幼馴染みな天才とその先輩
「ねぇ、忍足先輩ってどんな人?」
友達がよく財前の話をする。
わたしから見れば財前は愛想がなくておまけにやる気もなくて、なのに天才とか言われているちょっと周囲から妬まれたりしそうなタイプの腐れ縁にも近い幼馴染み。
だけど友達はその財前のファンだか片思いだかよくわからないが、とにかく好意的な目で見ていて、よく財前にまつわる話をマシンガントークでぶつけて来る。
その話の中で時々ちらほらと出てくる人物がいる。
それが「忍足先輩」だ。
「忍足 謙也。クラスは3年2組。テニス部所属で髪は金髪、身長は確か、」
「お約束のボケはいらんっちゃーねん!そうやなくて、お人柄や、お人柄!」
「は、なんやお前謙也さんに惚れたんか」
「ちゃうわ。ていうかそのドン引き顔やめえ」
これはただの好奇心。目の前のドン引き顔でわたしを見て来るこの独特な幼馴染みと(友達の話では)上手くやっていけている先輩ともなれば、よっぽどいい人かなかなかのM気質をもった変態じゃないかと思うわけで。
「…ヘタレ」
「その悪口は初めて言われたわ」
「お前やないわアホ」
「え、じゃあ忍足先輩?」
ヘタレ?その部類だといい人なんだかM気質なんだかわからないな。なんて思っていたら、財前が人として浮かべてはいけない類の悪い笑顔を浮かべてこっちを見ている。
ヤバい、なにか企んでいるぞこいつ。しかも相当悪いことだ。わたしにとって。
「なまえ、謙也さんとメアド交換して来い」
「…はあっ?!なんやそれ意味わからへんしなんでやねん!」
「教えてやったんやから言うこと聞けや」
「いやいやいや、得られた情報ヘタレしかないんやけど!」
「それがあの人の全てや」
「ひどっ」
なんやかんやと口論を続けたが、結局わたしが財前に口で敵うわけがないのだと長い付き合いの中で積み上がった結果を再認識せざるを得ないだけだった。
「はよ行け」
「えええほんま勘弁してぜんざい奢ったるから」
もうすぐ忍足先輩が出てくる時間だという放送室の前でこそこそと未練がましく抵抗してみる。
早くしないと忍足先輩が出てきてしまう。本当に勘弁してくれ泣くぞ。
「お?なんや財前やないか」
「あ、来よった」
ぎゃああ来たああっ!たじたじと後ずさるわたしを財前が足を踏んずけて止めやがった。痛い痛い痛い!痛みと焦りでわたしは変な汗を垂れ流している。
「謙也さん、なんやこいつが話あるらしいっスわ」
オラ行け。踏んずけられていた足を解放されたのはいいが、わたしは財前にぐいっと前に押し出されてしまう。
目の前には忍足先輩、後ろにはきっと笑いを堪えてる財前。なにしてくれてんだこれじゃあダッシュで逃げられないじゃないか財前マジ空気読め。
「話?なんやろ」
人の良さそうな人懐っこい感じの笑顔でわたしを見てくる忍足先輩。ああこの人絶対いい人な部類の人だな。なんて今はそれどころじゃない。
「ええと…め、メアド、交換して頂けませんか」
何処まで棒読みなんだと自分でもびっくりするくらい棒読みで言い切った。あああこれで困った顔されたらどうしよう二度とこの人に会わす顔がない。会う機会があるかわからないけど。
「え、メアド?別にええよ」
そうそう爽やかに断っ…え。
その後、あまりに混乱し過ぎてメアド交換をした記憶がないけれど、あれは夢だと思い確かめたアドレス帳にはしっかりと「忍足 謙也」の名前が登録されていた。
「よかったやんか」
「え、いや、うん、良かっ…た?」
「俺に感謝してぜんざい奢れや」
「いやいやいや、無理矢理メアド交換させられといてなんで感謝せなあかんねん!」
「はっ、その内嫌でもわかるわアホ」
意味わからへんわなんやのあいつ。そう思いながらもいつもより早くて強いドキドキという音が鳴り止まないわたしはどうにかなってしまったんだろうか。
End
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