07


「うん 蘭ちゃんもこう見えてちゃんと呪術師だよ。ちょっと特殊な枠組みではあるけどね」


「特殊?」


「んー、その話はまた追々ね!悠仁はひとまず荷造りの準備してきちゃいな」


五条に促された虎杖は「やべ、後3時間か。何持ってこう」とぶつぶつ呟きながら一旦帰路に着いた。
そんな虎杖の後ろ姿を見ていた五条の顔に笑みが浮かんだ。


「ハハッ悠仁はフットワーク軽くていいね ああいう子は絶対出世するよ」


「出世、悟も!悟強いから出世。蘭わかる」


「そうそう!僕なんて一番の出世頭だよ お金もあるし最強だし超絶美男子だし何より蘭ちゃんを一番に想ってる。こうなったらもう旦那にするなら僕以外選択肢ないのは火を見るよりも明らかだよね!」


「悟、近い。蘭潰れる」


上半身をグーっと曲げて蘭に圧を掛ける五条。息巻いてアピールしたものの、蘭はプイッと五条から顔を背けた。が、それについて行くように蘭の顔の目の前に再び五条の顔が。


死んだ魚の目のような目でそれ(教師が生徒に迫る地獄絵図)を見ていた伏黒が2人の間に入って距離を取らせた。


「恵、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじゃうんだよ。恵は馬に蹴られて死にたいの?」


「なんでマジ顔なんですか。あんたの言う恋路は危ない感じしかしないんで仕方なく仲裁入ってるだけです。一応コイツ、俺の幼馴染みなんで」


「でた〜幼馴染みだからって異性の女の子に"コイツは俺のだから"ヅラするやつ!意外と恵もそういうキャラだったんだね」


決してそういうつもりで言ったわけではないがこの人の煽りに乗るのも面倒だ。そう思った伏黒はこれ以上この話が続かないように話を遮った。


「それよりさっきの話、出世がどうかは知りませんけど虎杖みたいなタイプは呪術師向いてそうですね。アイツ無駄に正義感強いところあるんで」


「あ、恵もそう思う?悠仁はね、僕の見立てではかなりいい呪術師になると思うんだ 宿儺の器の素質もそうだし、何よりあの子はイカれてるんだよ」


「イカれてる?」


「うん。――っとまぁ説明したいとこだけどこっちにいられるのもあと3時間!僕達には時間がない」


「時間ない?悟、今から任務ある?」


「うん 実はすごく大事な任務が入っちゃったんだ」


蘭の問いに五条は大きく頷いた。
何かきな臭いと思った伏黒、そして純粋にその言葉を信じている蘭は彼の次なる言葉を待った。


「その任務内容がなんと!実は上からの指示で詳しい事は話せないんだけど、これが蘭ちゃんにも協力してもらわないといけない案件でね」


「大丈夫。蘭、悟協力する」


「ありがとう!助かるよ じゃ早速任務といこうか」


蘭が快くOKサインを出すと五条はさも当たり前だというような顔で彼女の肩を抱いて人の賑わう方へ歩き出した。
身長差のせいで五条が少し斜めってはいるが本人はご機嫌顔だ。
そんなご機嫌有頂天な彼はクルッと顔だけ後ろの方を振り向いた。


「恵!知っての通り僕と蘭ちゃんこれからデー…じゃなくて任務だからさ!終わり次第僕達も急ぐから恵は先駅行ってていいよ」


明らかに話に嘘しかない。むしろ本当に騙す気があるのかとすら思える内容だ。どうしたらこんな適当な嘘に騙される奴がいるだろうか。そんなのは人を疑うことを知らない幼馴染みの蘭ぐらいだろう。


頭の中にお花畑が咲いている五条の事だ。相手にするだけ自分が疲れるだけなのは目に見えている。そう思いはしたが、自然と言葉が口をついて出た。


「どうせあんたの事だ 任務って言ってただ蘭と観光がしたいだけでしょう」


「やだなー僕がそんな嘘つきに見える?」


「ハァ…まぁ別に俺は観光そんな興味ないんで先に駅で待ってます」


「悪いね恵!どうしても外せない任務でさ お土産は買って行くから機嫌直して」


否が応でも観光だと認めないつもりらしい。今さら変に取り繕ったところでこの人の傍若無人ぶりは今に始まったことではないのに何をそんな任務だと言い張るのだろうか。頭の中でそう思いながら伏黒は再び口を開いた。


「いえ別に機嫌悪くないですから じゃあ先駅行ってます」


ひらひら〜と手を振る五条を見て見ぬふりをし、伏黒はクルリと駅の方に方向転換して歩き出した。


しかし数歩歩いたところで制服の背中の部分を何者かに掴まれて動きを止められた。なんだ?と後ろを振り返ってみると――



「おい蘭離せ」


「ダメ。恵も蘭達一緒 恵怪我してる。一人、心配」


「オマエに心配されるほど弱くねえよ ていうか五条先生が駄目だって言うだろ」


「悟、恵も一緒いい?蘭が恵の面倒、ちゃんと見る」


伏黒は誰が誰の面倒を見るだ、と言いたくなるのを堪えて五条の反応を伺った。
蘭の頼みであれば基本断れない五条は一体どう返すのだろうか。


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