03

ある日の収録後、嶺二と一緒に帰宅をした。実は寮の部屋が近いのだ。同期ということもあって昔はよく遊びに行っていたけれど、龍也さんと付き合いだしてからは極力龍也さんと一緒に行くようにしている。別に何かあるわけではないし、そこまで心配しなくても良いと思うけれど、そういうものだろうか


「なーに考えてんのっ?」

「最近嶺二の部屋に遊びに行ってないなーって」

「そういえばなまえちゃんが遊びに来ないから部屋の中汚いまま...」


その理由がよくわからない。質問を声に出さない代わりにじーっと見つめていると、ギクリとしたようにぼそぼそと言い訳を始めた


「う...だってさ、人が来るならちゃ〜んと片付けようって思うんだよ?でもあまりにも来ないと、どうせ誰も来ないからこのままでもいいかなーなんて...てへっ」

「いい年して何、その怠け具合」

「ぐはっ...!!い、痛いよなまえちゃん...っ!」

「必殺、精神攻撃ー!!」

「なまえちゃん本当にやめよう、ぼくちん泣いちゃう」


長い付き合いだからか、嶺二とはこうやってふざけあえて楽しい。めそめそと泣き真似を続ける嶺二でさらに遊びつつも家へ向かうために歩みを進める。暫くすると、見覚えのある後姿が見えた


「ねぇ嶺二、あれって龍也さんかな?」

「どれどれ?うーん、多分そう!りゅー...むぐっ!?」

「しっ...ちょっと待って」


名前を叫びそうになる嶺二の口を慌てて押さえ、人影をよく見る。龍也さんの隣には女の人の影。そういえばさっきのメールでは"今日は疲れたから帰ってすぐに寝る"って言っていたのにどういうこと...?


「なまえちゃん...!」

「れい...じ...」


嶺二に手を握られて、漸く自分の手が震えていたことに気づいた。彼の手がやけに暖かく感じるのは、私の手が冷えているから?いや、手だけじゃない、身体中から体温が奪われていっているような感覚だった


「見ちゃダメだっ...!!」


私を覆い隠すように抱きしめた嶺二の肩越しに、龍也さんと女の人がキスを...して、いた


「な、んでっ...やだっ...いやぁっ!」

「なまえちゃんっ...大丈夫だよ、僕がいるからっ」

「あっ、....も、なに?やだ...っ、ぅっ」


目からはぽろぽろと涙が溢れていた。声を出して泣きそうになるのを嶺二がそっと肩に寄せて止めてくれていた。心がどんどん冷え切っていく。時間の感覚も麻痺して、どれだけ泣いたのかわからない

そして、いつの間にか龍也さんと女の人は消えていた


「れーじ、ごめんっ、変なとこ見せた...ね」

「なまえちゃんが謝ることじゃないよっ!さ、早く家に帰ろう」


もし、一人であの光景を見ていたら...そう考えるだけでゾッとした。隣に嶺二がいてくれて良かった、なんて思う私はズルイのかもしれない。ここから10分くらいの家までの道のりが、今日はとても長く感じた

私の手に熱をくれる嶺二の手だけが、今の私の頼りだった



あれ、幸せって何だっけ