条に攻撃を仕掛けている時だった。


「未来の嫁さんの前なんでね カッコつけさせてもらうよ」


「!!」


バキ!という効果音と共に五条の打撃が宿儺に入る。蘭はキュッと口を引き結びながら祈るように五条の動きを目で追った。


「7、8、9 そろそろかな」


五条がそう言ったと同時に宿儺の動きが止まる。そしてスゥ…と憑き物が取れていくかのように顔や体の模様が消えて行き、五条の指定した時間通り虎杖が戻って来た。


「おっ 大丈夫だった?」


「驚いた 本当に制御できてるよ」


「でもちょっとうるせーんだよな アイツの声がする」


「それで済んでるのが奇跡だよ」


プールの授業後、耳から水を出すような感じで側頭部をガンガンと叩く虎杖に五条が笑みを浮かべる。


あの呪いの王である両面宿儺(指一本分ではあるが)を制御できているだけでも目を見張る物であるのにも関わらず、体も特に異常なしと大して事の重大さを分かっていないその振る舞いも面白かったのだろう。

五条はトン、と虎杖の額に指を当てると早々に彼を気絶させた。


「!?」


「何したんですか」


「気絶させたの。これで目覚めた時宿儺に体を奪われていなかったら彼には器の可能性がある。――さてここでクエスチョン 彼をどうするべきかな」


「……仮に器だとしても呪術規定にのっとれば虎杖は処刑対象です」


伏黒は一度言葉を切ると虎杖から五条に視線を移し続けた。


「でも死なせたくありません」


「…私情?」


「私情です なんとかしてください」


「蘭も恵、同じ!この人、悪い人ない。悟、頑張る。蘭も、応援する!」


「フム、蘭ちゃんに応援されるなら悟、いっちょ頑張っちゃおうかな!」


「うん!蘭、悟応援する。頑張って!」


「オーケー僕のかわいいお嫁さん ついでにまあ珍しくも恵の頼みだ。2人とも安心して僕に任せなさい」


ビシッと親指を立ててキメた五条にパチパチと拍手を送る蘭。
一方でこの2人は一体何の茶番を繰り広げてるんだという伏黒の白けた眼差し。
しかしいつものことと言えばいつもの事なので伏黒は特に突っ込む事はせず。


尚も五条に拍手を送る能天気な幼馴染みとそれに乗せられノリノリで変なポーズをキメる五条を見て伏黒は自然と緩んでしまう頬に気づくと2人(特に五条)に気づかれないよう慌てて口元を押さえるのだった。


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