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【りんね】
「眠れない」「で?」「一緒に寝ようよ」「未婚の男女がそれはなァ」「は?結婚して」「ノリで言うなっての」「いつも燐音くんが言ってくるくせに!!」エーンと軽く泣き真似をしながらスルスルと布団に潜り込むと、燐音くんはオイ!と大層慌てていた。でも、彼は私を無理やり布団から引きずり出したりすることはない。そんな確信もあって、口うるさく色々言ってくる彼を無視してぴったりひっつくと、彼の体は面白いほどに硬直した。「オーイ…勘弁してくれ」「だって…」「…マジでお前なァ」「ねぇ燐音くん背中ポンポンして」「ハァ…ハイハイ分かりましたよオジョーサン」呆れ気味に彼はそう言ったけど、背中を一定の間隔で撫でる手は優しくてあたたかい。燐音くん、私と結婚してねと呟いたら、当たり前だろと彼は笑った。「ほら、早く寝ろよ。オヤスミ、また明日な」微睡む意識の中で彼がそう言ってくれたような気がした。私がワガママを言うと、燐音くんは冗談めいたように少し咎めるけれど、でもそれに勝るくらいすごく優しく笑ってくれる。明日もちゃんとそこにいてくれるって分かってるから、つい甘えちゃうんだ。…燐音くんごめんね、私きっと明日も眠れないって言って燐音くんのところに来ると思う。だから、また甘やかしてね。
【にき】
「おまたせ〜、ホットミルクっすよ」「わぁ、ありがとう」はい!と、渡された彼とおそろいのマグカップに口をつける。ふわりと広がった心地のいい甘みに思わずほっと息を吐いた。布団に入っても寒くて眠れないと彼に言うと「ちょっと待っててね〜」と言ってささっとホットミルクを作ってくれた。彼は眠りそうだったのに嫌な顔一つせずに起きてくれた。それがあまりに申し訳なくて「ごめんね」と呟くと「謝ることなんて一つもないっすよ」と彼は微笑んだ。「僕特製ホットミルクを飲んでくれたお客様には、添い寝の特典もあるけどいかがっすか?」「ふふ、ぜひお願いします」「よ〜し、じゃあマグは明日片付けるから水にだけつけとくね」「はぁい」シンクにマグカップを2つ置いた後、彼に手を引かれて布団に入る。ぎゅっと彼にひっつくと、なはは、甘えたっすねぇなんて言って抱きしめ返してくれた。「この特典、私だけにしてね」「え?」「添い寝、私だけだからね。燐音くんもだめ」「もちろん君だけだし…燐音くんとか世界がひっくり返ってもありえないから!」燐音くんのことを言う彼の辟易した声色に思わず吹き出す。「も〜!おしゃべりはここまで、ほら寝ようね」おやすみなさいと私を撫でた彼の手に導かれるように意識が沈んでいく。おやすみなさいって、ちゃんと返事返せていたかなぁ。
【こはく】
「眠れん時は羊数えたらええらしいで」「え〜っと、そうみたいやね」「わしが数えたるからぬしはんは安心して眠り」「待って、私が寝られへんのにこはくくんが羊数えるん??」それって趣旨として合っとる?とつぶやく私をよそにこはくくんは羊を数え始める。延々と増え続ける羊に不思議な気持ちになってくる。こはくくんの落ち着いた声を聞いとると確かに眠くなってくる気がせんでもないけど、私は一体なんの朗読会に来とるんやとツッコミたくなってくる。「こはくくん、仰向けで永遠と羊聞かされるのはちょっと…せめて手繋ぐとかせえへん?」「あぁ、せやね。ほんならギュっと抱きしめたるからもっとこっち来て」「いきなり大胆やなぁ」やかましいわなんて言いながら優しく私を抱きしめたこはくくんからは、爽やかなシャンプーの匂いがする。自分と同じ香りに、思わず頬が緩んだ。私を丁寧に撫でながら「大胆になるんはぬしはんにだけやで」とこはくくんは言ったけど、そうでないと私も困る。他の女の人にここまで優しくされたらかなわんわ。「羊もええけどこはくくんと話してるほうがもっと寝れそうやわ」「それってええ意味で言うとる?」「当たり前やん。安心するってこと」「ほっか、よかった」「…ほな、おやすみ」「おん、また明日な」こはくくんを抱きしめ返すと、彼の心臓がバクバクと早鐘を打っとることに気がついた。…気づかんフリしといたるけど、こないにドキドキしとって、こはくくん寝れるんやろか。
【ひめる】
「ひめるくん、起こしてごめんね」「構いませんよ、どうしましたか?」「怖い夢みちゃって」「そうですか…隣どうぞ」「ありがとう」怖い夢をみた。得体のしれない怖い夢。目を瞑るのも恐ろしい。もう一度寝て同じ夢をみたらどうしようと思うと何もできなくなってしまって、ひめるくんを頼ってしまった。「眠れませんか?」「寝るのも怖い」「…それなら、明日の楽しいことを考えましょう」「たのしいこと」彼の言葉をオウム返しすると、彼は微笑みながら静かに頷いた。…明日はお休みだから、やりたいことはたくさんある。「朝はゆっくりしたいな。ひめるくんとちょっと遅めの朝ご飯食べてから、どこかにお出かけしたい」「では、貴女が欲しいと言っていた新作のアクセサリーを見に行きましょう」「ひめるくんがみたいって言ってた新作の本も一緒に見に行こ」「ふふ、いいですね」二人でやりたい明日のことを考え始めると、たくさん楽しみなことが浮かんでくる。さっきまで怖くて寒くて、震えて仕方がなかったのに、少しずつ体が温まってきてまぶたがゆったりと落ちてきた。眠るのが酷く恐ろしかったけど、今はもう大丈夫だ。「ひめるくんと、いっしょにいたい」眠る間際にそう呟いたけど、ちゃんと口に出せていたかな。彼が「おやすみなさい…また、明日」って声をかけてくれた気がするから、きっと届いてくれたと思うんだけど…。私の明日にひめるくんがいてくれるなら、もうどんな怖い夢だって吹き飛ばせる気がしてくるよ。