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それからアリスは何度も王女の元へ訪れた
「翔ちゃん今日も連れてって!」
「またかよ...」
「嫌...?」
瞳を潤ませて靴屋の後ろに隠れるアリス。ウサギがこの行動に弱いことを実はよく知っている
「ったく...別にいいけどよ、早く用意しろよ!」
「えへへ、やったぁ!真斗くん、行ってくるね!」
「あぁ、気をつけて行って来い」
「翔ちゃん耳さわらせてー!」
「......っ!!!!」
いつしかこんな日常が当たり前になっていた。楽しい明るい毎日。今日もまた王女と二人で歌声をこの世界に響かせる
―ある日王女は言った
「私、アリスの作る曲本当に好きよ」
「ありがとう!」
にこにこと笑うアリスに王女は少し悲しげに言う
「だけど、そろそろ戻らなくちゃね...貴方の世界に」
「わたしの世界?」
アリスは何のことだかわからないような顔をする。ここにいる、この世界が自分の世界じゃないのかと問えば、そうではないと否定される
「もうなまえと会えないの...?」
泣きそうになりながらアリスは言う。王女は何か思いを秘めた目でアリスを見つめ、話し出す。
「アリス...貴方が大きくなって、全てを受け入れられるようになればもう一度会えるわ。だからそれまで...どうか負けないで。辛いことはここに置いていけばいい、だから貴方が強くなったら、また...」
「なまえ?」
「さぁ、もう時間よ...」
またね、なまえ
王女の声を聞きながらアリスの意識は遠くなっていった