07

勇気はでない、けれどいつまで経ってもこの状況が変わらないのなら早く解決したい。龍也さんからのメールに返信をする。初めて自分が彼の前で使う言葉をつけて


「ねぇ嶺二...私と龍也さんどうなっちゃうのかな」

「なまえちゃん、そんなこと考えてもしょうがないよ、まだ何もわからないのに悪い方向に考えるの?」

「うぅん...そう、だよね。まだわからないよね」

「ほーら、笑って!もしダメだったら嶺ちゃんが迎えに行って慰めてあ・げ・る☆で、何ともなかったら先輩の家に泊まって、二人のあっつ〜い夜をっ...ぐっ...はっ!!」


なんだか厭らしい言い回しに思わず殴ってしまった。あ、ごめん、そんなに悪いとも思ってないけど。


...だけどこうやって慰めて、元気をくれる嶺二は本当にアイドルだなと思う。私もアイドルだけど、ファンの子をこうやって心から笑顔に出来ている自信がない。なんて場違いなことを思っていると痛みから復活した嶺二に頬をむにっと抓まれる


「もう、なまえちゃんってばまた余計な考え事してるでしょ?」

「いひゃい」

「あと3日も時間あるんだから、悩んでばっかだと今日の楽しい出来事逃がしちゃうぞ〜!」

「わかっひゃからはなひへ!」


ごめんごめん、なんて言いながらも嶺二は笑っていて悪びれもしない。いつものことだから私も何とも思わないけれど


「今日は僕も打ち合わせだから一緒に行こう」

「あー、何か最近一緒の仕事多いね」

「同期アイドルだからね!それなりに関心のある人もいるみたいだよ」

「そんなものかなぁ」

「そうそう、ほら早く行こうっ!」


嶺二に手を掴まれ、廊下をバタバタと走る。この年にしてそんな元気一体どこから沸いてくるのか。足が縺れないように必死で動かしていると龍也さんと擦れ違った。...が目を合わせてくれなかった。いつもなら"走るんじゃねぇっ!"って止めるのに、どうして?廊下の角を曲がったところで足が止まる


「わっ...なまえちゃん!?」

「やっぱり...ダメかもっ...」


なるべく考えないようにって嶺二が紛らわせてくれても、仕事をしてても、頭の片隅ではあの夜の光景が流れ込んできて心を黒く蝕んでいく。そもそも、2年も付き合った大好きな彼を見間違えるなんてありえない話だ。それでも認めようとしなかったのは、受け止められるほど私が強くないからで、問題をこれ以上先延ばしにしたって何も変わらないというのに


「なまえちゃん、泣かないで...」

「ごめっ...わた、し...」

「...っ、この部屋に入ろう」


嶺二に手を引かれ近くの部屋に入る。ダンボールが沢山積んであり、物置として使われているであろうこの部屋は人気がなかった


「3分だけ、思いっきり泣いていいよ」

「れーじっ...っ!?」

「誰にも見られないように、こうしてるから...ね」



嶺二が自身の胸に私の顔を引き寄せる。外に泣いている声が漏れないように、ぎゅっと強く抱きしめられた。


頭を撫でてくれる大きな手に、涙は溢れて止まらなかった




あぁ、もう終わりにしなきゃ