財前くんに助けられる


◇名前変換なし。


わたしピンチ。ああこんなピンチは学年末試験の時以来だろうか。いやしかしあれはピンチの種類が違う気がする。この種類はそう…、

「ちょっと、あんた聞いとるん?!」

ぱちんっ!皮膚と皮膚がぶつかった音が響き、わたしの左頬にかっと熱が集まるような感覚の後、じーんとぴりぴりを足して2で割ったような痛みがやって来た。

しまった、半ば状況についていけずに意識が現実逃避を始めていた。うん、全然聞いてませんでしたすみません。とりあえず心の中でそっと謝っておく。

「あんた、財前くんに気に入られたいんかなんか知らんけどな…鬱陶しいねん」

「…はい?」

財前くんに気に入られる?なんの話をしているんだろうかこのお姉さま方は。

「誤解しとるようやけどな、財前くんはあんたのことなんかなーんとも思ってへんのや」

いやいやいや、知ってますけど。いったいわたしはどの辺をどう誤解していると誤解されているんだろう。

「あんたのことなんかただの使いっぱしりとしか思ってへんっちゅーねん」

うん、そのとおりですが。というか、多分財前くんは大半の人間をそう見てるんじゃないだろうか。…流石にそれは言い過ぎとしても、甲高い声で笑う彼女たちがいったいなんの話をしているのか、未だによくわからない。

よくわからないがとりあえず今は余計なことは言うべきではないとわたしの優秀な防衛本能が告げている。

とりあえずこういう時には下を向いておこうと判断したわたし。こうしていれば相手はわたしが落ち込んだり傷ついていると思い込み、勝手に満足してくれるはずだ。

そう思ってわたしはひたすら下を向いていることに決めた。

「…おい」

うわ、男の子の声だ。いやー、ここまで声の低い女の子がいるなんて。もしくは加勢の男の子?どっちにしてもまだ帰してくれないだろうな。だってすんごく不機嫌オーラ出てるし。

自分にしかわからないように、ゆっくりそっと溜め息をつく。

「ざ、財前くん?!」

ああ、さっきの声の人は財前くんっていうのか。……ん?

「財前、くん…?」

ここでようやくわたしの視線は上を向いた。そこにはいつもより更に目付きの悪い財前くんがいた。

「あんたら、人のモンに手ぇ出してどういう了見や」

人のモンって…わたし完璧所有物扱いですか。苦笑と共に涙が出そうだよなんでたろ。

それから財前くんとお姉さま方が二言三言の言い合い…というより、お姉さま方が主になにか喚いて、気づいたらわたしと財前くんの二人だけがぽつんと取り残されていた。

「あ、ありがとう、財前くん」

「…」

あれ、わたし今お礼言ったよね。えええ無言とかどう接したらいいの。ていうか財前くんガン見なんですけど。帰っていいですか。

「怪我は」

「え?」

「怪我、しとらんのか」

「あ、うん、大丈夫」

「嘘言うなやアホ」

「いひゃいいひゃい!」

財前くんがわたしの頬を引っ張りやがった。しかもさっき叩かれた方。もう叩かれたから痛いのか引っ張られてるから痛いのかわからない。なんだこのドSは。ああいつもの財前くんか。

「…心配させんなや」

「ひゃい?」

「…」

「いひゃいいひゃいっ!」


よく聞き取れなかった言葉は、いつもの財前くんからは想像も出来ないような優しい声色だった気がする。



End




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