05

収録までの待ち時間、楽屋で少しでも仕事を終わらす為に書類を開いていると、ノック音がした。返事をすると扉が開かれる


「お久しぶりです龍也さん」

「お前は確か...」


この前共演した他事務所の女優。演技力もそこそこあってメディアにも露出が増えてきている。そういえば台本の共演者の欄に名前があったような気がした


「芹佳です、覚えていて下さったみたいで嬉しいです」


そう言って柔らかく笑うこの女の表情が何故かなまえと似ていると思った。そういえばオフも仕事の終わる時間も合わず、ここ2週間は顔を合わせていない


「今日はよろしくお願いします。あ、あと先程共演者の皆で収録が終わったらご飯食べに行こうって話になったんですけど...龍也さんはどうされますか?」

「ほとんどの人が行くなら顔出さないわけにもいかないしな、参加すると伝えてもらってもいいか?」

「はい、わかりました!」


俺が行くと伝えると、彼女は嬉しそうに笑った。さっきからこの感じは何だろう、あまり知らないこの女となまえが被って見えるなんて


「あと、ご迷惑かもしれませんが...よかったらこれ、召し上がってください」


渡された包みの中には深いビターな色に染まった焼き菓子と缶コーヒーが入っていた


「これは...」

「龍也さん、お忙しいイメージがあって、少しでも気休めになったらなって思って。勝手に甘いものはだめかもって思って、味はほろ苦いものにしました!...ってしみません、差し出がましくて」

「いや、ありがたく食べさせてもらう。悪かったな、気ぃ使わせたみたいで」

「いえ、私がやりたかっただけなので。あっ...もうこんな時間!私行きますね」

「あぁ」


彼女の出て行ったドアを見つめ頭を抱える。どうしてこんなにもなまえを思い浮かべるのか、それ程までに会えない事に参っていたのか、自分に笑ってしまう。時計を見て、なまえに遅くなることを気を使わせないように、今日は帰ったらすぐに寝るとメールをしておいた。さて、そろそろ収録だ、と重い腰を上げてスタジオへと向かった





収録後の食事会で芹佳は俺の隣に座った。今日の収録でも絡みがあったし、他の共演者よりは話しやすい。話しながら食事をしていると、さりげなく皿を取ってくれたり、酒を注いでくれたりと、またもやなまえと同じだ、と意識してしまうことが何度もあった。

食事もそこそこに解散することになり、家が近いのもあって彼女を送って行く事になった


「アイドルにこんなこと聞いちゃだめだと思うんですが...龍也さんって彼女いるんですか?」


少し顔を赤らめて俯く彼女。恋人がいるかどうかなんて簡単にいえない。ありきたりにアイドルは恋愛禁止だ、と言えば悲しそうに笑った



「ごめんなさい、私...龍也さんが好きなんです」



だから、一度だけ.....




突き返すことだってやろうと思えばできたはずなのに、何故か受け入れてしまった



あぁ、どうして思い浮かべたお前は泣いているんだ