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小さな頃、ピアノが嫌いになった時期がある。先生には毎日叱られて、叩かれて、親から言われる"頑張りなさい"。それが私にとってどれだけプレッシャーだったことか...けれど不思議な夢を見てから、そのプレッシャーも痛みも、嫌だったことも全部が無くなったように心が軽くなったんだ
「なまえ...貴方のおかげだったのね...」
「アリス、やっと思い出してくれたのね」
王女は嬉しそうな、切ないような顔をした。アリスはそんな表情を不思議に思ったが、考えても理由はわからなかった
「今から貴方に小さな頃の全ての記憶を返すわ...きっと今なら乗り越えられるはずだから...」
優しい光がアリスを包む。
アリスの頭に少しずつ、スライドショーのように過去の記憶が流れ込んでいく。甦る辛い日々の記憶に、涙が止まらない
「あの時先生が言っていたのって...期待、だったのかな」
流した涙は床に落ちては弾けて消える、それはまるでアリスが過去を乗り越えていくのを祝福するかのように
「お母さんが言ったのだって、私のっ...ため...?私のこと...嫌いになったわけじゃないの...やっと、やっとわかったっ...」
―「アリスはやっと思い出したようですね」
帽子屋はやれやれと溜め息をついて言った。それに賛同するように周りも安堵の息を漏らす
「昔から手の焼ける奴だなアリスは」
「一番の被害者は俺だけどな...」
ぽつりと言ったウサギの言葉に皆が笑みを零す
「翔だって嫌じゃなかったくせに〜」
「そうですよ翔、素直になりなサイ」
ウサギが顔を真っ赤にして叫ぶので、周りはまた笑いに包まれた。そんな中帽子屋は誰にも聞こえない声で言った
「もう、私達は必要ないですね...アリス」