08
「悟、恵!いちご飴」
「好きなだけ買っていいよ!食べきれなくなったら僕が食べてあげるから。ハイこれお金ね」
「悟、ありがとう。蘭、二人の分も買ってくる!」
ピラッと蘭の手に万札を持たせれば彼女はそれはそれは嬉しそうに五条に笑顔を向けた。
その屈託のない笑顔が眩しい。目隠しをしていても眩しいと感じるのだから目隠しなしで見たならそれはもう大変だろう。と五条は思った。
「何あの天使 恵、今蘭ちゃんの背中羽ついてなかった?」
「ついてません」
「いや絶対ついてたよ 僕の六眼がついてたって認識してる」
「じゃあなんで俺に聞くんですか」
「特に意味はないよ。――でも可哀想に 恵には蘭ちゃんの背中の羽が見えなかったんだね。あ、もしかして蘭ちゃんが僕だけの天使だから僕にしか見えなかったのかな?」
もう突っ込む気も起きない。伏黒は出店で大量のいちご飴を買う蘭を見ながら何か自分の中の大事なものがすり減っているような感覚を覚えた。
三人で観光をしながらブラブラ歩いている中見つけた縁日。昼間にも関わらず多くの人々で賑わっているそこは蘭を誘惑するものが沢山並んでいた。
たまたま一番最初に目をつけたのがいちご飴の出店であっただけで、甘いものに目がない蘭がこの後色々な出店(主に食べ物)に目移りするのは言うまでもない事実なのだ。
「――そういえばさっき言ってた大事な任務はどうしたんですか」
「ん?なんのこと?」
「……そんな事だろうと思ってたんでもういいです」
やはり思った通りだ。
人が死にかけてる時にお土産買うわ任務だと嘘までついて蘭と二人きりになろうとするわでロクな大人ではない。
だがしかし五条悟という男は伏黒にとっての恩人でもあるので反発しようにも匙加減が難しいところではある。彼がいなければ自分は遠い昔に禅院家に売られていた。それを阻止してくれたのが五条悟なのだ。一見軽薄そうに見えてそうでない男。
表面上、五条と蘭が結婚だなんてありえないと反対している伏黒だが、そうは言いつつも五条なら、と内心どこかで安心している自分もいる。
何せ呪術師最強の男で、金もあり地位もあり蘭を想う気持ちも十分にある。
「まあ、別に認めたわけじゃないですけど」
「え、なに恵ひとりごと?その歳でそれはちょっと早いよ…」
あらら、と口に手を当てながら哀れみの目で自分を見てくる五条に伏黒はやっぱり認めねえと考えを改め直すのであった。
翌日――――
「恵 体大丈夫?辛いない?」
「ああ それより外がうるさい。この声、虎杖と五条先生か?」
「ん、そうかも」
蘭はベッドに横になっている伏黒の頭を労るように優しく撫でた。高専に戻ったと同時に家入に治してもらったおかげもありだいぶ体が回復した伏黒は外の声に体を起こした。
「悠仁入学できた?」
「さあな 外出てみれば分かるだろ」
「蘭も行く」
伏黒が後頭部を掻きながらベッドから起き上がると蘭も親鳥の後ろをついて歩くかのようにその後に続いた。
部屋から出てみれば案の定伏黒の隣の部屋の目の前に五条と虎杖の姿が。
「げ 隣かよ。空室なんて他にいくらでもあったでしょ」
「おっ伏黒と蘭ちゃん!伏黒は今度こそ元気そうだな!!――って、蘭ちゃん今伏黒と一緒の部屋から出てこなかった?」
「?うん そうだよ。蘭、恵いいこいいこしてあげた」
「えー!伏黒だけズルい!俺も蘭ちゃんにいい子いい子して欲しい!」
「ん、いいよ」
虎杖はワクワクとした表情で撫でてくれと言わんばかりに蘭に向かって頭を突き出した。
断る理由もなかった為蘭が虎杖の頭を撫でる。その様子を見ながら五条がいつもよりワントーン低い声で静かに口を開いた。
「…恵、蘭ちゃんに"いいこいいこ"してもらったんだ?」
「(…また面倒くさいことを)」
「沈黙は肯定と受け取るけど」
「ハァ…別に俺が頼んだわけじゃないです」
病み上がりだというのに現在進行形で五条の面倒な絡みに付き合わされている伏黒の口から思わずため息が溢れた。
そもそもじゃあ今目の前で虎杖の頭を撫でてるのは許すのかと思った伏黒だがまた面倒なことになるのは避けたいが故口を噤んだ。
「僕は悲しいよ。いくら幼馴染みだからって恵が人のお嫁さんに手を出すような男だったとはさ」
そもそも手を出したか出してないかで言うと撫でたのは蘭なのでその流れからいくと手を出したのは蘭という事になる。
それ以外にもツッコミどころは満載であるが後が面倒なのでそこに一々突っ込む真似はしない。
「悟 恵いじめない」
「ヒドいなあ蘭ちゃん!ちょっとお話してるだけだよ 僕が恵をいじめるわけないじゃん」
「本当?」
「モチロン!」
ねー恵!と言いながら伏黒の顔に頬擦りをする勢いで肩を組む五条を見て蘭がそっか、と納得した。
一方、この短時間で彼らの関係性を垣間見た虎杖は同情の意を込めて伏黒に生ぬるい視線を送るのだった――