震える声で自らに命令を下した主人の言葉を聞きながら、クリーチャーは必死で考えていた。

それこそ彼が生まれたときからずっとそばで仕えて来た。彼がやろうとしていることはわかるし、その優しさも十二分に感じていたが、それでも理解はできなかった。ただのしもべ妖精である自分のせいで死に急ぐなんて!
もちろんクリーチャー自身も彼がそんなことを言い出したとき必死に止めた。しかしそれもホグワーツを首席で卒業した自慢の坊ちゃまに言いくるめられてしまう。

「もちろん君のこともそうだけど、これは僕自身の問題なんだ、クリーチャー。それにこれは父さんや母さんを守るためにも絶対にやめられない」

わかってくれるね? とクリーチャーの頭を撫でながらレギュラス坊ちゃまはそう囁いた。主人である旦那さまや奥さまを引き合いに出されてはクリーチャーも逆らえない。レギュラスの言うことに逆らうこともできないのであるが。

そうしてレギュラスはこうも続けた。

「クリーチャー、これからやることは父上にも母上にも言ってはいけないよ。…もちろん兄さんにも」

もちろん家を飛び出していったシリウス坊ちゃまになんて、クリーチャーはレギュラス坊ちゃまのやろうとしていることを伝える気は微塵もなかったから、その言葉には承諾の意を唱えた。シリウスさまのおかげで、レギュラス坊ちゃまがどれほどの苦労をなされたか。ずっとレギュラスの成長をそばで見守ってきたクリーチャーにはそんな思いがあった。

「あと彼女には……。いや、彼女にも何も告げないでくれ」

それまでずっと厳しい表情をしていたレギュラス坊ちゃまが、すうっと表情を和らげてそんなことを言い出した。
エミリ・ミヨシの名はクリーチャーも知っている。
彼女の父方の血筋であるハインツェ家はスリザリンの名家としてブラック家とも交流があったし、なによりレギュラスが認めた女性である。奥さまや旦那さまはレイブンクロー寮の彼女を渋々容認した様子であったが、クリーチャーにしてみれば、レギュラスが選んだという事実だけで、エミリのことを認めるには充分だった。

はい、と震える声で返事をしながら、クリーチャーは思考を巡らせる。レギュラスが言ったのは、これからすることを旦那さまや奥さま、シリウス坊っちゃま、そしてエミリさまに告げるな、ということだった。裏を返すなら、あるいは。そのことに気がついたとき、クリーチャーの目には一筋の光が見えた。死に急ぐレギュラス坊っちゃまを救えるかもしれない。

誰よりも想うなら



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