白石先輩と四月馬鹿


エイプリルフールなんていう日を作った人が、いったい何処の誰で何のために作ったのかなんて知らないが、今わたしは猛烈にその根源となる人物を殴りたい衝動に駈られている。

エイプリルフールなんかなければわたしが「ちきちきエイプリルお笑い大会in2年3組」の罰ゲームで嘘の告白なんかをするハメにはならなかったはずなんだ。

わたしはポケットに入った「ナイス☆エイプリル」の文字が書かれた紙を危うく握り潰しかけた。

「ほらなまえ!憧れの白石先輩に告白できるんやで?嘘やけど」

「頑張れみょうじ!紙出すタイミングは物陰からサインしたる!」

朝の時点から既にこの罰ゲームのために、昨年の文化祭で最も人気を集めたミスター四天宝寺である白石先輩の下駄箱に呼び出しの手紙を投下していたらしい。なんなんだこの学校。

そろそろ指定時刻だからとクラスの野次馬どもがにやついた顔で物陰にせこせこと散らばって行く。

何故よりによって呼び出し場所が体育館裏なんだ。

くそう、わたしだって特に気にしていない相手だったら「すみまっせん!はいドッキリーっ!」と明るく楽しく任務遂行できたろうさ。

でもね、気になる相手…よりによって白石先輩だなんて!種明かしをする前にばっさりフラれたら普通にショックだし、仮にオッケーもらえたとしても種明かしをしないといけないわけで…。あああどのみちわたしがこつこつと委員会とかで築いてきた関係は崩れていくんだ。

もう既に泣きそうなんだがそこの物陰のやつはみ出してるぞ。

暫く待っていると、さくさく草を踏みしめる音が近づいて来た。わたしの心臓はもういっそ殺してくれと叫ぶようにバクバクが止まらない。

「あれ、みょうじさん?」

現れたのはやはりミスター四天宝寺の白石先輩。
わたしの憧れの先輩はひどくきょとんとした顔をしている。

「はい、みょうじです」

真顔でそう答えたら物陰のやつが必死に肩を震わせて笑いを堪えてるのがわかった。誰だあいつ。

「ああ、ほな、この手紙の呼び出しはみょうじさんやったんか。体育館裏って書いてあったし、なんや危ない呼び出しなんとちゃうか思てドキドキしたわ」

はははと爽やかに笑う白石先輩にわたしがドキドキしてもーてるんですがなんて言えない。そこの物陰のやつ早くしろって目で見るな。

しかし早く用件を済まさないと白石先輩に申し訳なさすぎて胃が吹っ飛んでしまう。

だって白石先輩ジャージだもの。絶対部活の休み時間削って来てくれたんだ。ああ、どこまでミスター四天宝寺なんだ白石先輩は。とにかく頑張れわたし。白石先輩のために!

「あ、あの!白石先輩っ!」

「なんや?」

「す、す…、」

すす?」

「いや違くて…」

ツッコミ入れてる場合かわたしいい!ポケットの中にある紙を握り潰しながら深呼吸をする。これはドッキリ。エイプリルフールのほんの戯れ。

「好きです!」

言ったー!どうしよう心臓破裂するほど痛い。よ、よし、白石先輩が返事をしてくれる前に種明かしを…、

「…そういえば、みょうじさん知っとる?」

「は、え、何をですか…?」

「エイプリルフールって、嘘ついてええんは午前中だけらしいで」

「……な、ナイスエイプリル…?」

「いや、ほんまに」

ええええ聞いてないよ!ていうかわたしのポケット部分の布と中の紙がぐっちゃぐちゃなんだけどどうしよう。ちょっと早く助けてよ全ての物陰にいるやつ!

「で、さっきの返事なんやけど、」

爽やかに俺も好きやでって言ってくれた白石先輩の言葉がナイスエイプリルでないことは、これからじわじわと実感することになるのだが、物陰で騒いでるやつら、もう最初の主旨忘れてるだろ。



End




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