狐目の男


(次男)


これはオレが小学生の頃の話だ。オレはその日、ブラザーたちを代表してマミーの買い物についていくことになった。その当時、通り魔事件が多発していたこともあってか、マミーは「物騒ね……」と心配そうだった。

買い物に行こうといたところ、オレたち六つ子で乗り回している自転車がパンクしていて運転が出来なかった。最後に乗ったのは兄貴だったらしく「あの子は!ほんと困った子ね。なんで言わなかったのかしら!」とご立腹だった。その日は仕方なくマミーの後ろに乗って行く事になった。
その日は買う物が少なかったらしくマミーは軽々と自転車を漕いでいた。オレが後ろで鼻歌を歌いながらんびり帰宅していたら、前からもの凄い早さで自転車を漕いでくる男がいた。
マミーは何かを察知したのか、それまで鼻歌を歌っていたオレを静かに制して無言で自転車のスピードを早めた。
男はオレたちとすれ違った瞬間、急ブレーキをかけ急に方向転換し、元来た道を戻り出した。つまり、オレたちを追う状態になっている。
得体のしれない恐怖にマミーは必死で自転車を漕いでいた。オレも黙って後部シートに座っていたが、怖くなりながらも振り返って後ろから迫ってくる男を見た。これ以上オレたちを追ってくるとイバラロードに迷い込むことになるからやめときな、と制するためにな。あ、ごめんなさい。ちゃんと話します。
オレが振り返って見てみたら、ハンドルを握る男の手にはアイスピックの様なドライバーの様な物を持っている事に気づいた。オレは恐怖で思わずマミーの服を握りしめた。

男の漕ぐ自転車の速さは女のマミーが漕ぐそれより断然速く、今にも追いつきそうだった。マミーを守りたいと思いながらもオレは小学生の身の上。何もすることが出来ずただ震えていた。しかし突然、マミーが近くの駐車場に入った。
オレはマミーの行動の意味がわからなかったが、駐車場に入るとちょうどトラックのドライバーが降りて来てオレたちの側へ駆け寄って来てくれんだ。
ドライバーは、オレたちの背後から迫ってくる男の元へ寄って行った。ドライバーを見た男はまた方向転換をし、そのまま逃げて行った。
ドライバーはオレたちの所へ戻り「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた……。
どうやらただならぬ様子に気づいて降りてきてくれた様で、マミーはお礼を言い、安心させるようにオレの頭を優しく撫でた後、帰路についた。

男の顔は目が釣り上がった狐顔だった。一瞬しか見ていないのにオレは今でも覚えているし、恐ろしくて仕方ない。

後日、学校のチラシに通り魔事件の犯人の顔が出たんだ。「ひぇー、こっえーな。」と半笑いで言った兄貴の手からチラシをひったくって見てみるとその男は紛れもなくオレたちを追ったあの男だった。
その男は公園で何人もの男の子を桐で刺して捕まったそうだ。オレが見たアレは桐だった。

もし自転車がパンクしてなくて、オレとマミーが並んで自転車で買い物に行っていたら……?成人男性である今ならまだしも、その頃は小学生。スピードもないし大人に勝る体力もない。
もしかしたら被害者はオレとマミーだったかもしれないと思うと、ゾッとした。

ちなみにこの事はブラザーたちには言ってないぞ。怖がらせたくないからな。

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