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「私は...もう二度とレンの元になんて...!」

「その瞳、昔と変わらないね」

「えっ...?」


レンの顔は少し寂しげで、触れたら壊れてしまいそうなくらい。その纏う空気は、私が彼の近くにいた頃と変わらない。私もあの頃から変われているのかはわからないけれど、レンノ瞳を見ているとまた過去が呼び起こされそうだった


「一人は寂しくないのかい?」

「もうそんなの慣れたわ...ねぇレン、そんな話なら私帰る」

「焦らないでくれよ、まだこれからさ」


笑っているはずなのに、やはりその雰囲気は悲しげに纏わりついて、もはや何か言えば崩壊が始まりそうだ


「レン、私、もう過去は捨てたの...弱いままの私じゃいけないって、一人でも頑張って生きていこうって決めたの...だからこれ以上その決心を壊さないで!!」

「その決心とやらは、俺がいるだけで揺らいでしまうものなのかい?だったらそんなもの...最初から捨ててしまえばいいよ」




冷たい瞳は刺すように私を捉える


「なまえ、人は一人じゃ何もできない...だから人を欲しがるんだ、君にならそれがわかるだろう?」


「わからない...」


レンに何か言われる度、揺らいでいる自分の心も、どうしてこんなにもレンが寂しそうに話すのかも、私にこんなにも付きまとっているのかも全てがわからない。私はどうしたらいい...どうやったら正解の道に辿り着けるの?


頭をフル回転させても答えはわからなかった。私は何も口にいれることなくカフェを飛び出した。これ以上気持ちを乱されるのが嫌でレンと同じ空間にいるのが耐えられなかった。


「...早く帰ろう」


タクシーが通らないかと周りを見ると、黒い一台の車が停まる。窓が開き中を覗いてみると龍也さんが顔を出す


「送ってやる、早く乗れ」


周りの通行人に聞こえないくらいの声で言うので、あまりここに長いするわけにもいかず、考える間も無く車に乗り込む。少し走り出すと漸く口を開いた


「なまえ、...神宮寺といたのか?」

「あ...うん、少しだけ。香水の匂いでわかったの?」

「あぁ...あいつの匂いはやたら鼻につくからな」

「そうだね、...ねぇ龍也さん、レンの考えてることわかんないや」

「よくわかんねぇのは神宮寺のことだけか?」

「龍也さんには何でもわかっちゃうね...自分の気持ちもよくわからないの」


こんなタイミングで龍也さんに出会えたのも何か意味があるのかもしれない。やはり自分の口から説明しなくては、そればかりが頭の中を占める。うまく伝えられないかもしれない、けれど、きっと今しか言えない



(ねぇ龍也さん、ちょっと昔話に付き合ってくれる?)

(お前の話なら、どれだけでも聞いてやるから安心しろ)